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死後世界触手譚  作者: 青風
帝国
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第77話     降伏 と 忠義心

「さてと・・・どう相手しようかしら?」


空中に浮きながら器用に足を組むアムドゥス。


「サレオ」

「はい、ここに。」


目の前に跪いて現れる。


「あのワンコちゃん達、降伏してくれないかしら?」

「はい。」

「あ、殺しちゃダメよ?」

「承知しております、全てはアムドゥス様の為に。」


そう言って消えるサレオ。

彼にはアムドゥスの希望を拒否すると言う選択肢が無い。

そんな無理難題を言われようとも叶える為に全力を尽くす。

今までアムドゥスの難題を9割を越える確率で叶えているサレオ。

例え失敗したとしてもアムドゥスは決して怒らない、その努力を知っているから。

サレオが失敗すると言う事は他の誰も出来ないと言う事だとアムドゥスも認識している。


両軍が睨みを利かせ向かい合っている。

いつ先端が開かれても不思議ではない緊張感に包まれた状態が続いていた。

その緊張感の中をサレオは1人相手の軍へ向い歩いていく。

モンスターの軍は動いていない。

サレオ1人だけがイヌ族へと向い歩いていく。

イヌ族の軍勢は約15000、その軍勢の10mほど手前で立ち止まる。


「私は魔王シヴァことアムドゥス様の配下サレオ!イヌ族の長はどなたか!」


イヌ族の軍勢に緊張が走る。

モンスターを言われるがままに狩っていた彼らの前に居るのは、噂程度だが確実に居るとされていた魔王とその軍勢だったのだ。

暫くするとイヌ族の軍が2つに別れ1人の壮年の戦士ともいうべき人物が歩み出てくる。


「私はイヌ族の長アーディ、魔王の軍がこの街に何用か?」

「我が主がこの街で奴隷として捕まっているモンスターを助け国を滅ぼしたいと仰ったのだ。」


その言葉にイヌ族のどよめきが大きくなる。


「魔物共が悪さをしない為に奴隷として養ってやっているんだぞ?」

「本当に’それだけ’なら我が主は動かなかったでしょうね。」

「どう言う事だ?」

「歯向かえない状態にしての暴行、陵辱、気に入らなければ殺す。

 と言う事を養うなどとは言わないと思いますが?」


そこで更にイヌ族のどよめきが大きくなる。

サレオは悟った、イヌ族は実態を知らないのだと。

だが、目の前のアーディだけは事態を把握していた。


「そういう事実は無い。

 それに、引く事もできん。」

「イヌ族が滅ぶ事になりますよ?」

「それでもだ!忠義の為に死ねるなら本望!」

「わかりました。」


サレオはそう言って振り返る。

そして手を大きく広げた。


「まずい!」


アーディがサレオを斬る為に駆け出した時には遅かった。

サレオを中心として大きな魔法陣が浮かび上がり強い光を放つ。

その光が少しずつ収まってきた時にはサレオは居なくなっていた。


「何をした!」


アーディが叫ぶ、が答えはすぐに判った。

後ろでドザッドザッと何かが倒れる音がして振り向くと波紋のように1人また1人と昏倒していったのだ。

その波紋は広がって行き戦力の3分の1に当たる5000ほどの兵士が眠るように倒れた。


「少し生命力を貰っただけですよ。」


上から声が聞こえたのでアーディが慌てて見上げるとサレオが浮かんでいた。


「貴様!卑怯だぞ!」

「本当の事を隠して部下を死地に向かわせるのは卑怯じゃないのでしょうかね?」

「クッ・・・」

「では言い方を変えましょうか。

 降伏しろ、命だけは助けてやる!」


サレオがそう言った瞬間、今まで感じた事のない殺気の嵐が吹きぬけた。

アーディの本能は「勝てない、逃げるべきだ」と感じたがイヌ族というズバ抜けた忠義心によりこの場に留まる事ができた。

だがそれもここまでだった。


「それは・・・出来な・・・」

「遅いわよ?サレオ。」


それは出来ない。と答えようとした所に、被せるように割って入ってきた声が聞こえた。

その声の主を見上げアーディは絶句する。

サレオは逸早く気づき地に降り跪いている。


「すみません、アムドゥス様」


サレオはこちらに背を向けアムドゥスと呼んだ少女に頭を垂れる。

その少女を見てアーディが崩れ落ちる。


「ま・・・魔王・・・」


アーディが神に祈るかの様に両膝を着いた状態で見上げる。


「その呼ばれ方好きじゃないのよね?」


ただ喋りかけられただけ、それだけでアーディが地に伏せたい衝動にかられる。


「あら?ワンちゃん達、寝ちゃってるの?」

「はい、やはり忠義心が強く説得が失敗に終わりそうでしたので幾分か寝てもらいました。」

「そう・・・?それで、この子が族長さん?」


アムドゥスが興味深そうにアーディを見る。

アーディは声を出せなかった。

一見幼い少女のように見えるが戦士であるアーディには判ったのだ。

相手が普通では無いと言う事が。


「あなた、モンスター達を奴隷にする為に捕まえてたそうね?」


イヌ族の中でも奴隷にしている事を知っているのはごく僅かであった。

更にその奴隷達が日々殺され犯され続けているのを知っているのはアーディただ1人だけだった。

だが、ここでその話を否定は出来なかった。

この少女に嘘をつくと言う事は死を意味すると理解していたからだ。

自分1人だけ死ぬのならそれでも良いのだが、同族達を巻き添えにする事は出来ない。


「そうだ・・・」

「あら、判ってたの?」

「他の皆は知らなかった事だ。」

「知らなかった事だから許してくれって?」

「虫のいい話なのは承知している・・・」

「どうしようかしら・・・?あなた以外にその話を知っている子は?」

「前に脱走者を追いかけた者達が居るが戻って来ていない・・・。」

「あら?センが殺した子達ね。」

「何!?」


アーディが思わず顔を上げる。


「私の知り合いが、追われてた子を助ける為に殺しちゃったらしいのよ。」

「そのセンという輩は今何処に?」

「あら?敵討ち?」

「同胞がやられたと聞いては引き下がれん。」


アーディが力を振り絞るように立ち上がるが膝がありえないほど震えている。


「そう、あなた達のせいで捕まって殺されたモンスターも、私の同胞になるのだけど?」


アムドゥスは殺気を孕んだ低い声をアーディに浴びせる。


「しかし、それでも・・・私は長だ・・・」


覚悟を決めたアーディはそれでも屈しなかった。

そのアーディの姿を見てアムドゥスが殺気を霧散させる。


「そう?じゃあ自分で決着つけてくれば?今から戻っても帝国は無くなっちゃってるでしょうけどね」

「なんだと!?」


アーディは驚愕する、まさか魔王自身が囮だとは思っても見なかったのだ。


「私はあなた達を足止めして欲しいって頼まれただけよ?」

「クソッ!」


アーディは踵を返し走り出した。


「良いのですか?行かせても・・・」

「いいわよ1匹位、それよりも寝かせたのは良かったわよ?」

「ありがとうございます。」

「残りは?」

「後、1万ほどですが長の居なくなった彼らには逃げるより他は無いでしょう。」

「そう、じゃあ任せるわ。」

「アムドゥス様は?」

「センの所に行って来るわ。私も少しは八つ当たりしたいじゃない?」

「判りました。」

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