第75話 温泉 と 軍議
アービーの洗脳も上手く行き一段落して家へ戻るとコウが出迎えてくれた。
コウは試合の後シラタマを送ってから戻ってきて一服していた所だったらしい。
「コウ風呂入ったか?」
「いえ、これを飲み終えたらお風呂を沸かす準備をしようかなと思っていた所ですよー」
「おし、俺考えがあるからちょっと待っときなさい。」
「わかりました。」
俺はイソイソと裏庭に回り以前作っておいた流しそーめん台のような竹を半分に割った物を裏手から風呂場に差し込む。
そこに、以前温泉地に行った所の源泉の方に入れておいた箱型刻印の片割れを取り付け魔力を流すと箱の中から源泉が流れ出てきた。
少し外気に触れてから湯船に流れ込むので少しは温度が下がっていると思う。
家の中に戻り湯船に溜まったお湯に手を突っ込んでみる。
「よしよし、ちょっと熱いけどこれくらいならいけるだろう」
そしてそのまま囲炉裏の間に戻る。
「コウ、風呂沸いたぞ、入っといで。」
「え?もうですか?」
まだ10分も経ってないのでコウが驚く。
「うむ、少し熱いかもしれんが熱ければ水入れたらいいよ。」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言ってコウは風呂場へ行った。どんな反応をするか楽しみである。
少しすると風呂場の方から「わぁ~♪」という声が聞こえてきたので上手く行ったようだ。
俺は縁側に座布団とお茶を持って向かい変身を解く。
そして溶けてみた。この姿になってから一服できてなかったので溶ける事が出来るかどうか不安だったが大丈夫なようだ。
◆
2週間ほど経過して、ルーが戻ってきたとの報告があり緊急招集をかけ会議所に集まる。
皆が席に着いた事を確認して話し始める。
「とりあえずは、ご苦労だった。」
「・・・はい」
ルーの顔色がよくない。
何かあったのだろうか?
「では、報告してくれ。」
ルーは頷いた後、帝国と呼ばれる場所の現状を報告し始めたのだが、
あまりにも凄惨なその現状に皆の表情が曇り、その表情が怒りへと変化していく。
その内容だが、
「帝国の現状ですが、奴隷制度によりモンスターの姿をした者に人権と呼べる物は無く使われ、殺され、陵辱されています。
自分が見たものでは、馬の変わりに奴隷を使い人の乗る荷車を引かせていたのですが遅いからと鞭で叩き殺す所を目撃しました。
殺された者はその場で放置され、町の役人と思われる者が別の奴隷をつれ、その死体を処分という形になっていました。
また、女性の者は帝国の地下施設に一旦閉じ込められ、幹部や兵士達の慰み者になっています。
幹部はそこで気に入った女奴隷を買う事も出来るようで幹部の家では数十の女奴隷が日々陵辱され殺されています。」
そこで一旦話が途切れたので周りを見てみると皆怒りの表情をあらわにしている。
アムドゥスは特にそういう経験の記憶を持っている為か言葉に出来ないような負のオーラまで放っている。
普段は余り表情を変えないコウですら怒りの表情で拳を強く握っている。
「イヌ族はどうだった?何かわかったか?」
「はい、イヌ族の長が帝国宰相の側近として控えており、イヌ族は主に帝国の外側の警備やモンスター狩りなどをやっているようです。」
側近ってのが宰相と繋がっているのか。
もしかすれば俺とムズみたいに元主従と言う事もありえるか・・・
「センさん、大丈夫ですか?」
不意にそんな声が聞こえる。
その声はコウだったようだ。
「ん?」
「とても怖い顔をしていたので・・・」
俺もまだまだだな。顔に出るとは・・・
「大丈夫だ。」
コウは声を抑えて言っているが、自分の拳も強く握りすぎて真っ白になっているのには気づいているのだろうか?
