第6話ー少女、初めての別れー
〜翌日〜
「おはよう彩」
景のそのひと言から、朝の会話は始まった。
「お、おはよう……」
なんとも重苦しい空気だ、仕方ない昨日あんな事があったのだから。
「ひとまず朝飯にしようぜ!」
景はそう言って朝ごはんの準備をしにいった。
その間私はというと、日記を書きつつ昨日のこともあるので一応周りの確認をしにいくことにした。
「ここでの生活にもだいぶ慣れたなぁ……」
私はそんなことを呟きながら高台から辺りを見回していた。
「彩こんなとこで何してんだよ」
景が後ろから声をかけてきた。
「んー?まぁ辺りを見回りしてたところ、それより料理は良いの?」
私はそう答えつつ料理のことも聞いてみた。
「ん?あぁ今日は早く起きちまったからな、
たまには煮込む系のものでも作ってみようかと思って」
そんな雑談をしつつ私たちは色々と話していた。
「なぁ、彩。話したいことがあるんだけど」
景からそう切り出された。
「え?なに、なんかあったの?」
私は急な話と、よく急に話しかけてくる景がしっかりと聞いてくることに驚きつつ、景の話を聞くことにした。
「実はな、そろそろここを離れようと思うんだ」
景がそう口にする。
「え……?それって……」
私は呆気に取られる。
「ここ数週間、お前にお世話になってきたけど、そろそろ旅を再開しようと思うんだ。こんな世界でも、俺のしたいことは旅をすることなんだ。ここでずっと足踏みしてるわけにはな……」
そう。景はここを出るらしい。確かに景がしたいことは旅だろう。
それが仕事だからではなく、景自身が望んで旅をしていたことは、彼が見せてくれた写真や話を聞けば分かった。
それにいつかはここを出るかも知れないと思っていた。
「……ここを出るのっていつ?」
私は震える声で景にそう尋ねる。
「早けりゃ明日の早朝。遅くても3日後かな」
「――そ、そう……分かった。じゃあ、今日は旅の準備を手伝う」
「あらま、もっと何か言われると思ったのに行かないで〜とか」
「なにバカにしてるの? てか料理は? そろそろヤバいんじゃないの?」
「やべっ! そろそろ見てくるわ!」
景はそう言って料理をしに戻った。
私はふざけたことをいいつつも景がここを出ることを話してから終始下を見ており、景の顔を見れなかった。
〜30分後〜
「よし! 完成だ! 彩、飯にしようぜ」
笑顔で皿に料理を盛った景がこちらに近づいてくる。
「うん。食べよっか」
私は先ほどのことをまだ考えており、素っ気なく返事をする。
「「ごちそうさまでした」」
私たちは2人で一緒にそう言った。
「ねぇ」「なぁ」
「「あっ……先にどうぞ」」
私たちは2人とも何かを言おうとして被ってしまった。
「じゃあ俺から話すな。彩……先に言わせてくれ。この数週間、俺が生きられたのはお前のおかげだ。身元も分からない変なヤツにここまで良くしてくれてありがとう」
私は景からそんな言葉が出てくるなんて思いもよらなかった。
いつもはもっとヘラヘラしているやつなのに。
「景……こちらこそ、ご飯とかいろいろありがとう。旅に関する知識だって、写真のことだって、私自身のことも。あなたのおかげで変わったことが沢山あった」
私自身とても驚いている。
私が景から貰ったものは余りにも多かった。
そして私は思ったより寂しがり屋だったらしい。
「ふふ…ははは笑 彩がそんなこと言うなんてな」
景がそう言って笑い出す。
「な、なんで! 私はそんな薄情な人間じゃないわ!」
私も笑いながら言い返す。
「それじゃあしんみりした話はやめよう!
貴方の旅の準備をしないとなんだから」
私はそういって彼の旅の準備を始めた。
まずは荷物の整理から始める。
彼が元から持っていたものやここで手に入れた物、その中から旅に必要なものを選別していく。
「コイツはいつまで持ってくれるのかな……」
景はそう呟きながら自分の持っていたカメラを拭いている。
「ねぇ景。これって持ってくわよね? 次の目的地ってどこなの?」
私は空港で見つけた表面には世界、裏面には日本が描かれた地図を指差し景に話しかけた。
「地図か? あ〜いやそれは良いかな、今持ってるのが旅用のだからこっちのやつのが詳しく載ってるはずだ」
景はそう言うと本のようになっているいかにも旅用な地図を見せてきた。
どうやら世界各国の地図がそれぞれあり、その地域の特産品なども詳しく載っている。
こんなものがあるならそりゃこんな地図は要らないだろう。
「へぇ〜こんなのあるんだね、すごい便利そう」
「一冊いるか?」
景がそう言いながら鞄から別のものを取り出す。
「一冊、とは言ってもそれの簡略版だがな。とはいえ初心者にはオススメなやつだぜ」
それは景が先ほど持っていた物よりは少し薄く、長い間使われていたように見えるものだった。
「あ〜もしかして汚れとか気になるか?
