第38話 ナイフ と 武術
触手を波打たせつつ寝返りを打つ。
モンスターの姿になり縁側で座布団の上でだらけるという最近のマイブームだ。
「センさん、どうぞ。」
コウが冷たいお茶を持って来てる。
ここは天国ですか?まぁ、死んでるのだろうからそうとも言えるんだけどね。
「ありがとう。」
そう言って起き上がり人の姿に変身する。
そしてお茶を飲む。旨い。
ここ数日間は実に平和だ。
そんな平和を打ち破る悲鳴に近い叫びがチャイムと同時に家に木霊する。
「兄ちゃん大変だ!」
ムズが外から走りこんでくる。
その脇に抱えられたニルルがグッタリしている。
「どうしたんだ!?」
ニルルの様子を見て跳ね立つ。
ニルルが苦しそうに
「む・・・」
「む?」
「ムズさんもう少しゆっくり走ってください・・・死にそう。」
「お前が原因かよ!」
と俺はムズの頭をはたく。
ニルルに俺の飲みかけだがお茶を飲ませ落ち着かせる。
その間にムズから事情を聞いた。
「で?何がどうしたんだ?」
「カツとネロルとニルルで例の採掘場に行ったらしいんですが、カツが捕まりました。」
「ん???」
はしょりすぎじゃね?
「ムズ、落ち着いて詳しく話せ。」
「す、すいません、カツ達が採掘場で採掘中にデーモンと遭遇してセンさんを連れて来いと連れ去られたらしいです。」
「は?何で俺?てか、何でカツは達は3人で採掘場に行ったんだ?」
そこでお茶を飲み落ち着いて復活したニルルが口を挟む。
「あんたが作れって言ってたバイク10台あるじゃない?あれの試運転で走らせてる最中にカツが「ついでに少し鉱石とって帰ろうぜ!」って言って行く事になったのよ。」
容易に想像ができるな。
「ふむニルル、お前は「あ、私も蜘蛛の糸欲しい!」とか言わなかったんだな?」
「べべべっべべ、べっつに今はそんな事どうだって良いじゃない!」
うん。言ったんだ。
やっぱりな。と思いつつ続きを催促する。
「そしたら洞窟に入って直ぐの所にすっごく渋いおじ様が居てね、でも大きな悪魔の羽があったから「これは危ない」と思って逃げようとしたんだけど・・・」
「逃げれなかったのか。」
「うん、気づいた時には後ろに回られてたんだけど、そのおじ様が「君達の代表は誰ですかね?」と聞いてきてね」
「それで、私がセンよ!と言ってやったわけよ。」
うん、さすが元お嬢様バカでらっしゃる。
「そしたらその人を連れてきて欲しいと言って代わりにカツとネロルが連れて行かれちゃったってわけ。判った?」
ドヤァという顔で無い胸を突き出してふんぞり返るドワーフのロリ。
手でチョイチョイと招くと「何、なんかくれるの?」と寄ってきたので結構強めにデコピンしたら後ろに転がった。
「で、どうやって帰ってきたんだ?」
「も、もちろんバイクに乗ってだけど?」
涙目で額を摩りながら答えるニルル
「は?よく事故ら無かったな。」
「アイに言われた通りに乗ったらいけたわ!」
それが出来るなら最初からやれと・・・
しかし悪魔か・・・今の話を聞く限り、そこまで凶悪な奴ではないっぽいので殺されてる事は無いだろうと一安心する。
ムズとコウに支度をするように伝え俺はカツの工場に向う。
カツの工場にはバイクが8台残っていたがそれを通り過ぎる。
カツの弟子達に心配をかけないように事情を説明しカツの部屋へ行く。
机の上には先日出来上がったばかりの新兵器が置かれていた。
それを2つ懐に仕舞い工場を後にする。
(グラニ、家に来い。)
(御意!)
