第3話ー少女と出会いー
〜本を拾ってから数ヶ月後〜
こんな世界でもそれなりに生活をすることはできた。
食料は言わずもがな、水は近くにある自然公園に流れる小川の水を煮沸。
またここ数ヶ月で植物の成長が止まり始めた。
1ヶ月前までは毎日少しずつだが成長していた私はたまに伸びてくる根を切り落とす作業をしていたが最近はしなくなっていた。
私自身は少し体力がつき、最近は少し遠出をするようになった。
結局、こんなことになった世界でも前のようにつまらない生活になってしまう。
そんな矢先、私に転機が訪れた。
「……もう朝か、こんな世界でも慣れれば普通に生活できるんだな」
私はどこかため息を吐くようにそんな独り言を言いながら目を覚まし、作業に取りかかった。
野犬化したペットの犬、動物園から抜け出した動物などが辺りを徘徊しており
数日前に襲われかけたのだ。
あのときはどうやら腹が満たされていたようだが、
またここに来てもおかしくない。
そのため動物達に襲われることも考え、拠点の周りには柵やトラップを仕掛けていたのだ。
作業というのはこれの点検。
毎朝の日課だ。
「しかしこれは本当にめんどくさ……ん?」
「助けてくれぇ〜」そんな声が聞こえた気がした。
これがアイツと私の出会いであり、
私を変えるきっかけとなるとはこの時の私はきっと微塵も思ってなかったはずだ。
「助けてくれぇ〜!誰かいるんだろ〜!」
「……人の声!?」
柄にもなく叫んでしまった。
それもそのはず飛行機に乗っていた人を除いて、
今日まで人という人は死体しか見てこなかったからだ。
私はもし罠に獣が捕まった時のために予め用意しておいたナイフを手に恐る恐る罠へと近づいた。
いくらサバイバルができても私は少女だ。
大人には力で負けてしまう。
悪いやつに生活圏を取られてしまえば今までの努力が水の泡だ。
「何をしにここに来たんですか」
私はナイフを構えながら罠にはまったやつに話しかけた。
「あぁ!! やっぱり人がいたんですね!! ちょっとなんですかこれ! 早く助けてくださいよぉ〜!」
「…………?」
警戒していた自分が馬鹿らしくなった。
その余りにも馬鹿らしい姿に私は安心感を抱きつつも警戒は緩めずに質問を始めた。
「………てなわけなんだよ。 これで悪いやつじゃないってわかったろ〜?」
まとめると、どうやらこの人は世界中を旅しながら景色を撮影する旅人兼カメラマンだそうだ。
オーストラリアでの旅を終え帰宅途中この事態に巻き込まれたそう。
「その話が本当かは分からない。結局なにを目的にここに近づいたんですか。」
私はソイツの話を遮るように次の質問をした。
「いや〜、やっぱ旅してると色んな暮らししてる人と会うわけ? それでなんか人が生活してるような痕跡があったからそれを辿ってきたわけよ〜」
ソイツは何も悪いことではないように語り始めた
「だからってこんな世界でノコノコと人様の住処に来る奴がどこにいるんですか」
「ここに?笑」
「はい?」
私は内心こいつの罠をそのままにして放置して帰ってやろうかと思った。
しかしソイツはそれに気づいて焦ったのか
自分の撮った写真を取引に助けて少し面倒を見て欲しいと願ってきた。
「はい?」
私はまたしても同じことを言ってしまった。
私は続けてこうも言った。
「あんたの写真がこの世界で何の役にたつんですか?」
ソイツは焦ったような顔で取引内容を言い直し、
「わ、わかった! 今までの旅で学んだ知識とかを教えてやる!それで手を打ってくれ!」
「教えてやる?」
「教えさせていただきます!」
私はなぜか分からないが不必要にからかってしまい満足しながら取引を引き受けた。
人に会ったのが久しぶりだからだろうか?
いや。こんなことになる前だって人とこんな風に話したことはなかった。
「まるで友達だな笑」
カメラマンがそう言う。
「はぁ?馴れ馴れしくしないでください。
それに友達なんて16年生きて初めて言われました。」
前の世界では私は周りとは馴染めていなかった。
仕方ないことだと割り切っていたが誰かと話したいと思うことくらいはあった。
それで言うならばこの世界はそんな私の周りをリセットしてくれたのかもしれない。
「じゅ、じゅうろく!?」
カメラマンがそう叫びながら驚いているのを背に私は罠を外す道具を取りに行った。
久しぶりの人に少しの笑みを浮かべてしまった。
しかし簡単に人を信用してはいけない。
私は適切な距離を取りつつこいつとの生活を始めることにした。
〜数日後〜
カメラマンとの生活にも慣れ始め、ある程度はコイツを信用できるようになった時、今になってようやくお互いに名前を知らないことを思い出した。
「そういえば自己紹介もしてなかったね。」
「お?よーやくか?俺もいつしてくれるのか待ってたんだよ」
「そう思ってたならあなたから言ってくれればよかったじゃない」
そう思いつつもお互いに自己紹介をした。
カメラマン改めこいつは水瀬景というらしい。
「お、そうだ。自己紹介ついでに聞きたいんだがお前はどうやってこの惨事から助かったんだ?」
「お前って呼ばないでください。名前教えた意味は何ですか?」
そう言いつつも彼の質問には答える。
「飛行機に乗ってたのよ。この惨事を上から見てたの。幸い飛行機は無事に着陸できて乗員とは散り散りにここに来たのよ」
「そうだったのかそらぁ大変だったな」
それだけ?と思いつつも黙々と作業をしていたときに気づいてしまった。
「あっっっ!!!」
私の大声に彼はびっくりしていた
「うわっ!急になんだ!」
「そういえば…空港…」
私は空港という存在が頭から抜けていた。
きっと空港なら食料はあの時の乗客が取ってたとしても備品などは取れたろうに……こんなことを今考えても仕方ないどうせあの時行っていたって私の身体では
重い器具は運べず、逆にあの人たちに何かされていたかもしれない。
しかし今なら違う。
そう!水瀬景という人手が増えたのだから。
「今から準備して明日の朝方に行くわよ」
「え?」
彼は呆然としていたがそんなことは捨て置き
私は空港に向かう準備に取りかかった。
〜翌日の朝方〜
「よし出発しましょう」
私は眠そうな彼を起こし空港へと向かった。
この道も久しぶりに通る。
目ぼしいものがなくなってからはあまり来なくなってしまった。
私はその時ある違和感に気づく。
「ねぇ。ここにあった"アレ"、貴方が何かしたの?」
私が質問をする前から彼も何かに気づいていたようだ。
「いや。俺もこの道を通ったが"アレ"には何も手出しはしてない。そんなこと考えてる暇なかったからな。」
私たちの言う"アレ"とは崩れたビルなどの下敷きになってしまった死体たちのことだ。
私は駆け足でこの本とペンを拾った店の中へと入った。
「やっぱり…」
そう。以前道中に何度も見た"死体"がどこにもないのだ。私が店の場所を間違えるわけがない。
私はあの時目を逸らさなかった。どんなに気持ち悪くともその事実を目に、心に、記憶に刻んだ。
そもそもこの場所に向かってる時点で違和感はあった。
死体から漂うはずの腐敗臭がしない。死肉に群がる虫なども飛んでいない。
「(動物…? それか誰かが意図的に持ち去った…? もしくは…)」
「おい! これ以上考えるのはやめよう早く行こうぜ、」
「う、うん。」
私は身震いをした。
死体があるほうが異様な光景なはずなのに。
私たちは何もないその異様な光景に恐れを抱きつつ、足早に空港へと向かった。