これ俺が旅を始めたばっかの時に使ってたお古なんだよ。嫌ならやめとくか?」
景が地図をパラパラとしながら私に言ってくる。
「全然大丈夫! 貰う!」
私はそう言って景から地図を貰った。
ある程度準備が終わると、私は景からもらった地図を開いてみた。
そこには景が書いたのであろう様々なメモが書いてあった。
見ているだけで景がどれだけ旅が好きなのかわかってしまうほどの
びっしりと書かれたメモ。
読むだけでも楽しく、見ているうちにどんどん時間は流れていった。
〜数時間後〜
私は景から渡された地図を読み込んでいるうちに寝落ちしてしまっていたようだ。
目が覚めると既に空はオレンジ色で
広がった地平線の先には沈みかける太陽があった。
世界は確かに崩壊していた。
目に映る景色がそれをひしひしと伝えてくる。
地面は割れ、建物は崩れ、この周りには、もうなにも残っていない。
でも、そこに広がる地平線はかつての世界では永遠に見ることのなかった景色だろう。
こういう景色を美しいと言うのだろう。
この世界に降り立ってから息をつく暇もなく生きてきた。
空を見上げれば美しい星々が。
目の先を見れば広がる空があるというのに。
私はこの景色を写真に撮りたいと思った。
そして景はこんな世界を多く知っているのだと思った。
「隣失礼するぞ」
景が後ろからゆっくり歩いてくる。
「わっ! びっくりした」
私は自分でも驚くほどこの景色に見惚れていたようだ。
「ほら、お前の手であの景色を切り取ってみなよ」
景が私にカメラを手渡してくる。
私は生まれて初めてカメラを手にする。
世界が美しいなんて、微塵も思ったことがなかったから。
景色を切り取るなんて変なことだなんて思ってもいた。
そんな私が今自分の手で。自分が美しいと思ったこの景色を撮る。
きっと景に会う前の私はこの景色を見てもなにも思わなかっただろうな。
「ちょ、これどうやって撮るの?」
私は景に撮り方を教えてもらいながら初めて自分で写真を撮った。
「ふ〜ん初めての割にはよく撮れてるじゃん」
景が写真を見てそう言う。
「それやるよ」
「え?でもそしたら景はどうするの?」
景が私にカメラを譲るというのだ。
「ふっふっふ〜実はな。これを見ろ!」
そう言って景は鞄からカメラを取り出す。
明らかに私が持っている方が新しく、良さそうに見えた。
「え? それが景のカメラ? じゃあこれは?」
「実はな……ここの近くにあった店を物色してた時、唯一瓦礫に壊されずに残ってたやつなんだよ」
景はそんなことをしてたのか……と思いつつも私は質問する。
「ならなおさら景が良いやつ使ったほうが良いんじゃないの?」
私は思ってたことを言う。
「確かにそうかもしんねぇが俺はコイツが良いんだよ。愛着だって湧いてるし」
景はそう言いながら持っているカメラを見つめる。
「それに、お前がこれから見つける美しいものはきっと俺が教えたものだけじゃない、お前が見つける美しいすべてに対応できるだろ」
景はそう言いながら少し微笑む。
そんなことを話しているといつの間にか太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。
「そうだ! 忘れてた! お別れ会! とっておきのもの私もあるの」
私はそう言って隠していたものを取り出した。
隠していたものとは缶詰のビスケットだ。
「ほらこれ食べよう!」
私はそう言って景にビスケットを渡す。
「どんなものを用意してるのかと思ったらビスケットか!」
私たちがなぜこんなに喜んでいるのか。
前の世界では普通に食べていた甘味料、
この世界では全く手に入らなかった。
ビスケットの缶詰はさぞかし身体に染みるだろう。
辺り一面の瓦礫の山からこれを見つけたのは
殆ど奇跡だ。
つまるところ奇跡の産物と言っても過言ではない。
「よくこんなの見つけたな」
景がそう言う。
「私だってちゃんと探索してたのよ。あ〜あ本当は1人で食べるつもりだったのに」
「1人で食べるつもりだった大切な物を分けてくれるんだな。ありがとう」
そう言って景は笑っていた。
私たちはビスケットを食べた後
遅くまで二人で語り合い、そのまま眠りについた。
〜翌朝〜
「彩、じゃあな。またどっかで会おうぜ」
景が別れの言葉を言っている。
「うん、一生の別れじゃあるまいし、いつかまた会いましょう。その時はまた新しい話を聞かせてね」
私たちはそう最後の言葉を交わした。
景は遠くに行っても何度かこちらに振り向いて手を振ってくれる。
私もそのたびに何度も手を振っていた。
昨日見たあの地平線の先に、景が見えなくなるまで、私はそこから動かずに何度も手を振った。
景が見えなくなったあと、周りは静けさに包まれていた。
初めてここに来たときと同じで周りは静まり返っていた。
でもあの時とは違う静けさなのは、自分でも分かっていた。




