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死後世界触手譚  作者: 青風
魔王
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第66話     ムズ と アービー

ムズははしる。

より速く、より鋭く、より死角をつくように。


「だからー、無駄だだと言ってるだろ!」


それよりも速く打ち込まれる。

幸い急所は避けられている。

アービーは握力に物を言わせて心臓を抜き取るかのように攻撃してくる。

それを避ける事が出来ているのはムズの野生の感という奴だろう。

一撃を避け反撃に移ろうとすると追撃の蹴りを貰い飛ばされた。


速さじゃ敵わないと悟り思考を巡らせる。

兄ちゃんに自分がやると言った手前負ける事は許されない。

ムズがスッと手を上げる。

アービーは一瞬警戒したが力量の違いを思いそのまま突っ込む。

心臓を貫くように手を差し出すアービーに合わせるかのようにムズが蹴りを繰り出す。


「ぐぁッ!」


ムズの足が貫かれ苦悶を上げる。がムズはそれが狙いだったとばかりにアービーを捕らえる。


「それが今更何になる!」


ムズのやった事はただの足止めにすぎない。

ただし、それは戦闘での事だ。

壁の上から魔力の銃弾の雨がアービーに襲い掛かる。


「なっ・・・んだと!」


ジーが指揮する壁上の狙撃隊は、今までの試作で作ったような拳銃ではなく対戦車ライフルに改良され3人1組で魔力を注入して放つ大型銃である。


「悪いけど、これは戦争だよ?魔王さん。」


更にムズがそういうとムズの影からルーが飛び出し爪で背中の羽を切り刻む。


「・・・!」


ルーが羽を切り刻んだ後、もう一度銃弾の雨が降り注ぐ。

ムズがアービーの腕を足から引き抜き距離をとる。

魔王と云われる者がこの程度で倒せるはずが無いと確信していたから。


「クッ・・・おいおい、やってくれるじゃねえか・・・」


その確信を裏付けるかのように立ち上がるアービー。

だがその目はさっきまでの金色の複眼ではなく怒りの表れともとれるような真っ赤になっていた。

アービーの手には目に見えるほどの魔力が宿りムズ目掛け走ってくる。

羽が使い物にならないせいなのか速度はさっきよりはだいぶ遅い。

だがムズの足に空いた穴が回避をさせない。


止めようとルーが背後から攻撃を仕掛ける。

それを待っていたかのように振り向きざまにしゃがみ込んでかわして足を掴む。

そのまま思い切りムズの方にむかって投げる。

足に空いた穴のお陰でムズは動けずにルーを受け止める形になりそのまま壁に激突する。

壁が大きく凹む。


(あー・・・肋骨が何本か逝ったな。兄ちゃん無理かも。ごめん・・・)


かろうじてルーは立ち上がりムズの前に立つ。


「うざいな・・・」

「・・・」


ルーは黙って爪を構える。


「さっさと死ねよ!」


そう言ってアービーが走る。


(ごめん、兄ちゃん・・・ルーを助けられない。)


体が壁に埋もれ更に足が動かせない状況のムズにとってルーを助ける事ができないのは当たり前である。

ルーも覚悟を決めたのか走り出す。

そのアービーとルーの間で爆発が起きる。

ルーは後ろに吹き飛びまたもムズに受け止められる。


(あー・・・また1本逝ったかも・・・)


突如起きた大きな爆発。

アービーの複眼はそれを的確に捉えており回避に成功している。

煙が晴れて爆発の正体が見える。

それは巨大な斧だった。

いや、片方が斧、片方がハンマーの様な形になっており斧というには少し歪だ。

そこへ上から声が落ちてくる。


「あらよっ・・・・と」


背は高く無いが岩のような筋肉の塊が落ちてきた。


「年寄りをこき使いよってからに。センにも困ったもんじゃ。そう思わんか?」


同意を求めるように振り向いたのはヴィンダーンだ。


「とはいえ、相手が魔王なら仕方ない。・・・か。」


今度は言ってムズの手を引いて壁から引き出す。


「次から次へと・・・今度はじじぃかよ。」


それを見ていたアービーが言う。


「そうじゃ、若造。今度はワシが相手だ。」


ムズを引き出し、斧の柄を手に取って持ち上げる。

その顔を見たアービーが何かを思い出す。


「お前、ドワーフの英雄とか言われてるヴィンダーンだっけか?」

「魔王にまで名前を知られてるとは光栄じゃな。」

「魔王と1対1で戦って生きてるのはアンタくらいだからな。」

「懐かしい話だ。」

「だが今はどうかな?年寄りがしゃしゃり出てきても殺されるだけだぜ?」

「お前さん、忘れとりゃせんか?自分のやられっぷりをな。さて、話すのも飽きたじゃろ。揉んでやるから来なさい。」

「殺す!」


アービーが飛び掛る。

心臓を抜き取るように手全体に魔力を込め突き出す。

それをヴィンダーンは巨大な斧を竿でも振るかのように振るうように迎撃する。

ガギッという金属音が鳴り響き、アービーが斧の刃を掴む。

いや、掴んでいるように見える。

手に込めた魔力が切れないように防御の役割も果たしているのだ。


「チッ・・・ドワーフだけあって力は一級品だな。」

「お前さんの力も相当じゃな。万全なら負けていたじゃろうな。」


アービーが斧を放し距離をとるように飛び退く。


「まさか、これを使うとはな・・・だが、めんどくさいのは嫌だしな。」


そう言って獣のように四つん這いになり姿勢を低くする。


「俺の最大奥義「デスピア」を止められたらお前の勝ちでいいぜ。」


そう言って全身に魔力のオーラを纏う。


「ワシも本気になるしか無さそうじゃな。」


それを見てヴィンダーンも斧を振りかぶり魔力を込める。

ヴィンダーンの鎧や巨大な斧の所々に掘られた刻印が光り輝く。

まるでヴィンダーンそのものが輝いているかのように光っている。

その姿を満足そうに見るアービー。

ムズとルーが固唾を呑んで見守る。


先に動いたのはアービーだった。

アービーが地を蹴り地上スレスレを飛ぶように走る。

ムズがかろうじて目で追えるほどの早さだ。

決定された死を現実にする為の槍が飛んでいくように向って行く。


ヴィンダーンはまだ動かない。

アービーが手を頭の横に構えたように見えた刹那ヴィンダーンの斧が消える。

次の瞬間にはアービーが吹き飛んでいた。

アービーは盛大に吹き飛び木々を折って行く。


「彗星断」


ポツリとヴィンダーンが呟く。

そして地に埋もれた斧を引き抜き肩に担ぐ。

ムズが見えたのは構えた時、次の瞬間に見えたのは地に埋もれた斧。


「さすが魔王じゃな。万全じゃったら見えなかったぞ。」


ヴィンダーンは満足そうにそう言って帰って行く。

アービーに声は届かない。

気を失っているのは確かなようだがそれ以上は判らない。

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