第80話 無いチチ と まな板
何度か小規模の戦闘を繰り返し、城近くに到着する。
戦闘になる度、誰かが前に出て「ここは私が」的なノリで戦っていた。
多分、皆も進化した自分の強さを確かめたいのだろう。
城の入り口に到着し辺りを見回すと端っこの方にアービーによって倒された兵士で作られた山があり
その山の上で張本人であるアービーが休憩していた。
「お、旦那早かったな、急いでよかったぜ。
てか、旦那えらくファンキーなカッコじゃねぇか?」
半分だけ短パンの格好の事だろう。
「これには、マリアナ海溝より深い訳があるんだ。
余り触れないでくれ。」
「なんだそりゃ?ま、いいや。
言われた通り仕事しておいたぜ?」
「うむ、ご苦労。
実にいい仕事をしたな。」
辺りを見回し戦闘した形跡はあるものの、敵と思われる兵士も倒された兵士も居なかった。
たぶん全部この山になっているのだろう。
「アービーさんどうぞ」
とコウが水筒に入った水を渡す。
「ありがとよ!姉さん。」
「何で’姉さん’なんだ・・・?」
「え?だって、旦那の嫁さんみたいなもんだろ?一緒に住んでるし。」
違うのだが、周りから見ればそう見えるのか?
と思っていたらそこにシラタマが突っ込みを入れる。
「違うニャ、センは無いチチが好きなだけのロリコ・・・ぐえっ・・・」
触手を伸ばしてシラタマを簀巻きにする。
まだそのネタを引っ張るつもりか・・・
ネロルが巻き添えを食わないように逃げて距離をとる。
「シラタマ?何か言った?」
そこへコウが追い討ちをかける。
「ニャ・・・ニャにも・・・」
苦しそうにしながらもコウが怖いのか何も無かった事にしようとするシラタマ。
「ハハーン・・・旦那そっち系の人間かよ。
じゃあ、シヴァとかストライクじゃね?まな板だし・・・グオォ!」
そして空気を読まないアービー。
当然触手の餌食にする。
普通なら力負けするのだが、触手隷属により俺に対しては逆らえない為に力を出せずいい様に縛られる。
そして簀巻きにしたままアムドゥスの前に持っていく。
グラニはネロルと同じように巻き添えを食わないようにスススッと下がった。
「まな板って何かしら?私がセクシーすぎてって事じゃないの?」
こちらも苦しいはずなのに、アムドゥスの殺気を直に浴びて、首を振り子のトラの様にコクコクと上下する。
シラタマとアービーは似たもの同士なのかもしれない。
少しの間、触手に力を入れたりコウとアムドゥスにお仕置きされたりして二人に存分に罰を与えてから解放する。
「はあ・・・はあ・・・と、とりあえず後は城の中の敵だけだぜ・・・」
顔中、腫れ上がったアービーが’orz’状態で俺に告げる。
「そか、まぁ後は余裕だろ。」
城の門を押しながらそう言って中に入る。
中を覗くと誰も居なくて静かだった。
大広間に集まってるのか?と思い足を踏み入れた時
「てー!」という声と共に両サイドから矢が俺目掛け降り注ぐ。
まあ、そんな事だろうと思ったが不死の俺には効かない。
と思ったのだが、それより前にグラニとネロルが俺の両サイドから来る矢を全て叩き落した。
そしてコウが魔法を使って暗がりに居る弓兵を吹き飛ばし
逆をシラタマが突っ込んで虐殺する。
その様子を見て、「続けー!」という声と共に、前方の柱という柱の影から兵士が剣を振り上げ走ってくるがアービーによって粉砕される。
隊長っぽい奴は一番最初に殴り飛ばされたが加減していたらしくヨロヨロと立ち上がる。
「魔物の分際で・・・」
そこにアムドゥスが’歩いて’行く。
「あなた、奴隷にされる者の気持ち判る?」
「そんな事、知った事か!ゴミはゴミらしく我らに奉仕しておけばいいのだ!」
「・・・蛆虫が。」
さっき俺の服を焼いたレーザーの強化版だろうか?
