第84話 長 と 裏番
元人間なら嘘をついて俺と戦うという選択肢もあるだろう。
だが元動物という特性上嘘は付けないと思ったのだ。
案の定アーディは戦う決意が揺らいでいた。
剣先の揺れがそれを物語っている。
そのままアーディの横を歩いて通り過ぎる。
「もし、長として戦いたくなったら、いつでも訪ねて来い。」
すれ違いざまにそう言って通り過ぎた。
アーディは剣を下ろし悔しそうに唇を噛む。
アービーがベルントを引きずりながらアーディの隣を通る。
その時ベルントとアーディの視線が合うがベルントはすぐに視線を逸らす。
多分、バレていたと知って後ろめたさが出たのだろう。
城壁を越え町に戻るとアブドラから作戦完了の知らせが届いた。
(街の制圧がほぼ完了しました。)
(そうか、兵はどの位逃げた?)
(2000程度でしょうか、それ以外は全て殺しました。)
(そうか、それで良い。)
ワザと退路を作り少数は逃げられるように戦う。
完全包囲すると相手は死に物狂いになりこちらも手傷を負いかねないからだ。
逃げれると思わせ周りから徐々に数を減らしていけば、逃げ切れるのは少数でこちらも手傷を負わないのだ。
(レジスタンスの奴らはどうだ?)
(ダークという青年は見所がありますね、素人にしてはですが。)
(そうか、レジスタンスの主な面々を集めておいてくれ。)
(イ・・・了解しました。)
イエス・サーと言いそうになったが「それ辞めにしないか?」というのを覚えていたらしく言い直す。
まったく律儀な奴だ。
「アービー、先にそれと一緒に帰っておいてくれ。」
後ろで引きずられるベルント達を指差して指示を出す。
「あいよ!」
「コウ、シラタマ、ネロル俺達は一度レジスタンスと合流する。」
「「はい」」
「はいニャ!」
「私は?」
アムドゥスが聞いてきた。
「アムドゥスは自分の軍があるだろ?それにあの怪我していた子達をほっとくのか?」
「ん~~・・・それもそうね。」
「あの子達はとりあえずネコ村の一角に集めておいてくれ。全員な。」
「わかったわ」
アムドゥスはフワリと浮いて自分の配下達の所へ飛んでいった。
実は、アムドゥスをレジスタンスとの話には呼びたくなかったのだ。
俺達はアブドラと合流してレジスタンス達の居た家に向う。
家には既にレジスタンスの面々が集まっていた。
席に着き出してくれた水で唇を湿らせる。
一息ついた所でダークが立ち上がり礼をした。
「この度は、ありがとうございました!」
机に額を擦り付けんばかりに頭を下げる。
「別にお前達のためじゃない、礼など不要だ。」
「いえ、それでもやはり御礼を言わせてください。
これで彼女、モモと一緒になる事ができます。」
「な・・・なん・・・だと・・・」
俺は勢いよく立ち上がる。
隣のコウやシラタマも目を見開いている。
ネロルやアブドラは若干震えている。
「どうかされましたか・・・?」
「ちなみにそのモモって子はネコ族じゃないよな?」
「はい、モンスターです。
元の名前がモモコというので愛称でモモと呼んでいます。」
隣から安堵の溜息が聞こえる。
だが、その名前を勘違いしないとも限らないので俺は安心できなかった。
「いかんぞ~!それはいかんですよ~~~!」
「え?何故でしょうか?」
「お前も見ただろ、魔王のアムドゥスを。」
「はい、あれは何と言うか・・・天災とでも言いましょうか・・・」
「そのアムドゥスの元ペットが’モモ’なんだよ。」
「え・・・?」
「別人だから良いけど、もし勘違いされたら恐ろしい事になるぞ?ちゃんと’コ’を付けよう!
’コ’大事だよ’コ’!」
「わ、わかりました。モモコと呼ぶようにします。」
俺はウンウンと頷きながら席に座る。
ネロルやアブドラもウンウンと頷く。
まったく、似た名前にも程があるだろ・・・怒らせたら今度こそこの街無くなるぞ?
