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死後世界触手譚  作者: 青風
帝国
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第84.5話    アーディ

「ママー!この子がいい!」

「あら、可愛い♪いいわ、パパは私が説得するから。」


透明な壁の外から、そんな声が聞こえた。

私は狭い箱に入れられ、さっき俺を見て喋っていた男の子に手渡された。

男の子は凄い速さで走る箱に乗り、私が入った箱を膝の上に抱えながらママと呼ばれた女の人と話をしている。

男の子はダミアンと呼ばれていた。


暫くすると箱は止まりダミアンは降りる。

もちろん私の箱を抱いたまま。

箱から出された私は辺りを見回した。

そこは広い場所だった。

透明な壁も無く当たり一面芝生に覆われたとても広い場所だった。


’アーディ’


それが私に付けられた名前だ。

ダミアンは私を初老の男に渡して何処かへと行った。

初老の男はセバスと呼ばれていた。

それから私はセバスに色々な事を教えて貰った。

してはダメな事、やれといわれた事をやると褒めてもらえると言う事など様々だ。


セバスの所にはダミアンが頻繁に来ていた。

たまにオクサマと呼ばれるママが来たりもした。

そして、遠目でしか見なかったがダンナサマと呼ばれる人も居た。


ダミアンはダンナサマをパパと呼んでいた。

私はパパが余り好きではなかった。

私が寄っていくと嫌そうな顔をしながら私の頭を撫でるのだ。

私は自分が好かれていないとすぐに判った。


なので、最初はパパと呼ばれる人には近づかないようにしていた。

だがセバスに「旦那様に好かれないといけない。」と叱られてからは嫌なのだろうと思いながらもパパに甘えに行った。

セバスは仕事だから私に色々教えてくれていたが、遊んでくれたりする訳ではなかった。


ある日、パパは私に「威厳が無い」と言ってジュウイという所でお金を払い私の耳を切った。

最初は痛くなかったが、時間がたつと痛み、更に時間が経つと痒みを伴った。

そんな私を見てパパは


「グレート・デーンは威厳が無いと飼ってる意味が無いからな。」


と言った。この時に決定的にパパを好きではなくなった。

だが家族というモノなので無碍には出来なかったが。

パパは誰かが来た時だけ笑顔で私の頭を撫でた。

温もりは感じられなかったがそれでも撫でられるのは嫌いではなかったので撫でてもらった。


毎日のように遊んでくれた大好きなダミアンは大きくなるにつれ私の所へは余り来なくなった。

庭でダミアンを見かけた時は、前のように来て遊んで欲しくて擦り寄っていくと撫でてはくれたが、その後すぐに大きな家に入って行った。

セバスが言うにはガッコウという所でベンキョウをしている為、忙しいのだそうだ。


大きくなってからはダミアンと遊ぶより外で散歩の途中に出会う者達と遊ぶ方が多くなった。

だが私はかなり大きい種族らしく散歩で出会う者達と最初は同じ位の大きさだったが今では見下ろすほどである。

なので傷つけないように出来るだけ力を入れずに遊んだ。


長い時が過ぎ去り体が思うように動かなくなって来た時には私を訪ねて来ていたダミアンもママも来なくなっていた。

ただ、誰かが来た時だけはパパが私を連れ出し自慢気に私を撫でながら話をしていた。

いつの頃からか私は考えるようになった。


 家族というモノは何時も一緒に居てくれるモノではないのか?


