第30話 始祖様 と コウ
コウは俺に抱きついたままミーリエと一瞥する。
ミーリエは跪いたまま話し出した。
「愚息が、始祖様に無礼を働いた事は重々承知しておりますが、私に免じて許してやってもらえないでしょうか?」
重い沈黙が流れる。
先に沈黙に耐えかねたのは俺だ。
「あ~あのさ女王様?」
「ミーリエで結構です。」
俺の声にピクリと一瞬反応したが跪いたままそういう。
「んじゃ、ミーリエさん、始祖様ってどう言う事?」
「始祖様は始祖様です。」
「あ、いや、そういう事じゃなくて・・・」
「・・・」
無言ですか。そうですか。俺って嫌われてるっぽい?
「このままじゃ埒が明かないな。」
そう言って俺の首に回る腕をポンポンと叩くと首に回る腕に少し力が入る。
それ以上されたら俺死ぬと思うんだが。まぁ、背中は気持ちいいけどさ?
こういうのは何死というんだろうか?などと考えてしまう。
「・・・何故邪魔をしたの?」
コウが怒気の篭った声でミーリエに聞く。
え?今それ?そこは正気に戻る所じゃないの?
そんな事を今のコウに言えるはずも無く・・・
ミーリエは答えず再び重い沈黙が流れる。
(またこのパターンかよ・・・)
この親子は俺に何か恨みでもあるのか?
親子揃って俺がフォローするとかどうなのよ?
「もう良いんじゃないか?俺なら生きてるし。」
「センさんがそう言うのなら・・・」
にしても、今回のコウは意識もはっきりしている様だな。
首に掛かる腕を解きコウに向き直る。
そこには見事な金色に輝く光の羽が見て取れる。
「コウ、ちょっと良いか?」
「え?」
そう言って羽に触ろうとしたらバチッと音がして指が2本無くなった。
無言で指の無い手を見る。
コウも俺の指の無い手を見る。
痛みが襲ってくる。
「いって~~~~!」
「えええええ!だ、大丈夫ですか!?」
「何それ!いって・・・何それ!?」
「えええ!どうしようー」
二人共慌てる。コウは何を思ったのか俺の手を掴みフーフーと息を吹きかけてる。
民間療法じゃないんだからそれで治るわけがない。
超回復で少しずつ回復はしているのでそう見えなくも無いけどさ!
それ絶対違うから!
『一度変身を解いてもう一度変身すれば元に戻ります。』
「なるほど!」
アイのその言葉を聞いて変身を解く。
服はその場に落ちて行き中から何処かで見たことがありそうな触手のモンスターが出てくる。
「大丈夫ですか?センさん」
「うん、いけるっぽい。」
しかし、指が飛ぶとは考えなかったな。
火傷位までなら可能性として考えていたが・・・
「あ・・・」
コウがそういうと光の羽がコウの背中へと消えていき、目の充血ってレベルじゃないが赤いのも引いていった。
「始祖様、よろしいでしょうか?」
あ、忘れてた。
ミーリエが居たんだった。
ミーリエは俺とコウの一連の間ずっと跪いたままだった。
「はい、なんですか?」
「よろしければ我が城へお招きしたいのですが。」
周りを見ると人が集まってきておりコウを崇めるように見る人や
モンスターの姿になった俺を興味深げに見る人など結構な人数が居た。
「判りました。」
コウがそういうと俺の衣服と一緒に俺を抱き上げ俺はグラニを呼ぶ。
そして1人と1匹と1頭は女王に連れられ城へと向う。
流石に城に入るのにこの姿なのはどうなのだろうかと人型に戻り服を着る。
そしてコウを抱き上げグラニに乗り女王にも乗ってもらい話をする事にした。
「とりあえず、俺はセンだ。」
「コウです。」
こちらが改めて名乗ると、女王もそれに習った。
「女王をさせて頂いて居ますミーリエです。」
さっきも言って居たな。
世襲制の女王がさせて頂くとは普通は言わない。
「させて頂いてというのはどう言う事だ?
まさか、選民制って訳じゃないんだろ?」
「世襲制です。・・・ですが詳しい話は宮殿でさせて頂きたく思います。」
始祖とは?という俺の質問もスルーされていたし始祖関連の話題は宮殿で話すと言う事か。
何か訳があるんだろうけどさ。
上を見ると壁が見える。
最初に入った町の奥側に聳える壁は最初の壁よりも高く10mほどあるだろうか?