水を一気に煽って飲み干し一息つく。
「それで、本題だが。」
「はい。」
「この街を復興するに当たって魔王の庇護を受けないか?」
「ど、どう言う事でしょうか?」
「崇拝する神というか、影の支配者というか、裏番というか・・・」
「裏番?」
「魔王を見てどう思った?」
「恐ろしかったです。」
間髪入れずに答えるダーク。
「うん、まぁ概ねその通りなんだがな・・・」
「ですが、思っていたよりも優しいと言うか、怒らせなければ何もしてこないというか・・・
もっとこう、「全て破壊し尽す!」みたいな感じだと思っていた部分はあります。」
「うむ、そうなんだよ、一般の奴らはモンスターを怖がりすぎな部分があるんだ。
だから「そんな怖いもんでもないよ?」というアピールの為に魔王の庇護を受けている国みたいなのにして欲しいんだよ。」
「なるほど・・・」
「もし厄介事が起これば俺達やアムドゥスが介入する口実にもなるしな。」
「そうですね・・・こればかりは代表になる人によりますが、僕達は僕達なりに検討しておきます。」
「よろしく頼む。」
立ち上がり手を差し出す。
ダークの方も慌てて立ち上がりその手を握り返してくれた。
ちょっとした予想外が有りながらもこうして対話を終えエクレラントに帰還した。
エクレラントに帰還するとムズが出迎えてくれた。
今回ネコ族は必要最小限の人員しか投入していないのでムズは総大将だが連れて行かなかった。
その為暇だったらしくずっとここで待ってくれていたようだ。
忠犬ならぬ忠猫というべきか。
俺の帰還を聞きつけヴィンダーンやマルディも駆けつけてくる。
「どうじゃった?帝国は。」
「胸糞悪かったがなんとかなったよ。」
「そうか・・・」
「一応、奴隷制度を無くそうとする奴らも居たからそいつらに後を任せてきたが。」
「なるほどの・・・」
「ダークですか?」
マルディが俺に問いかけてくる。
「知ってるのか?」
「エルフの下の者から、噂程度ですが・・・」
「そうか、確かにダークの隣にはドワーフもエルフも居たな。」
「裏では繋がっていたと言う訳か。」
「そこまで深い繋がりじゃありませんけどね。
誰がトップに立っても繋がれる様にとの政治的な話です。」
「なるほどな。」
そんな話をしていると物陰からマルスが現れる。
こいつ等は普通に現れる事が出来ないのか?
「セン殿」
「ん?どうした?全員揃ったのか?」
「いえ、もう少し時間がかかりそうですので家の方で待っていて欲しいとアムドゥス様から。」
「そうか、それじゃあ、家で待ってるとするよ。
全員集まったらヴィンダーンやマルディにも声をかけてやってくれ。」
「畏まりました。」
そういって皆と別れコウとムズを連れ家へ戻る。
家に戻り縁側でムズの膝の上に乗り溶ける。
「やっぱりこうしてるのが一番良いな。」
コウに入れてもらったお茶を触手で受け取りつつだらける。
「そうですねー・・・」
コウも座布団を隣に敷いて座りお茶を飲む。
「あ、そうそう兄ちゃん」
「ん?」
「俺、ミルと子供を作る事にした。」
その言葉を聴き飛び上がる。
「やっと決めたか!」
「おめでとうございます♪」
コウも嬉しいようだ。
この所暗い話題ばかりだったが、良い知らせというのは実に気分が晴れる物である。
「と言っても、人間と違って結婚とか式とかそんなのあるわけじゃないんだけどね。」
「それはネコ族の村だった時の話だろ?エクレラントになったんだ、盛大に式をしようじゃないか!」
「そうですよねー」
コウもノリノリである。
モンスター達の受け入れが有る為すぐにとは行かないが落ち着いたら皆で盛大に祝いたいものである。
「前は、お前を去勢してたからなぁ~・・・
早く子供を見せておくれ。」
「フフッ・・・センさんそれ、おじいちゃんみたいですよ?」
コウが笑いながら指摘してくる。
実際、俺は種無しなので子供を作る事ができないし、ムズは俺の息子みたいなものだからお爺ちゃんの気分である。
ムズは照れながらも「出来るだけ頑張る」と意気込んでいた。




