2 プレゼン
放課後にもなると少しばかり日が落ちていた。
校舎内に入り込む光が少しばかり鈍く見える。
俺は図書室の扉を前にして足を止めた。
この高校に入ってから自主的に入ったことなど一度もない。
そんな場所に付き合うかどうかのプレゼンを受けるために訪れた。
やはり訳がわからない。
「話を聞くだけ聞いて、丁寧にお断りして帰ろうか」
俺は今までの人生で一度も恋人というものが出来たことがない。
その観点で言えば、全く付き合いたくないかと聞かれると――俺も男なんだからそんな訳がない。
でも、好きでもない人と付き合うのもどうなんだ?
月城さんは何を考えているのかわからないし、中々クレイジーな思考と行動力を持ち合わせている人だとは思う。それとなんとなく頭は良さそうだという認識だ。
別に俺じゃなくてもいいだろう。
どんな意図があるかは知らないが、俺なんかではなくちゃんと好きになった人と付き合うべきだ。
「し、失礼します」
俺は恐る恐る図書室の扉を開いた。
ホラーゲームで未知の扉を開こうとする時ぐらい緊張する。
そこで俺は――月城雫を見た。
彼女は窓際のテーブル席で本を読んでいた。
一瞬だけだが見とれてしまう。
淡い光の差し込む図書室には彼女しかいなかった。
黒髪の少女が喜怒哀楽も感じさせぬ表情でページをめくる。
この空間でただ一人、本を読む少女の姿がそこにある。
どこか幻想的であり、絵になると思ってしまった。
少しばかり、そんなことを思ったのだ。
「約束通り来た訳だけど」
俺が近づくと月城は本を閉じてテーブルに置いた。
「待っていました。そこに座ってください」
彼女は対面に座るように勧めてきたので、俺はその指示通りに従った。
「それではこれよりプレゼンを開始したいと思います。時間としては三十分程度を想定しています。朝倉君からは何か質問はありますか?」
「そうですね。えーっと、その、ないです」
「わかりました。それから、これがこれからのことを一通りまとめた物なので、朝倉君に渡しておきます」
月城がカバンから一枚の紙を取り出し、俺に渡した。
そこには今回の議題らしきものが手書きでまとめられている。
えっ、ガチのプレゼン?
約束までの時間を使って内容をまとめたってこと?
俺は彼女のことを舐めていたのかもしれない。
質問はないが突っ込みどころはあるだろうと、思わず何か言いそうになる。
しかし、茶々を入れる場面ではないとそのまま言葉を飲み込んだ。
「それでは始めようかと――そうだ。重要な物を忘れていました」
プレゼンが始まろうとした時、彼女は思い出したようにカバンの中を探りだす。
その中から眼鏡を取り出して、そして掛けた。
元々あった知的な雰囲気が更に洗練された気がした。
「えっと、月城さんは目が悪いんですか?」
「目は良いです。両目とも1.5あります。これは伊達メガネです」
「それって今付ける必要あるんですか?」
「私が先生モードに入ったりしたときに使うようにと、友達に買ってもらった物なんです。今がちょうど使い時だと思って取り出しました」
「そ、そうなんだ。似合ってますね」
今更だけど、この月城雫というのは――実はかなりの面白女子ではなかろうか?
一見すると無表情のはずではあるのだが、俺が眼鏡を褒めた後どこかドヤ顔してるような雰囲気が出たような出ていないような。
今まではどんな性格をしているのかわからず俺も少なからず警戒しているところがあったけど、何となく善い人かもしれないと思い始めた。




