表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の棲む町  作者: 恋日
目覚めた先で俺は何をする?
4/5

鬼ごっこ

俺はしばらくしてから、ゆっくりと立ち上がる。

のろのろとまるでゾンビのようにゆっくり進む。

何をすればいいのか分からない。

「ここは…手術室、か。」

ここで少し休もう。

吸い込まれるように、俺は手術室へ入る。

血生臭い…。幾つかの死体がごろごろと転がっている。

けれど、そこには見知った人物が横たわっていた。正確には鬼だけど。

「鬼…灯?」

会えた…。こんなに早く会えると思わなかった。ドアに鍵をかけ鬼灯に駆け寄る。

さっきまでの殺意が嘘のよう、鬼灯を俺は心配している。

「おい…大丈夫か?」

かなり弱っている。けれどかすかに呼吸をしている。

身体が勝手に動いた。

俺は手首を少し切り、自分の血を鬼灯に飲ませた。

無意識だった。

何故自分がこんなことをしてるのかわからない。

「う…うぅ。」

鬼灯が目覚めた。

「おい!!鬼灯、大丈夫か?」

俺の血なのか鬼の血なのか、傷を治す効果があったらしい。本能的に俺は鬼灯を助けたんだ。

「…目覚ましのわりにはうるさいよ。傷に響く。」

魅惑的な、吸い込まれるような黒い目をゆっくりと気だるそうに開く。

「良かった。生きてて。」

この状況を打開するには鬼灯の協力が必要不可欠だ。

「最強の私が死ぬわけないでしょ?はい、これ。一本だけど返す。」

そう言って鬼灯は人差し指を俺に返す。

「いや、返されたって。」

どうしろって?まさか…くっつくのか?


何故、私はこんなに早く目覚めたんだろう。

相当な深手を私は負っていた。

あー、しんどい。とにかく今はこの指をいち早く手放したい。

「いいから、くっつけてみて。」

ヲノマエを急かす。多分、ヲノマエも上位クラス…一応私と同じく最強クラスに近い鬼だろう。

それなら切れた指くらいすぐにくっつく。

それにもうこの指を2本も持っているのは私がしんどい。

ほんと、なんなんだこの指。ていうかヲノマエ自身が。いくら考えても分からない。

相手の力を吸い取る鬼なんて今まで存在しなかった。

そもそも吸収するなのか、弱らせるなのか。どっちにしろ検討がつかない。

そっとヲノマエの手の指のない部分に切断面を合わせるようにくっつける。

「くっついた…?うおぉ、変な感じだ。気持ちわりー。」

どうやらくっついたみたいだ。

指が動かせるようになるまで、あとは時間の問題だろう。

少し楽になる。やっぱり指を手放せば力は幾分か戻るみたい。

「どうせなら小指も返して欲しいんだけど。」

それは、困るな。別にいいのだろうけど、絶対に次また切るよと言ったら逃げるだろうし、二度手間だ。切ることに関してはやりたいけども。

「それはダメ。これは鬼になった人のルール。お父さんに指一本献上するの。それに、また切る羽目になるよ?」

「はぁ…まあ、いいよ。どうせすぐ生えるんだろう?」

「うん、そだよ。それとさ…。」ヲノマエから禍々しさが消えてる。不快感もない。初めて会った時のヲノマエと同じ雰囲気に戻ってる。

「なんだよ?」

「……ねぇ、さっきまでの威勢はどうしたの?私を殺すんじゃなかったの?」

少なくとも私が気絶する前、あの患者が一瞬動きが止まった瞬間にヲノマエの殺気は消えた。同時に、だ。

「あぁ、それなんだけど、いつの間にか消えた。自分でもびっくりしたよ。なんか恥ずかしいくらい。」

少し考えてみる。

私は状況を把握するのに少し時間がかかったけど、やっぱりヲノマエとこの患者たちに関係はあったみたいだ。

つまり、こいつの殺意に当てられた者は狂気を帯びた鬼に一時的になる…と。

まあ鬼というよりグールだよね、アレ。

全然正気じゃないし、見境なく襲ってたし。

でも、美咲は?私の力がまだそんなに奪われてないうちに戦って、あそこまで強かったんだ。

普通の人間とは、思えない。

「なぁ、美咲に会ったか?」

丁度そのことを考えてた。

美咲には殺されかけたっちゅーに。

「うん。会ったよ。」

会った、という事実をありのまま伝える。

襲われたとはまだ言わない。

「分かったか?」

それはつまり、

「出来るならもう会いたくない。」

ということだよね?

「だよなぁ。あんな美咲初めてなんだよ。俺も正直、気味悪くて逃げちゃったよ。」

質問の意図を私はちゃんと理解出来ていたみたいだ。私って天才。そんなキャラじゃない?

