第七章 想いの呼応
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「大丈夫か!」
赤い色にまみれた少年を抱き抱え、ジェイはその身体が温かいことに安堵した。
ヴァルドとセレスの国境では、先ほどまで、ヴァルド軍の猛攻と、天上からの刃の雨がセレス軍を追い詰めていた。
ジェイが駆けつけた時は、かろうじて結界が保たれていた程度。
力を使い果たし、敵陣を向いたまま仲間を庇うような態勢のまま冷たくなっている能力者が数名。
結界が敗れた時に備え、臨戦体制が敷かれ始めていた。
最前衛のレストの身体がぐらつき、倒れかけた瞬間、ジェイの馬は真横に並んでいた。
打って出るか、と覚悟した時に、「それ」は起こったのだ。
天上からの刃の雨が止み、容赦なく身を切り裂く刃の恐怖が去ったと思ったら、敵陣の兵が全て眠りについた。
糸が、切れたように、だ。
「――おかしい、ですよね。何か…」
「こら、レスト、喋ったら――ってお前それ全部返り血か」
「はい、すみません。能力が切れただけです。ご心配おかけしました」
ゆっくりと立ち上がったレストは、目を擦りながら、自らを支えていたのが王だと気づいて後ずさる。
「なっ…な、し、シグルズ様…!?」
「途中で変装して来たんだ。今はイグニスと呼べ。幸い、義勇兵に見られて気付かれていない」
にやりと笑って不敵に笑んだ自らの王に、レストは唖然とした。
最前衛まで駆けつける王など、どこにいる?
しかも、一人で――。
「……いつか、義父さん…アズロが言っていました。あの王は、信頼に足る…むしろ心配な王だと」
「ほう?」
「……なんとなく、わかった気がしました」
苦笑いしたレストの頭を、ジェイはわしゃわしゃと撫でる。
粗雑なその振る舞いが、彼の自然体なのだと、ふと気がついた。
「イグニスさん、アズロ…義父さんは、誰なのですか?」
年が離れた親友のようにも見えるアズロとシグルズ王の関係は、何かもっと深い絆でつながっている気がしてならなかった。
けれどそれを問うと、決まってアズロは口にしたのだ。
時が来たら、と。
アズロという育ての親と、数年しか接してはいない。
しかし、その間、アズロは変わらなかった。
身長も、顔つきも、何もかも。
そして、それに気づいたころ、彼は遠い任地に赴いて――。
「答えが、欲しいか?」
ジェイは面白そうに尋ね、レストは何度も頷く。
「ならば、生き延びることだ。生きろよ、レスト。お前たちを、もう死なせやしない」
ジェイは、少しかがんでレストの目を見て、強く強く、言葉を紡いだ。
「死なせやしない、絶対に」