それを隊長の手足に打ち込む。
「がああ・・・クソッ・・・こんな・・・・こんな簡単に・・・」
「そう、簡単なのよ~?あなたたちを殺す事なんてね。
でも安心しなさい?
これからは私の迷宮で飼われるのよ、そうやって地を這い回りながらいつ殺されるかわからない恐怖に怯えながら暮らすといいわ。
知能の無いモンスターも居るけど心配しないで。
腕が取れようと、足が無くなろうとその度に治療してあげるから。」
アムドゥスが冷酷な笑みを浮かべながらそう告げる。
皆は一様に心の中で手を合わせた。
(ルー、そっちは大丈夫そうか?)
(・・・うん、突入される心配も無いと思う。)
(そか、じゃあ先に奴隷を助けてから向うわ。)
(わかった)
ルーと念話で軽く話しをして奴隷の監禁場所のマッピングを教えてもらう。
「先に奴隷達を解放する。」
俺はそう言って歩き出した。
隊長だった人は蜘蛛の糸に巻かれた状態で引きずられている。
引っ張っているのはアービーだ。
煩いので顔は鼻の穴以外はぐるぐる巻きにされている。
階段を下りる時も引きずってるもんだから、一段落ちるたびに「んふっ!」と聞こえてくる。
一番下に下りた時には全身内出血だらけになっていた。同情してしまいそうになる。
そして俺達は牢のある下層に到着した。
階段を下りてから漂う異臭、昔入った事がある拷問部屋を思い出してしまう。
手前から順番に見ていく・・・コウが耐え切れずに口に手を当てて階段を駆け上がる。
「・・・やっぱりこの国、消滅させた方がよくない?」
アムドゥスが冷静に進言してきた。
(まぁ、そりゃ怒るわな・・・)
そこは思いつく限りの拷問がなされたであろう屍が、片付ける事もされずにそのまま放置されていた。
「人間が一番残酷・・・か」
口を突いて出てしまう呟き。
「私も聞いた事有るわねそれ。」
アムドゥスがそれに答える。
「快楽殺人者はともかく、過って人殺しになってしまった子もこの中には居るんだろうな。」
「そうね・・・居るかもね。」
奥の方へ進んで行くとすすり泣く声や呻き声が聞こえてきて自然と早足になってしまう。
呻き声の聞こえる牢の前に立つとそこには2名のモンスターが囚われていた。
後ろの牢を見るとそこにも2名のモンスターが囚われていた。
「アービー」
「はいよ!」
「ネロルは後ろだ。」
「はい」
2人は力に物を言わせて牢の檻を壊す。
俺が中に入っていくと羽を片方もがれたハチの様な女の子が片足を引きずりながら壁の方に逃げる。
複眼だからだろうか?どことなくアービーに似ている気がしないでもない。
体つきは人だが目や羽、額からの触覚、手足の先が昆虫特有の鍵爪、明らかにモンスターだった。
無言でその子に近づき目の前にしゃがみこむ。
女の子が片方の腕で頭を抱え込んで蹲る。
良く見ると腕も片方おかしな方向を向き壊死していた。
羽の部分はもぎ取られた後、放置されたのか膿み異臭を放っている。
足もたぶん壊死しているだろう。
「アムドゥス、サレオを呼べるか?」
「出来るわよ?必要?」
「あぁ、痛みを取ってやる事はできるだろうが、俺の腕では治せそうに無い。」
「わかったわ。」
アムドゥスは早速連絡してくれているようだ。
俺は怯えて蹲る女の子の頭を治癒を掛けた手で撫でながら「もう大丈夫。」と言ってやると全身から力が抜け気絶した。
痛みで眠る事もできなかったのだろう。
隣に居た女の子は異様に長い爪のせいだろうか、全部の指を折られ片目も抉られて居た。
相当狂気にかられて無い限りここまで出来るものじゃない。
冷静にここまで出来るのならそれは最早人ではないだろう。