うるさいよ。

ヲノマエが正気に戻った時、狂気のもやみたいのは消えた。でも、すぐに戻ってしまった。

今だに嫌な感じはする。

まだこの病院内に立ち込めている。

とにかく今は一旦外に出たい。

ただ、今日中に美咲をどうにかする。それだけは変えない。

いや、変わったかな…。私こそ心境の変化をしたのかもしれない。さっきまでだったら絶対に今日中に美咲を始末しようと、殺そうと考えていただろう。

ヲノマエに会って何か変わったのかね?

「それにしても、」日付が変わるまでもう3時間をきっている。

「ヲノマエ?とりあえず今は外に出よう?」

外に出たらすぐに私のペットにヲノマエの指を渡してお父さんに届けてもらおう。

まずはそこからだ。

常に弱体化がかかったままの冒険なんて誰もしたくないでしょ。私だってそうだ。万全の状態で美咲と事を構えたい。

「とりあえずってまたここに戻ってくんのかよ。まあ美咲を放っておけないけどさ。」

どうやって美咲を戻そうか。

そもそもあっちが素だったらどうしよう。

とにかく今は避難っと。

「下に行きたいんだけど、ヲノマエ道わかる?」

そもそも私たちがいる手術棟から元いた本館へ戻った方がいいのだろうか?

「それなんだけど手術棟は、夜間は一階出入り口が閉まってるんらしいんだ。」

「じゃあ、どうする?本館に戻るの?」

「いや、手術棟の一階も本館と繋がってるみたいだからこのまま降りても平気だと思う。」

そもそも、こんな複雑な構造でどうやって非常時に患者たちの対応をしようというんだ。

院長は何を考えてんだろうね、全く。

「ん?…これ、見取り図?」

手術棟の見取り図があった。どうやら二階にリハビリ施設、一階に食堂と言った感じだ。

手術棟は四階までしかないらしい。

幸いこの時間ならリハビリをする人もいないだろうし、食堂も機能してないはずだから敵は少ないはずだ。

「ヲノマエ。」

「ん?なんだ。」

「地図、覚えた?」

私は覚えた。もう迷うことはないだろう。

「だいたい覚えたぞ。」

後輩も大概優秀だった。

「あたしゃ新しい鬼の後輩が優秀で嬉しいよ。」

「うるせー、俺は人間だ。」

半ば呆れ気味にヲノマエは答える。

「じゃあさ、じゃあさ、人間さん?君のその指は一体なんなんだい?」

見事にくっつき、傷も塞がっている。

「あぁ、これか?鬼のフリしてんの。すげーだろ?おまえを欺くためだぜ?」

私はプッと軽く吹き出す。

「何それ?鬼ごっこ?」

それにヲノマエも笑って答える。

「そうそう。いつか鬼灯の寝首を掻いてやるよ。」

にへへと、まるで鬼に相応しくない笑顔を浮かべる。身体はボロ雑巾みたいになって、おまけに力は半分くらい封じられてるのに私は笑みを零してしまう。

「じゃあそれまでに死なないようにね?」

それにヲノマエに死なれると私の楽しみが失くなるしね。

私はヲ、ノマエに少し興味が湧いたみたいだった。

「おうよ。まずはここを抜けるか。」

ヲノマエはそう言って手術室の鍵を開け、私たちは部屋を後にした。




廊下を真っ直ぐ50mくらい進んだ先にある少し開けた所に階段はあった。

俺は誰もいないことを確認すると慎重に階段を降りた。二階だ。

これまた開けた所に出た。

自販機や売店があるところを見ると、ここはリハビリ施設を利用する人達の休憩所といったところかな。

「3人くらいいるな。」

施設の奥の方から音がする。

冷静になった事で分かったけど、そこだけ気持ち悪いモヤみたいのが濃い。

鬼灯は狂気の霧ってさっき言ってたけど。

「ヘぇー、分かるんだ。」

鬼灯が感心したように、あくまでも上から言ってくる。

「うっすらとだけどな。」

周りの狂気の霧が濃すぎていまいち容量を得ない。

「多分合ってるよ、それ。私は今は力が出なくてはっきりわかんないけど…。」

鬼灯は少し拗ねている。そうなったのも俺の指が原因らしいけど、だったらなんで切ったんだよ。

「来るよ。前から2人、右から1人。私が全部片付けるよ。」

傷はほとんど塞がったみたいだけど、明らかに弱体化してる。なんていうか、殺気というか闘気というか、鬼灯の生命力みたいのが初めて会ったときより明らかに弱々しいからだ。

となると、「いい。俺がやる。」

そう言うと鬼灯は、えッ?と言った風の顔になる。

「ヲノマエ、君は人を殺すのは嫌だって言ってなかった?」

事実を確かめるように歯切れ悪く尋ねてくる。

「…………。」

確かに嫌だ。その気持ちは今も多分、変わっていない。でも、自身が持てない。

なんだだろう。分かってしまった事がある。

さっき1人殺して、分かったんだ。

自分の中で湧き上がる衝動があった。

認めざるを得なかった。

少しだけ感じた気持ちがあった。

はさみが人の頭にぶつかり、裂け、通り抜ける時、悦を感じた。

もやっとしたものが晴れるような。

僅かだけど、確かに俺の心の中で感じた。

俺はそれを認めることが出来ずに放心した。

でも、「…するんだろ?」

そう。鬼のふりを。

じゃあ鬼は何をしている?