 仮初でも良い。

 もっと温もりが欲しい。


 作り笑顔でも良い。

 もっと撫でて欲しい。


 散歩で会う者達じゃダメだ。

 もっと家族で遊んで欲しい。


 もっと・・・もっと・・・


そう思いながら眠りに付いた。

起きると私は温かい場所で目を覚ました。


「起きたかい、私の赤ちゃん」


凄く大きな人のような、でも少し違う人が私を見下ろしていた。

だがそれは間違っていた。

私が小さくなっていたのだ。

しかも人のような体になって。


そして私は’ディー’になった。


私の両親は私にありったけの愛情を注いでくれた。

とても温かかく満ち足りた生活を送れた。

私はスクスクと育ち村で一番の大きな体になった。

温かく育ててくれた両親に報いる為に自分を磨き、力も村で一番になり長に選ばれるまでになった。


両親は喜び私を誇ってくれた。

嬉しかった。

これが家族なのだと思った。

ずっと続くと思われていた。


数百年ほどが経過し両親も転生していった。

次生まれ変わっても幸せな一生を過ごして欲しい。そう願う。

私は、家族が誇れる、温かかった両親が誇れる私であり続ける為に、長で居続ける為に努力した。

若い奴らが何人も長である私に挑戦したが勝てず私は長であり続けている。


そんな時、帝国という所から使者が送られてきた。

帝国とは近くにある元々人間だった者達が住む町だった。

その帝国から来た使者が私を見て「アーディか?」と言った。

私は驚愕した。

なんとその使者はパパだった。

今はベルントと名乗っているらしい。

ベルントは私と昔のように家族になろうと言ってきた。


数百年、こっちの両親も失い1人で居た私はその申し出を受けた。

私達の力を使いベルントは帝国の王にまで上り詰めていた。

私達をダシに使っているのは判っていた。

だが生前受けた恩があった。

他の者の話を聞いてると飼われる事無く死んだ者、雨露さえ凌ぐ場所も無かった者なども大勢居たのだ。

私はまだ幸せな方なのだろう。

その恩に報いる位はしないといけない。


そこからは言われるがまま働いた。

政治的な対抗勢力の要人を殺したり、魔物と言われる元人間だった者を捕まえ引き渡す。

その者達がどういう目にあっているかも薄々は判っていた。

だが、家族と言う言葉に縋り、使われる事に甘んじたのだ。


その天罰が下る時が来た。


魔王軍が攻めてきたのだ。

すぐに理由は思い当たった。

魔物を攫いすぎたのだ。

魔王というのは伝説では凄まじい者だった。

伝説通りだとすれば自分達が勝てる道理はなかった。

ここが自分の死に場所だと思い、村の皆には申し訳無いと思う。

魔物を「悪い奴だから」と言う理由で攫っているが’本当は違う’隠したまま戦う事に後ろめたさを感じる。


絶対的強者とはこの事だろう。

勝てるはずが無かった。

しかもその魔王軍は囮だという、ベルントが危ないと思った時には私は走り出していた。

イヌ族という性か、主と定めた者への忠義からか帝都へ向った。


そこは既に蹂躙されていた。

泣き叫ぶ帝都民、その民を虐殺するのは攫って来た魔物達。

魔物達は傷つき、ある者は腕を無くし、ある者は光を失っている様子だった。

初めて現実を目の当たりにし、眩暈がした。

薄々は感づいていたが本当にここまでやっていたとは・・・・。

私達が守った者はこんな者だったのか・・・・。


現実を受け止めつつ城へ向う。

足取りは重く、走れそうに無い。

やっとの思いで城に到着したが中に入ろうか迷ってしまう。


城の中ではもっと凄惨な状況の魔物達を見る事になるだろう。

それは自分の罪を見る事に他ならない。

足が動かない。


悪戯に城の扉の前で時間が過ぎる。

いきなり城の扉が開いた。

そこから出てくる人?いや、魔物だ。

後ろには先ほど会った魔王もいる。


たぶんこいつが魔王の言っていた同胞を殺めた奴だろう。

反射的に剣を抜き構える。

だが目の前の魔物はベルントの記憶を覗き、私に事実を突きつけてきた。

動揺する。

そして、「主の為か?それともイヌ族の為か?」と言ってきた。

主の為とは言えなかった。

だがイヌ族の皆に嘘をついているのでイヌ族の為とも言えなかった。

どうする事も出来ず、ただ見送る事しかできなかった。


ベルントが糸に巻かれ引きずられていく。

一言、助けてくれと言ってくれれば剣を振るえただろう。

だが、魔物が言った事が本当だと言わんばかりに目を逸らされた。

何も出来なかった・・・自分が惨めに思える。


やはり私は1人だった。


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