12 雨宿り
公園から撤退した俺たちは一時的に雨を凌げるような場所を求め、なんとか歩道橋の下へとたどり着いた。
俺も月城もずぶ濡れで、髪の毛から水滴が滴っている。
「月城さん、これ使って」
「ありがとうございます」
とりあえずリュックに入っていたタオルを月城に手渡した。
その間に俺は空の様子を眺めたが、未だに雨の勢いが収まる様子は見られない。
「折り畳み傘持ってたり、タオル持ってたり。朝倉君が事前準備の鬼って褒められるのも納得です」
「いや、事前準備の鬼って言われても嬉しくないし、たぶん周りも褒めて言ってる訳じゃないでしょ」
「そうなんですか?」
「そうだと思うけど」
月城からタオルを返された俺は自分の頭なんかを拭き始めた。
彼女は何を考えているのかわからない表情でそんな俺を見ていた。
「服濡れてて、風邪ひかないですか?」
「ごめん、たぶんそれ本来だったら俺が月城さんに言わなきゃだよね。あと俺は一応、こういう状況も想定して駅のロッカーに着替えも準備してるから大丈夫ではあるけど」
「本当に備えてますね。一度駅まで戻りますか?」
「いやでも、俺だけ着替えても。月城さんは着替えなんてないだろうし」
「確かに着替えはないですけど。私は服が濡れていてもそんなに気にしないので」
「いやいや、月城さんが大丈夫でも俺が気にするから」
逆に月城に気を遣わせている。
ここにきて俺は自分の欠点に薄々気が付いていた。
いくら熱心に準備をしても、自分だけどうにかなったところで意味がない。
結局、月城をフォローできてないし、むしろ彼女に助けられている。
完璧だと思っていた俺の行動だが、実際は穴だらけでかなりお粗末だ。
「いやもう、なんでだ。営業日を確認してた喫茶店はやってないし、グルメフェスもアイドルで台無しになるし、そもそも天気予報も大外れの大雨が降って散歩すら出来ない」
俺は思わず空を見上げながら愚痴ってしまう。
本当だったらみっともない姿なのかもしれないけど、この大雨を恨まずにはいられない。
「朝倉君、私思ったんですが――」
そんな俺を見かねてか、月城は口を開く。
「ここまで思い通りにならないのは、逆に凄い気がします。なかなかの確率では? 誇れないですか?」
「月城さん、フォローで言ってくれてるんだろうけど、疑問形じゃ押しが弱いし、そうでなくてもさすがに誇れないし、無理があるよ」
「残念、狐の嫁入りとか珍しいと思ったんですが」
月城は無表情ではあるが、どこか本当に残念そうだった。
――そういえば今思うと結構印象というか。
――なんとなく、もしかしたら気のせいかもしれないけど。
――彼女の感情が少し読み取れるようになったかもしれない。
俺は最近になって月城雫という存在を理解してきた。
奇怪な言動や行動が多く、表情も本当に変わらないから当初はかなり困惑していた。
ただ、しばらく一緒にいるとわかってくる彼女の人間性。
協調性がないどころか――むしろ、かなりこちらを気遣ってくれる。
表情には全く現れないが、なんとなく感情が動いていることがわかるようになる。
かなり達観しているのか、本当に怒りや動揺が少ない。
俺なんかよりもずっと器が大きく、それが表情に出ないから、今まで気づけなかっただけなのかもしれない。
そして、俺が思っているよりもずっと、彼女は自分をさらけ出している。
「話は変わりますが、朝倉君の今日のデートの進捗率はどのようになってますか? この後、どこか行く予定とかはありますか?」
「えっ、いや、こんなにも全ての予定が崩れると思わなかったから、実を言うと何もない」
「――なるほど」
俺は気まずそうに答えるが、実際何もないので正直に言うしかない。
すると、月城は何やら考えているようなしぐさを見せた。
「私のわがままなんですが、ここに来る間に気になる場所があったのでそこへ行ってみませんか?」