ふとグラニの足音が代わったので下を見る。
下を見ると石畳になっていて、かなりの巨馬であるグラニが踏んでも石畳が割れる事は無い。
壁を1つ抜けるとそこには2階建ての現代風の家が立ち並んでいた。
建築技術の高さが伺える。
家々は規則性のあるように立ち並ぶがおかしな所で行き止まりになっていたりする。
(アイ、見えている部分で良いからマッピングを埋めて表示してくれ。)
『YES:マスター』
俺の頭の中にマッピングが表示され、俺の推論が正しいであろうと言う事がわかる。
「この壁も町並みも合わせて1つの魔方陣になっているのか?」
「お分かりになりますか?」
「やっぱりそうか、どういう機能があるか聞いても?」
「皆さんも通られた感知魔法の魔法陣になります」
淡々と無表情で俺の質問に答えるが目線はコウを捕らえて居るのは判る。
コウはそれを判っているのか、居心地が悪そうに俺の後ろへ隠れるように座る。
(アイ、広域マッピングは出来るか?)
『詳細を除けば可能です。』
(じゃぁやっといて俺らの町にもそういうのが欲しいからさ。)
『YES:マスター』
アイにそう命じて暫く魔法という物についてミーリエと話し色々な魔法がある事を知った。
ドワーフの町で見ていた光の魔方陣とかがあるのだからあまり驚きはしなかったが、日用に使うような魔法がかなり多岐にわたってあるらしい。
常時火を出す魔法、強度を上げる魔法、蛍光灯の様にオンオフが出来る魔法。
何千種類という魔法があるらしいのだが常駐型の魔法はどれも精霊の力を借りるらしい。
その精霊を使役する、精霊魔法は契約するのではなく、魔法陣を作りそこに召喚し定期的に魔力を注ぐのだとか。
そんな話をしているとまた壁を抜ける。とそこには城が聳え立つ。
それよりも気になったのが城の後ろに御伽噺にでも出てくるかのような巨木が生えていたことだ。
俺らの洞の側の巨木よりも遥かに大きいその木はマッピングで見るとその巨木は国のちょうど中心に位置していた。
その木に寄り添うように立てられた城も何年も経っているとは思えないほどで白い城壁に水色の屋根の城だった。
「こちらへどうぞ。」
グラニから降り執事服に身を包んだエルフにグラニを預ける。
その執事は女王に対して一礼した後コウに対しても一礼する。
俺には無かった。
城の扉を女王自らが開けるとそこには30人ほどのメイドと執事が並んでおり
「「「「「お帰りなさいませ。」」」」」
と一斉に頭を下げたのだが、どうも女王にというよりコウに言っているように聞こえた。
エルフのメイドってのもちょっと憧れるなぁ~などと考えつつ女王の後についていく。
エントランスは見上げるほどでドワーフの洞窟くらいの高さがあるように思う。
シャンデリアは高い位置にあるので判り難いがかなり大きいようだ。
女王は服を着替えるとの事で別れる事になったが代わりに老齢の執事姿のエルフが応接室へと案内してくれた。
応接室へ入る時に老齢な執事が「お待ちしておりました。」とコウに言っていた。
やはりさっきのお帰りなさいませもコウに対してなのだろう。
中に入ると革張りの椅子にガラスで出来た机、一番目を引いたのは壁一面に大きな絵が飾られておりその絵を見て全てを理解した。
絵に3対6枚の羽が生えたショートカットのエルフが描かれており、何か大きな魔物と戦っている風景だった。
コウもその絵を食い入るように見ている。
そのまま呆けていても埒が明かないのでコウを誘ってソファーに座る。
座りながら絵や周りを確認しているとノックが聞こえる。
「はい、どうぞ」
そういうとメイド姿のエルフが紅茶の乗ったワゴンと一緒に入ってくる。
俺達の隣に来たメイドは「レモンにしますか?ミルクにしますか?」と聞いてくる。
超VIP待遇すぎませんかね?
