第07.5話 兄ちゃん
とある一室にある大仰な机と椅子
その椅子に腰掛け机に肘を突き深く思いだす。
自分の前世を。
オレは猫だった。
両親は家猫で5匹の末子として生まれた。
オレ達は生まれてすぐに箱に入れられ外の広い所に連れて行かれた。
捨てられたのである。
水が降って来て兄弟と共に箱の隅で必死に親を呼んだ。
兄弟達も必死だった。
もちろんオレも必死だった。
空腹と寒さに震え兄弟達と身を寄せ合い半分だけ開いた箱から見える空を見ながら必死に呼んだ。
「お腹すいたよ!寒いよ!お母さん!誰か!」
どの位叫んだのだろうか、もう呼ぶのを辞めている兄弟も居た。
オレは諦めきれないので呼んだ。ずっと呼び続けた。
1人の人間がオレ達を覗き込んだ
「酷い事をするわね・・・」
そう言ってオレ達抱き上げた。
オレ達はその暖かい胸に必死にしがみついた。
爪が引っかかって上手く抱きつけないがとにかく必死だった。
助けられた。そう思った。
そこは暖かい所だった。
温かい水を掛けられたがすぐにふわふわの布で拭き取られ温かい風が出る機械で体を温められた。
ご飯もいっぱいくれた。
白い液体で細い管から少しずつしか出ないのがもどかしかったが満腹になるまでくれた。
寝る場所も暖かかった。
温かい水を透明な入れ物に入れてフワフワの布で巻いたのを寝る場所においてくれたので兄弟達と身を寄せ合いながら毎日をすごした。
それからしばらく経つと知らない人間が来た。
オレらを抱き上げて「可愛い~」とか言っている。
来た人とオレ達を助けてくれた人が話をしている。
「ちゃんと最後まで育てられますか?」
「はい、今までも何度か飼ってたので」
そういうやり取りだったがその頃は全然意味がわからなかった。
そういう人たちが来る度に兄弟が1人また1人と減っていった。
何日も遊んだ兄弟が居なくなって行き1人で遊ぶようになった頃運命の出会いがあった。
いつものように誰かが来た。
「この子ですか」
そう言って抱き上げられた。
ふわっとその人の匂いがし直感で「あ、この人好きかも」と思った。
その人の顔の近くに行きたくて服をよじ登る。相変わらず爪が邪魔だ。
ようやく肩まで上って首に擦り寄る。ああ、温かい。
「くすぐったいよ」
そう言って下ろされたがもっとその温かさに触れて居たくてその人の足によじ登ろうとした。
その人は、オレを助けてくれた人と話をしていた。
「こいつをください」
「大丈夫ですか?ずっと面倒見れますか?」
「はい、大丈夫です」
そうして、オレはその人と一緒に暮らす事になった。
家には別で女の人が二人居た。
その人は家では兄ちゃんと呼ばれていた。
女の人の1人はかあさんと呼ばれもう一人はマリと呼ばれていた。後から理解したが妹だった。
最初のうちはトイレの場所を間違えたり薄い白い紙が付いた扉の白い紙を破ったりして怒られたけどそれ以外は優しかった。
大きくなってからもミーミーうるさい虫や家の窓に張り付いてるトカゲなんかを取った時に見せに行ったら怒られたけどそれ以外は優しかった。
幸せだった。
空腹に悩まされる事も無く家の人が居ない時間も有ったけど、居る時は皆が撫でてくれたり一緒に寝たりととにかく一緒に居た。
一番好きだったのは兄ちゃんの膝の上で寝てるときだ。
とにかく安心できたから。
兄ちゃんに会えて幸せだった。
ずっと一緒に居るものだと思っていた。
でも、ずっとは続かなかった。
兄ちゃんが寝てるオレを見て泣いてる。
かあさんも泣いてる。
マリは結婚とかいうので居なくなってたんだけど昨日オレを見て泣いていた。
オレは眠かったが寝たら起きられないような気がしたから寝たくない。
兄ちゃんもっと遊ぼうよ、手を伸ばしたいけど伸ばせない。
動かそうと思っても少ししか動かせない。
膝に座りたくても起き上がれない。
「寿命だから仕方ない。」
「20年も一緒に居てくれたんだ。」
そんな言葉が聞こえたが、オレはもっと一緒に居たい。
怒ると怖いけど普段は甘えれば甘えるだけ答えてくれる。
そんな兄ちゃんがいつもより優しくオレを撫でる。
この手が大好きだ。
だけど、今はやめて欲しい。
撫でられる度に眠気が増してくる。
ああ、もうダメだ・・・
兄ちゃん起きたらまた遊んでね・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
起きるとオレはまた小さくなっていた。
周りには兄ちゃんもかあさんも居なかった。
上手く言葉が喋れない。
時が経ちオレは死んだのだと判った。
兄ちゃんみたいに2本足で立って歩けてる。
ある時、喧嘩で負けた。
前世では喧嘩の時は家に逃げ帰り兄ちゃんの後ろに隠れたりしてやり過ごしたがここには兄ちゃんは居ない。
オレは強くなろうと思った。
誰よりも強く、兄ちゃんが心配しないくらい強くなろうと思った。
今では村で一番強くたくさん居る警備隊の隊長にまでなった。
この間、近くに煙が上がっていたという事で若い仲良し3人組を偵察に向わせた。
戻ってくると興奮した様子で話し始めたのだが、オレはそれよりも気になる事があった。
懐かしい匂いを纏っていたのである。
聞くと撫で回されたとの事、その相手はモンスターだという。
オレは確かめないとと思った。
居ても立っても居られなかったがここでは立場がある。
すぐに会議を開き長老達に許しを貰ってオレがいけるようにした。
会ってみると確かにモンスターだった。
モンスターだけど間違いない。
話し方がまったく同じだし。
なによりもオレの直感がそう言っている。
オレ強くなったんだよ?そう声に出して言いたかった。
でも、オレの事はわかってないようだ。
なので最後に「兄ちゃん」と呼んでみた。
判ってくれたかな?判ってくれてるといいな。
もうすぐこの村に来るらしい。
何を話そうかな?言いたい事が多すぎる。
モンスターだったから膝が無かったな・・・
乗るのが無理だから逆にオレの膝に乗せてみようかな?
また甘えてもいいよね?兄ちゃん。




