9 振り返り
「結局、四冊借りてきてしまった」
俺は自分の部屋に戻り、借りてきた本を自分の机の上に積み重ねた。
後から気が付いたが、この数の本を読み切れるはずがないのだ。
やはり自分は図書館初心者であると再確認する。
「うーん、デートかぁ。楽しかったし、悪くはなかったけど。何か、モヤモヤするというか、違う気がする」
正直なことを言うと、俺は普段から本を読まない人間だったので図書館でのデートは期待値が低かった。
だが、本は読んでいて面白かったし、実際四冊も借りてきたし、かなり充実した時間を過ごせたのだ。
こういう新たな発見が生まれたことを考えると、月城の言う付き合うことのメリットというのが発揮されたのかもしれない。
「デートってこういうものなのか? 何かもっとこうあるべきなのか? さっきのがデートと呼んでいいのかどうかの基準がわからない」
図書館から出て、月城との別れ際を思い出す。
『有意義でした』
そう言った彼女は無表情だが、恐らく満足していた気がする。
有意義だったのはその通りだ。何なら想像以上に有意義だ。
それでも、これをデートと呼んでよいのかは分からない。
思えば二人してただひたすらに本を読み続けるだけで、ろくに会話もしていない。
静かな図書館ではあまり会話も出来ないし、月城の読書の邪魔は出来ないし、俺の見つけた本も面白いし、当然の結果ではあるのだけれど。
「そもそも遊びに行くことと、デートすることの違いはなんなんだ?」
図書館での疑問が再び湧き上がる。
恋愛に疎い俺には、こんなことすらわからない。
「このままだと拙いな。次は俺がデートに誘わなければならないのに、こんな体たらくじゃ」
徐々に危機感が高まる。
こんな俺ではあるが一応は男であるので、あまり格好悪い姿を月城に見せたいとも思えない。
そんなとき、机に積んだ一冊の本が目に留まった。
『滝本咲子の初デート攻略本』
今、手元には参考になる資料があるのだから、これを読まない訳にはいかない。
俺は机の前に座ると、勉学に励むつもりでデートについての本を読み始めた。
「どうやらデートというのは互いの関係性を深めるものらしい」
この本の割と序盤の方に、そのようなことが書かれていた。
しかし、ここで新たな疑問が出てくる。
「関係は――深まったか?」
互いに本を読んでいるだけで、ろくにコミュニケーションも取っていなかった。
これで関係が深まったと言えるのだろうか?
「でも、月城さんは俺の持ってきた本を気にしてたし。それで俺がどういう人間なのか読み取ろうとしてた。関係の向上を図ろうとしていたという点では、デートだったと言ってもいいか?」
答えがありそうで見つからない。
本を読んでも難解なのはなんなんだ。
難しいな恋愛。
「そもそも本来付き合うっていう行為は好きな人同士でやるわけだから、そうなると俺と月城じゃ前提条件が違ってくる」
俺と月城が付き合っているのは、互いに人生の経験を高めるための実験が理由だ。
互いに好意があるから付き合っている訳じゃない。
いや、好意はあるのか?
付き合い始めてから数日が経ち、俺の月城に対する印象は明らかに変わった。
もっと彼女のことを知りたいと、少なからず思っている。
「ただ、恋愛感情として好きかと言われると――ない気がするんだよな。友達としては気になってるかもしれないけど、恋愛感情はさすがにない」
悩むこと数十分。
もう少し本を読み進めてもみたが、わからないことはどれだけ考えてもわからない。
「無理だ。無理なものは無理。現状諦めよう。そもそもわからないから実験しているんだ」
よく考えたら、そこまで深刻に悩む必要はないのかもしれない。
これは月城との実験なのだから。
恋愛というものの内容がわからないから、俺たちは形から入った。
今はきっと、まだこれでいいのかもしれない。
「となれば形だけでも完璧にしたい。やるからには文句の付け所がないような完璧なデートを組まないと」
少し迷いは生じたものの今後の方針は決まった。
日程、時間、場所、服装、持ち物、そして一番大切な内容。
次のデートに向けて突き詰めるところは山ほどある。
なんだか、こうなってくると久しぶりに熱意が湧いてきた。
後は俺の持つ全力を出し尽くすのみだ。




