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月城雫との実験交際について  作者: 奈浦明彦
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1 実験の申し出

「私と――実験として付き合ってください、と言ったら受けてくれますか?」


「えっ、嫌です」


 進級して最初の地域清掃。

 俺は見知らぬ女子から、告白らしきものを受けた。

 実験と言っていたし、そもそも告白と呼んでいいのかも怪しい。

 本当に訳がわからなかった。

 これが俺にとって最初で最後の恋人――そして、生涯のパートナーとなる月城雫との出会いだった。


※※※


 俺は学校近くの公園で、黙々と雑草を引き抜く。

 進級して最初の地域清掃。隣のクラスの人たちと一緒にこの公園の清掃を任されていた。

 周りが雑談しながら掃除する中、俺は草むしりに専念する。


 人付き合いが苦手という訳ではないが、今日は一人でいたい気分だった。

 本当ならスコップや熊手、分別用のゴミ袋まで準備したいところだが、去年それで先生に止められているのだ。

 今日は渡されたばかりの綺麗な軍手が真っ黒になるまで草をむしり、ゴミ袋をいっぱいにするつもりだった。 

 そのように意気込んでいたのだが――。


 あれ、なんか近くない?

 気が付くと、俺の隣で見知らぬ女子生徒が草をむしっていた。いや、掃除しに来ているので草むしりをやっていること自体は別に問題ない。

 おかしいのは距離感だ。


 なんでか真隣にいる。

 赤の他人が居ていい距離ではないと思う。

 俺は顔を動かさず、目の端で彼女を確認する。

 隣のクラスの人だろう。見かけたことは何度かある気はするが、名前は全くわからない。

 凄く物静かそうな、黒髪の女子生徒だった。


「はじめまして、朝倉恒一(あさくらこういち)君で合っていますか?」


「えっ、なっ、はい。まあ、そうですが、朝倉恒一で合ってます」


 唐突に話しかけられたことにより俺は軽いパニックに陥る。

 対して、隣にいる謎の女子は黙々と草むしりを続けていた。


 正直言うと、ちょっと怖い。

 彼女から話しかけてきたはずなのに、無表情のままこちらを一切見ない。

 実は話しかけられていないんじゃないかと、先ほどの声は俺の妄想だったのではないかと自分を疑いそうになる。


「月城雫(つきしろしずく)といいます。隣のクラスの者です」


「は、はい。どうも」


 どうやら俺の妄想ではなかったらしい。

 にしても妙な雰囲気を持っている人だ。


「朝倉君は今現在、お付き合いしている人とかいますか?」


「えっと、いませんけど?」


「今まで誰かとお付き合いしたことはありますか?」


「あ、ありませんけど?」


「私と――実験として付き合ってください、と言ったら受けてくれますか?」


「えっ、嫌です」


 状況が全く掴めない。

 なんか唐突に告白――これは告白なのか? 実験とか言ってなかったか?

 とにかく俺は、反射的に相手の申し出を断った。


「――なるほど」


 月城さんは俺が断りの返事をしても冷静だった。

 彼女の草むしりをする手の動きは変わらないし、表情も変わらないし、こちらに顔を向けることもない。


「断られた理由としては、私が恋人として不相応ということですか? もっと愛想が良い、可愛らしい女子が好ましいとか?」


 そこでようやく月城さんは草むしりをしていた手を止めて、俺に顔を向けた。

 感情の読めない透明な瞳が、こちらを見つめる。


「いえ、それ以前に状況がわからないし。俺はあなたのことを全く知らないし。別に月城さんが可愛くないとは思いませんよ。でも唐突過ぎるし、なんか怖い。もっと物事には段階みたいなのが必要なんじゃないかと」


「――確かに、正論です」


 俺は意見を述べる。自分でも真っ当なことしか言っていないはず。

 すると月城さんも納得した様子を見せる。


「ちなみに朝倉君から見て私の外見はどうですか? 及第点に達していますか?」


「及第点って、そんなこと言われましても」


「聞き方を変えます。私が恋人として隣にいると仮定して、それを第三者に見られた状況を想定してください。恥ずかしかったり、不快に思ったりする可能性はありますか? それとも許容できる範疇(はんちゅう)ですか?」


「さすがに不快に思うとかは全くないけど」


「では、私の外見に関しては許容範囲内だと――」


 普通に考えて『あなたと一緒にいると恥ずかしいです』とか、面と向かって言えないだろう。

 いや別に月城さんの顔立ちは整っていると思うし、俺も本心を言ったつもりだから、それはそれで良いけれども。


 そんなことより気になったことがある。

 俺は月城さんの『付き合って欲しい』という申し出を断ったはずだ。

 しかし、会話から察するに、彼女は付き合うことを諦めていない気がするんだが、気のせいだろうか?


「朝倉君は今日の放課後は何か予定ありますか?」


「いや、特に今日は何も無かったはず」


「では放課後になったら図書室に来てください。私と付き合うことによってどのようなメリットとデメリットが発生するのかプレゼンを行いたいと思います」


「プレ、プレゼン?」


 プレゼンって会社で企画とかを通すときにやることでは?

 付き合うにあたってのメリットとかって話し合うものなの?


「朝倉君の言う通りです。物事には順序というものがあります。ですからまずは私が説明責任を果たします。それから朝倉君には再度私と付き合ってよいかどうかを審議してもらいます」


 これから裁判でも行われるのかな?

 俺は何が彼女をここまでさせているのかわからない。

 ただ、段階がどうのこうのと言ってしまったのは俺だし、断るに断れない。


「ま、まあ――話だけなら」


 相手は同じ高校の同級生だ。

 壺を買ってほしいとか、同じ宗教に入ってほしいとか、その手の誘いはないだろう。

 だとしても、平穏に終わればいいのだが。

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