コウを見るとまだ絵を食い入るように見ていて聞いてないようだ。
女の子って確かミルクティーだったよな?と何処かの雑誌で得た知識をフルに動員して
「じゃぁミルクティー2つで。」
そう言って出された紅茶を飲む。
アッサムに近い感じの茶葉で風味が強くミルクと合う。
こっちに来て初めてじゃないだろうかというほど美味しかった。
メイドに「ありがとう」と告げると一礼して出て行った。
「コウ、あの絵がそんなに気になるのか?」
「え?あ・・・はい・・・」
「まぁ、色々思う所はあるだろうが俺からすればコウはコウだ好きにすればいいよ。それより、美味しいから飲んでみ?」
そう言ってミルクティーを薦めるとおずおずと口をつける
「ほんとだ、美味しい。」
それからは落ち着いたようだ。
コウとシラタマ達やムズの事を話をしてしばし過ごす。
ノックが鳴り、返事をする。
するとイブニング風のドレスに着替えたミーリエが入ってきた。
そして俺らの前で一礼して座る。
「お待たせしました。」
「そんなに待ってないからそんなに恐縮しないでくれ。
あ、今更だが俺はあんまり堅苦しい言葉遣いが好きじゃないのでこれでいいか?」
「結構ですよ」
一応了承を取っておく。
今まで散々タメ口を聞いていたがあまりの場違いさもあり敬語にしようかとも思ったが気を使いすぎるのも話がこじれそうだと思ったからである。
無理に敬語使ってもボロが出そうだしな。
「あの絵ですが・・・」
コウがいきなり核心となる話題を口にする。
声をかけてからは普通に振舞っていたが内心は気が気じゃなかったのだろう。
まぁ、判らんでもないがね。
「あれは始祖様の絵です。
6枚の羽を持ち、この世界を輪廻の輪から外そうとした悪魔との戦いの時を描いた物と言われています。」
「輪廻の輪か。」
「はい、この世界は生前の記憶を持って生まれる人が多いので死後の世界と言われています。」
それは聞いたな。
だが輪廻の輪か・・・面白い方向に話が流れたな。
そう思いながらミーリエを見る。
「この世界には15人の魔王と20匹の神の名を持つ魔物の王が居て両陣営が勢力を削り合って均衡を保っていると言われており、私共エルフの始祖様はその20匹の神の名を持つ魔物を率いて魔王の軍勢を打ち破ったとされています。
そして、これはこの国の昔話にもなっていますが昔話の始祖様は最初、1対2枚の羽しか持っておりません。
従える魔物の数が多くなるとその羽が増えていくと言った内容なのです。」
なるほど、だからこの絵とコウの羽の枚数が違ってもあれだけ敬っていたのか。
「そして、この国は始祖様から私の先祖がお預かりしていた国。
時が来れば始祖様にお返しするようにと代々言われていたのです。
始祖様がここに姿をお見せになったのであれば今がその時と存じます。
どうか、この国と善良な民をお導きください。」
そう言ってミーリエが座ったまま深く頭を下げる。
コウをちらりと見るとものすごく困った顔をしている。
だよね~いきなり国をあげるって言われても困るよな。
静寂が包む、ミーリエはずっと頭を下げ続けている。
「お断りします。」
ミーリエがハッと顔を上げる。
コウはミーリエの顔を見ながらもう一度
「お断りします。」
とはっきり口にした。
「何故、とお聞きしてもよろしいですか?」
まぁ理由は欲しいよね。
今まで長い間待っていたのだろうしそう簡単に納得は出来ないだろうな。
「魔王とか魔物とか世界とか話が大きすぎます。
私はセンさん達と楽しく暮らせればそれだけで十分です。
国なんて要りません。」
ときっぱりと拒否の意思を明確にするコウ。
嬉しい事を言ってくれる。かわいいやっちゃなぁ~。
「私達を導いてくださらないのですか?」
否定の意思を見せられても食い下がるミーリエ
「私が仮に始祖様だとしてその始祖様だった時の記憶とかありませんし、今回も上手くいく保障など何処にもありません。
そんな私が失敗して全滅したとなったらその責任は誰が負うのでしょうか?
それに、今の話でも始祖様は導いたわけでは無いように思いますよ?
今の話を聞いて、始祖様はただ単にこの世界が輪廻の輪から外される事により自分の大切な人が悲しむから相手を倒しただけだと思いました。
私にも大切な人、家族が居ますから多分そうじゃないかと思うのです。
私は私の大切だと思う人に対して力を使いたいです。」
そう言ってコウはこっちを向きニコリと笑う。




