第2話ー少女、支配された世界で生きるー
〜本を拾った数日後〜
本を書くも何もまずは生活の基盤が整わなければ
何もできず死んでしまう。
「グゥゥゥ」
私のお腹がそう叫んだ。
自分でも驚くほどの大きなお腹の音に恥ずかしさを覚えつつも恥ずかしがる相手などいないことを思い出し、冷静さを取り戻していった。
「……まずは人が生きるのに必要なのは食料だが他には何が必要か考えるべきだろう」
こんな世界でも冷静さを忘れないことだけは過去の自分に感謝しておこう。
「まずは体力……は少し心配だ」
こんな世界だ。何をするにも体力が要る。
しかし私は勉強ばかりしていたから運動はほとんどしてこなかった。
「まぁ…こんな世界だ色々してたら必然的に体力がつくに違いない…、」
体力のことはひとまず置いておき。
「問題は食事と睡眠だな…」
食事は今は旧世界の保存食などを集めて生きてるが周りの物がなくなってしまう。
保存期間が過ぎてしまえば、己の身で調達しなければならない。
「元々文明世界で楽に生きてきた少女の私にとって自給自足はとても大変だろう…」
「睡眠もだ。今の世界に安全な場所は少ない…」
こんな世界でぐっすり眠れるやつなどただのバカか余程自分に自信のあるやつだけだろう。
「食事は今のところ大丈夫だから、まずは安全を確保するとしよう!」
「ワンッ」
「ヒャッッッ」私はすぐに物陰に隠れた。
人の生活はなくなり、まるで世界から音が消えたようだ。
前の世界は人によって音に包まれてたのだと実感する。
「人のいない世界はこんなにも静かだったんだ……」
静けさに包まれた街で犬の鳴き声を聞くのは、安心感といった物と同時に恐怖を私に覚えさせた。
腹を空かせた飼い犬が家から飛び出したに違いない……
「襲われる可能性も……早い内にここから離れよう、」
私はそう思った。
〜歩き始めて数時間〜
少し前までいた場所は周りがビルに囲まれて視野も狭く食料もない。
(一応歩きながら食料のありそうな場所。
通りやすい道を本の後ろのページにメモをしておいた)
あの場所はそろそろ周りの食料も潰れているか既に取った場所が多く潮時だっただろう。
それに比べここはちょっとした丘になっており人も居ない。恐らく前の家主が頑なに立ち退かなかったのだろう。
住むにも申し分なく、周りが開けており視野もある。
「しかしこの世界で野菜は育てられるのか……?」
この世界は未知のウィルスにより植物の成長速度が急激に上がっている。
そんな話を飛行機から降りた時にラジオで聞いた。
原因までは分からないが周りの植物たちもそういう事なのだろう。
「もし文明世界が残っていたら研究もしてみたかったかも…」
私はそう頭の中で思った。
「様々な分野の知識を覚える内にとりあえず分からないものは調べる癖がまだ取れてないようだな、」
こんな世界なのに。
「ーーそんな世界で野菜を育てようものなら……」
「ん……?」
「全ての植物が急成長を遂げるなら野菜もすぐに成長するのでは…」
私は自分でも天才なのではと思うことを思いついてしまった。
この仮説について検証するため
ここに来るまでの間に集めていた野菜店の種やペットボトルの水を用意した。
チョロチョロ〜♪
「(ゴクリ)…どうなるんだろう」
固唾をのみながら水をかけた種を見た。
「ブチッ」
袋が破れその中からひしめくような音を立てながら野菜が大きくなっている。
「ドンッ」
植物の根が地面にまで達したようで、
地面が割れ激しい音が鳴り目を瞑ってしまった。
空気が破裂するような、
キーンという音が耳を駆け巡る、
この世界の静けさに慣れてしまった結果耳が敏感になってしまったのだろう。
少しの間耳鳴りが止まなかったが
目を開くとそこには破れた種の袋と
かなり大きいサイズの人参が転がっていた。
「!!成功だ!やはりそうなのか!」
私は柄にもなく飛び跳ねて喜んでしまった。
久しぶりに食べる人参というまともな野菜はさぞかし美味いだろうと思いながら実験の成功に喜んだ。
全ての植物の成長速度が上がっているのだとしたら、野菜もそのうちだ!
こんな非現実的光景をこの目で見た驚きと食料を確保できる嬉しさが入り混じった声を出した。
品種改良により過成長が抑制されたのだろうか?
ある程度の変化には耐えれたらしい。
私はこの世界で生きるために必要な一歩を踏み出したのだ。
「次に必要なのは水だな」
「どうにかして飲水をさがしたいんだが……」
殆どの水は建物の倒壊や水道設備の停止で使えなくなり、
今は雨を集めて啜るしか方法がない。
幸いにも?車など排気ガスを出す類のものは動いてないから雨水が以前よりは安全だろう。
とは言っても簡易的なろ過程度はするが、
いつかは飲水を定期的に得られるように湧き水や川などを見つけたい。
少なくともこの世界は前の世界より退屈ではないな
この本を完成させるためにも私はまだ生きなければならない。
何度か寝たとはいえこんな場所での就寝はやはり少し怖い。
この世界のせいか耳が敏感になり風の出した少しの物音にもビクついてしまう。
「今日はもう少しだけ書いたら寝よう」
私は束の間の喜びを噛み締めつつそう口にして眠りについた。