人を「殺す。」んだ。

その途端、視界が鮮明になる。まだ目視出来なかった3体の患者の場所がはっきり分かる。

鬼灯は一瞬だけ、ビクッとして後はいつも通りだ。

「…ごめん。」

そう呟やいてから走り出す。

一体目が近づく。

俺ははさみを前に突き出しながらそのまま突進する。俺と比べると奴らはのろい。

首の真ん中に正確に刺す。貫通する。

でも、そのくらいじゃ動きが止まらないのは鬼灯から聞いていた。

「ぅ…おらッ!!」

俺は刺さったままのはさみの柄を両手で掴み思いきり開く。

ぶちッとはさみが開くのに合わせて肉の千切れる音がする。

まず一体、倒した。

大きすぎるこのはさみはものを切るのに両手を総動員しないといけないので扱いに困る。

「ヲノマエー、後ろだよ。」

緊張感のない声で鬼灯が言う。

「分かって…るッ!!」

そのまま回転してはさみをぶん回す。

これは丁度、顎関節あたりから右耳をはさみが通っていった。

当然頭部が床に落ちる。

「よいしょっと。」

鬼灯も右から来た一体を倒していた。

「私びっくりだよ、絶対半年くらいは人に手を掛けないと思ってたのに。心境の変化?」

「余計なお世話だよ。さあ、降りよ。」

あたりに血の匂いが立ち込める。

それと死体に背を向けて俺は進む。

もう、戻れない。明らかに人間の範疇を超えた力を俺は持っている。

でも仕方ない。鬼のふりをしているから。

この力も俺が人間として、鬼を演じているから。俺は人間だ。鬼のふりを…真似をしているだけ。

だから、人を殺す。いつか鬼灯に一杯食わせてやる。ただ、それだけだ。

そう思うと、少し楽しみになってくる。

いつも上から見てくるこいつにサプライズでもしかけよう。

「ふむ…どういうことやら。」

後ろで鬼灯が呟く。俺は無視して進む。

見取り図を思い出す。この施設を迂回して、給湯室を越えた先に階段はあるはずだ。

ここまでは順調だ。

一階へ続く階段を見つけた。

ドアノブに手を掛け、開こうと回すが鍵がかかっていた。

ガチャガチャと虚しく音を立てている。

「どうする?壊すか?」

鬼灯に提案する。

「うーん、それもいいんだけどなんか嫌な感じがするんだよね。」

そういって鬼灯はカッターをドアノブに近づける。

「あ…ッ、やめろ!」

思わず声をあげてしまった。

「でしょー?」

まるで知っていたとばかりに鬼灯はこっちを見てくる。

「分かってたなら、やるなバカ。」

上の方に会った狂気の塊のようなものがズズッと下に少しずつ降りてきてる。

何らかの方法で鍵の付いてる場所に美咲が細工したのか?

そして、この狂気の霧の発生源が美咲なら俺たちの居る場所がばれてしまったのか?

「美咲もいちいち細かいね、やることが。」

感心を通り越して、呆れてるといった感じだ。

「んなこと言ってる場合かよ、どうすんだよ。これからさ。」

今の美咲には戦う云々じゃなくて、会いたくないというのが本音だ。しかし、仮にも幼馴染なんだ。放っておけないというのももちろん本音である。

「とりあえず早く下に行こう?鍵ならさっきの休憩所みたいなとこの受け付けにあると思うよ。」

俺は急いで取りに戻った。

受け付けを漁る。引き出しの中にあった鍵を扉の所に持って行くまで、そう時間はかからなかった。

「挿れるぞ…?」

この鍵じゃなかったら、どうしよう。

カチャリ…と小気味いい音と共に鍵が開いたことに、少しばかり安堵する。

「これでやっと進めるね。」

階段への扉をゆっくりと押し開く。

「……うッ。」

今まで立ち込めていた狂気よりも重く、べっとりとした空気が身体を包む。

「これは…。」

声を出したのは鬼灯と同時だった。

「なんだよ…これ。」

明らかに不快感が強くなる。

「美咲…がいるのかな?」

そもそもいつの間に?

「エレベーター使ったのかも…。」

「あの、直通の奴か。」

先手を打たれた。そもそも美咲になにが会ったんだ?

あいつはどうして急におかしくなったんだ。

病室に看病に来たときは普通だった。

「行く…しかないよな?」

こういう時ってだいたい罠しか俺たちを待っていないよね。

「うん、そだね。」

ハハと、お互い苦笑いになる。

美咲、お前に何があったんだよ。

絶対助けるからな。

時計の針はまだ10時をまわっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