グラニを呼び家に戻る。
家に戻るとグラニはもう到着しており
コウとムズも戦闘服に身を包んでいた。
「コウ、ムズ正装にしろ。」
「「え?」」
「戦いは俺の仕事になりそうだし・・・
向こうが紳士的な態度だったのなら、こっちも礼を持って当たった方がいいと思うんだ。」
「なるほど」
「判りました。」
そう言って着替えに戻る。
暫くしてコウはブルーのドレス、ムズは俺と初めて会った日に着ていた様な鎧と絹の服が混じったような物だ。
俺は頷きグラニに飛び乗る。コウとムズもそれに続き飛び乗る。
「じゃ、行こうか。」
グラニが大地を蹴り空へと駆けて行く。
「今回はどのような相手なのでしょうか?」
「さぁなぁ~・・・代表を連れて来いって位だから、かなり上位のモンスターなんだろう。」
「上位と言う事はかなり凶悪な人なのですかね?」
「どうだろ?俺達みたいに進化しただけかもしれんし、ただの人殺しでは無いだろうな。」
洞窟に着くと前にはカツのバイクが残されている。
2台で来て1台はニルルが乗って帰った物だ。
そのまま洞窟の中に入ろうとすると
『敵がいます。』
アイの忠告に気配を探ると確かに何か居るようだ。
「出てきてくれないかな?腹の探りあいは好きじゃないんだ。」
俺がそういうと岩の影から浮き上がってくる人影。
その人影はスーツ姿に身を包んでいた。
黒のシャツ、黒の上下のスーツ、黒のネクタイ、黒の革靴。
細身のサングラスをつけているがまっすぐ視線を感じる。
顔全体に髭が生えているがちゃんと整えているらしくだらしないという印象は無い。
「あなたがセンですか?」
「そうだが?御仁は?」
「私はマルスです。」
そして俺をしたから上まで舐めるように見る。
そして一言。
「なるほど、軍隊上がりか・・・」
「そうだよ、そっちは殺気の向け方から見て軍隊と言うより対個人、殺し屋か。」
「流石ですね、では少しお手並み拝見!」
そういうより一瞬早く姿勢を低くして走ってくる。
手にはナイフを持っている。
俺は余裕を持ってナイフを避ける。
こちらからは攻撃はしない。
「コウ、ムズ下がっとけ。というか、離れて見とけ。」
「どうしました?反撃しないといつまでも終わりませんよ?」
「そのナイフに塗ってる物が無ければそうしたいんだがな。」
「ばれましたか。」
「光り方見ればわかるよ。」
避ける事に専念している為容易に避ける事が出来る。
今の所は。だけどな。
マルスはナイフを器用に使い時には踏み込み時には回って遠心力を使い攻撃してくる。
相手は元殺し屋。全ての行動に攻撃可能性があるため迂闊に踏み込めない。
マルスは攻撃の手を休めない。連携を使って流れるように攻撃してくる。
その全てをかわす。
「ハハッ!ここまで避けられたのは久々だ。」
俺はかわしつつ感覚を研ぎ澄ませて行く。久々すぎて訛っていた為である。
本気の戦闘なんてこの世界に来て初めてじゃないだろうか?
マルスはナイフを突き出しつつ踏み込んでくる。
こちらも踏み込み肘で顔を当て上げその反動を利用し当てた肘の手でナイフを持つ手首を掴む。
一瞬の出来事にムズが目を見張る。
手首を掴まれたマルスは苦悶の声を出す。
「クッ・・・合気・・・いやシステマ・・・ロシアの者でしたか」
「いやフランスだ。まぁ、両方正解なんだけどな、俺のは合気も少し混じってる。」
「なるほど、参りました。」
手を離すと手首を摩りながらナイフを仕舞う。
と見せかけ蹴りを放ってくる。
その足首を力に逆らわないように上へと押し上げ体勢を崩し背中を取る。
今度こそ完全に降参だと両手を挙げるマルス。
俺もその背中から離れる。
ムズとコウが駆け寄ってくる。
「兄ちゃん一瞬でやっつけちゃうとか・・・」
「そういう技術だからな。相手も手を抜いてくれてたみたいだし。」
そう言ってマルスを見ると服を直しこちらを見ていた。
「判りましたか?」
「そりゃそうだよ、あんたは殺し屋だから姿を見せた時点で不利のはず。それにこの世界は魔法だってあるんだ、魔法を使われてたら普通に負けてたよ。」
「なるほど思った以上に出来るようですな。」
そう言って礼をしながら
「我が主が皆様を招待したいと申しております。どうかお付き合いくださいませんか?」
我が主と来たか。危険な感じがビンビンするんだが。
でも行かないとは言えないわな。カツとネロルも居るんだし。
そう思いコウとムズの方を向き頷いて
「OK、招待されましょう。」
と告げた。




