11 連続する不幸
「臨時休業?」
張り紙を見つめて愕然とする。
最初の目的地である喫茶店は明かりがついておらず、当然だが人の気配もない。
出鼻をくじかれるとはこういうことか。
「うわぁ、そんなことある? 昨日、見に行った時は普通にやっていて、特に張り紙もされてなかったのに」
「朝倉君、昨日ここ来たんですか?」
「えっ、いや、その――営業してるはずだったんだけど」
下見したことを知られると、さすがに月城に気を遣わせそうなので黙っておく。
せっかく気合を入れて計画したデートなのに、出だしから気まずい。
「気にしないでください。そういうこともあります」
対して、月城はあっさりと納得していた。
彼女の無表情は本当に崩れない。
「ごめん。月城さん、せっかく来たのにこんなことになって。今度から行く前に電話して営業しているかどうかも確認しておく。あと、他の店もピックアップして想定外に備えるように改善するよ」
「そこまでしなくても大丈夫だと思いますが?」
「いや、これは俺のリサーチ不足が原因だから」
月城は気を使ってくれているようだが、これは俺の落ち度だ。
次はこういうことが無いようにしよう。
「じゃあ予定より早いけど、ご当地グルメの方に行きますか」
※※※
「――なんだ、これ?」
公園に辿り着いた俺は愕然とする。
いや、ここまで行く途中に見た多くの通行人を見て嫌な予感はしていたのだ。
「人が多すぎる」
グルメフェスが行われているこの公園はかなりの広さがあるはずだが、明らかに人混みで渋滞していた。
これは下手するとフェスのところに行くのでさえ、時間が掛かるかもしれない。
「想定外だ。なんでこんなことに――」
「なんかご当地グルメだけじゃなくて、アイドルか何か来てるみたいですね」
「えっ、本当に?」
急いでスマホを取り出して検索する。すると確かにアイドルが来る予定になっているらしい。完全に見落としていた。
「それにしても混み過ぎだ」
「私、その手のことは疎いので詳しくないんですが――朝倉君は興味あります?」
「いや、俺も全然だからアイドルは別に」
今はアイドルなんかよりグルメフェスのことで頭がいっぱいだ。
ただでさえ喫茶店がやってなかったというのに、ここまで来てご当地グルメも食べられないとなると、月城にあまりにも申し訳ない。
しかし、ただの高校生である俺がこの状況をどうにかできるわけがなく――。
俺は申し訳なさそうに月城の顔を見た。
「えっと、並ぶ?」
「並ぶこと自体は問題ありませんが、朝倉君の立てた予定みたいなのは大丈夫なんですか?」
月城の言葉がえぐいぐらい突き刺さる。
計画は崩壊しているし、この後の予定も特にない。
そもそも、こんなに予定外が連続して起こると予想できる訳がない。
「うーん、どうするか」
ここまで絶望的な状況に陥ったのは久しぶりだと思う。
焦りすぎて自分の頭が働いていないのがわかる。
ここで強引に残っても大変なだけだし、ここで帰ろうものならもはやそれはデートとは言えず大失敗だ。
本当に、本当にどうする?
「じゃあ、とりあえず人のいない方へ散歩してみます?」
そこに月城から神懸かり的な提案が舞い込んできた。
確かに、今できることはそれぐらいしかなさそうだ。
それに散歩でもすれば少しは頭も冷静になるかもしれない。
「確かに、せっかく近所にないような大きな公園に来たわけだし。どこかでお昼食べる前に少し歩き回っても――」
そこで俺は不意に何かが顔に付いた気がした。
頬に何かが触れた感触が残る。
俺は自らの頬に触れることによってそれが何かを理解する。
空には少し雲があるぐらいで、普通に太陽も出ている――つまりは晴れだ。
だが、同じく状況を理解している月城が空を見上げて呟く。
「降ってきましたね」
雨だった。
ここでまさかの雨だった。
空は晴れているのに、雨が降ってきた。
しかも、これから散歩しようという時にこれだ。
どうやら今日の俺はかつてないほどに不運なのかもしれない。
「ん? 狐の嫁入り」
そして、雨が降ってきたにも関わらず、月城は嫌な顔一つせず無表情だった。
むしろ良くわからない言葉を呟きながら、何やら空を見上げて感心している。
なんでこの状況でどこか楽しそうにしているんだ?
「そうだ。こんなこともあろうかと折り畳み傘は準備して――」
ついに俺の本領発揮だ、そう思った瞬間だった。
次の瞬間にはとんでもない量の雨が降ってきた。
大粒の雨が、公園の地面をものすごい音で叩き始める。
自分の服があっという間に濡れていく。
園内にいる大勢の人たちにも明らかな動揺が見え始めていた。
俺は一応、折り畳み傘を開いてはみたが、こんな小さな傘では焼け石に水と言わんばかりに普通に濡れる。
ああ、今日ダメすぎないか?
はっきり言って折り畳み傘はあっても無くても一緒だった。
それでも、少しでも役に立ちたいと呆けた顔で空を見上げる月城に言った。
「月城さん、折り畳み傘あるけど使う?」
「この雨だと意味ないと思うので私は大丈夫です。朝倉君が使った方がいいのでは?」
雨の状況を確認し、月城は丁寧に断ってきた。
更には俺が使った方が良いと言ってくれるが、さすがに彼女を濡らしたまま、自分だけ傘を使っている彼氏にはなりたくない。
そうやって俺がまた悩んでいると、月城が唐突に動き出した。
彼女は俺のすぐ傍まで近づくと、無表情のはずなのにどこか凛々しく思える顔で言った。
「朝倉君、公園出ましょう」
「えっ、それよりも公園で雨宿りできるところを探した方が――」
「今、この公園にはかなりの人数が存在します。その大多数が公園内の雨宿りできる場所に殺到するとしたら? 私は大変なことになると思います」
月城の言葉を聞いて、俺は脳内でシミュレーションした。
俺と月城で大雨を避けるために、公園内の雨宿りできる場所に行くとする。
すると皆考えることは一緒だから、雨宿りできる場所に人が殺到する。
結果――その場所は大混乱、下手したらもみくちゃにされるかもしれない。
「よし、今すぐ出よう。もうすぐにでも出るべきだ」
こうして俺たちは早足で公園を去ることにした。
結局、ここでも何一つ成果を得られないまま、俺の完璧なデート計画は跡形もなく崩壊したのだった。