「ルー、続けてくれ。」
その後も凄惨な現状を報告するルー。
これ以上は必要ないと思い話を打ち切らせる。
「現状は理解した・・・それでは」
「皆殺しよ。」
さっきを孕んだ声でアムドゥスが俺の言葉を遮って呟く。
「殺すのは簡単ね。全員奴隷にして使い潰そうかしら。」
「アムドゥス、待て。」
「汚物を生かしておく理由も無いし迷宮に住むモンスターの餌にしようかしら?」
俺の声を聞かずに1人ぶつぶつと呟いている。
「アムドゥス、待てと言った!」
俺が声を張り上げると、ハッとしたアムドゥスが黙り込む。
「もちろん、そいつらは生かしておく訳には行かない。
そういう事を知っている奴等も不要だ。
だがお前1人で全滅させたとして、奴隷達はどうするつもりだ?
お前が全員引き取ってこれから先の全ての面倒を見るのか?」
その言葉にアムドゥスは思案する。
「じゃぁ、どうするっていうの?」
「内乱を起こさせる。まぁ、そこらへんは考えがある。」
ただ助けるだけで良いのだろうか?
自分で努力して、その状況を抜け出そうとしない限り、また同じ状態になった時に来るはずのない助けを待ってしまうようになるだろう。
そうならない為にも自分達でも頑張ってもらわないとな。
「ルー、敵の戦力はどの程度だ?」
「3万ほどかと。」
こっちはモンスターの軍勢を入れても5000程度いる。
「6倍か・・・何とかなるかな。それでは、作戦を説明する。」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「よし、作戦開始!」
皆が一斉に立ち上がりそれぞれの持ち場に駆けて行く。
この場に残ったのは親衛隊とアムドゥス、ヴィンダーン、マルディである。
「ヴィンダーンとマルディは本国へ俺らが帝国と戦争すると連絡入れるんだろ?」
「うむ。」
「はい。」
「動かないように言っておいてくれ。もし動いたら’巻き込む’ことになりそうだからな。」
「判った。」
「承りました。」
もし動いたら、裏切りと取るよ?と釘を刺しておく。
そしてアムドゥスだ。
「どうせ、お前の事だ。出るんだろ?」
「あら?私も戦いに出て欲しいの?」
「動かないって言うならこの町の警備無くしてもいいが?」
モモはお前らが守れるだろ?と遠まわしに言ってみる。
「・・・あんな汚物の話を聞いてじっとしてると思うの?殺しに行くに決まってるでしょ。」
「だろうな。それじゃぁ、お前達には正面からイヌ族とぶつかって貰う。」
「殺しちゃうわよ?」
「嘘だな。お前は出来るだけ殺さんよ。それにアムドゥス達ほどの実力があれば無力化は容易いだろ。」
「貧乏クジ引いちゃったかしら?」
「大丈夫だ。幹部共は全員捕まえてお前にくれてやる。」
「・・・しょうがないわね。」
アムドゥス達が囮になってくれる。
これで陽動が仕掛けられる。
そうなると戦術も違ってくるのでアブドラに念話をする。
数日前に俺の触手を喰わせたのだ。
結果すんなり適合し念話もできるようになっていた。
(アブドラ、アムドゥスの軍が囮役買って出てくれたぞ。)
(本当ですか?それはありがたいです。)
(それで言っていた件はどうなっている?)
(現在100名ほどですが集めておきました。)
(判った、ムズの所に連れて行きネロルに指揮させろ。話は通してある。)
(了解しました。)
前の試合でいい結果を残したネロルはムズの下に付かせて指揮を学んでいた。
そのネロルに軍としては小規模だが部隊を持たせ用と思いアブドラにその兵士を集めるように言って居たのだ。
ネロルは指揮のスキルを持っているので即席でも出来ると思っている。
これは希望ではなく確信に近かった。
全軍をの準備はその日の内に早々に済まし、早めの就寝になった。




