プロローグー第1話ー少女世界に降り立つー
2030年
人類は世界のほとんどを植物に奪われた。
寒星彩は何不自由なく生きてきた。
ただ生きてるだけでも周りを置き去りにする。
少女の目に映るのは白黒テレビを覗き込んだときのような世界。
ただ、少女の生活はつまらないものだった。
それが、彼女の目を濁らせていた。
生まれたときから何にも困らなかった。
生きていても、ぶつかるものが何もない。面白いことなんて、何もない日々。
両親とはよく出かけた。 趣味とよべるものもあった。
ただ。 ただ何か心に穴を開けたまま生きていた。
少女の目に見える世界はあまりにも色がない
趣味と呼べるものを何も考えずにやり続ける。
母が作った卵焼きを口へ運ぶ。美味しいはずだ。 大昔好きといったいつもの味。
そんな卵焼きを今日も作業のように口へ運ぶ。
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「これは、世界の鮮やかさを知らない少女の物語。
そして――荒廃してしまった世界で、世界の鮮やかさを知っていく物語」
世界は一瞬にして崩壊してしまった。
——あの日、私は空の上でそれを見ていた。
なのに私はまだ息をしている。
私の名前は、……寒星彩。
海外の学校を卒業し、帰国のため飛行機に乗っていた。
ゴールデンウイーク明けなこともあり機内は少数の乗客しか乗っておらず閑散としていた。
そのとき、窓の外から轟音が聞こえた。
鳴り止むことのない爆発音。
何事かと周りを見ると泣き出す赤ちゃん、
焦りを隠せずにいる乗務員、
窓の外を青ざめた顔で見る人々。
私もつられて窓の外を覗くと街にある建物という建物が何かに突き破られ瞬時にして崩れ去るところを見た。
その中にはこの街のランドマークとも言えた、大きなビルがあった。
高さで言えば中腹あたりにある大きな展望台を先ほど見た何かが突き破り隣の建物まで伸びている。
既にランドマークと言える状態ではなくなっているのが空からでも分かる。
空港の近くの高速道路は既に倒れており、
コンクリートの下からは何かが見えていた。
〜数十分後〜
——世界は、一瞬にして変わり果てた。
辛うじて飛行機は着陸できたものの地上は完全に崩壊している。
こんなことになったのは、とある国の調査隊のせいだという話を偶然乗り合わせた人が持っていたラジオから少しだけ聞いた。
運よく潰されなかった者。
地上にいなかったものだけが生き残っている。
飛行機を降りて辺りの状態を確認すれば空から見た時よりも悲惨だった。
「なにこれ……」
私は思わず手で口を塞ぎながらも呟いた。
まるで世界の終末のような光景が辺り一面を覆っていた。
地面は割れ植物が生えており、
崩れたガソリンスタンドが燃えていた。
直前の雨により火は広がらずに鎮火していたのは不幸中の幸いだった。
「あの……」
少しして一緒に飛行機に乗っていた乗客十数名程から声をかけられた。
「な、なんですか?」
私は驚きつつも返事をしたところ
あの人達はいまの状況が掴めるまでここの人達で協力しないか?という提案だった。
「すみません、遠慮しておきます」
「え? 本当に大丈夫ですか? まだ小さいようですし……」
一部乗客たちは心配そうな顔でこちらをみているが私は特に何も言わずにその場から去った。
救助は来ないだろう。
視界には燃え盛る建物、耳には爆発音とバチバチと炎の燃える音。
既に物資のことで揉めているのが遠くからでも見てうかがえる。
自慢ではないが私は要領だけは良かったので
一人でも並大抵のことはでき、この状況でもある程度は一人でもなんとかなると思う。
授業のマラソンでさえ少し走るだけで倒れていたような私が
そんなリスクを背負うくらいならば1人のほうがまだ安全だ。
多分、時間が経てば弱い人間から居場所を失っていく。
〜数十分後〜
私は一刻も早くあの場から離れるため少し遠くまで歩いていた。
「バキバキバキ」という音が聞こえる今もコンクリートが貫かれている。
どこを見ても倒壊したビルか大きく生えた植物しか見えないわけでうんざりしてくる。
どうやら空から見えた何かは植物だったようだ。
私はまずできる限り歩き、あの集団から離れスーパーの瓦礫から食料を探した。
「おっ缶詰だ」
缶詰は凄い。
長い時間保存が効く缶詰はこの世界では貴重だろう。
カバンに入れてた多くの要らないものを捨て、食料を運びながら遠くに見えた高台へ歩いた。
「ひどい……」
さっき見たのなんて比じゃない。
もはやこの地域は復興不可だろう。
食料を集め、移動しているうちに日は傾き
いつの間にか空は暗くなっていた。
そうして私はこの世界での1日目を過ごした。
この世界に降り立ってまず最初に考えたのは両親のことだった……。
「ここから家までは歩いてたら少なくとも数ヶ月はかかるだろうな……」
私は両親が生きていることを祈り、まずは自分のことを考えることにした。
この事態にまだ適応できてない人も多い中、私は
食料を探していた。
「……この大きくなった植物たちは食べられないのかな」
私はそんなことを呟きスーパーを漁っていた。
ふと隣に目をやるとそこには倒壊した建物に押しつぶされ下半身が潰れた死体があった。
私の目に映る世界はいつも通り白黒のはずだった。
でもこの異様な光景はそんな世界でもはっきりと見えてしまった。
いや、違う。正確には私が見ようとしなかっただけだ。
ここに来るまでに何度も視界に死体は入っていた。
視界の端に追いやり見えなかったことにしただけで。
見ようと思えば色だって分かる。
それでも私が世界を白黒にして生きてきただけだ。
吐き気がこみ上げる。
それでも私はこの事実から目を逸らさなかった。
いや、逸らしたら、何かを捨ててしまう気がした。
世界をどんな風に見るのかは勝手だ。
だが人の死を軽んじて良いわけではない。
一通り吐いた後、フラフラとした足取りで戻ろうとした時何かを踏んでしまった。
足元の感触に、一瞬だけ息が止まる。
——でも、それは私の考えたものとは違った。
落ちていたのは、一冊の本とペンだった。
どうやら目の前の人の物のようだ。
死んでしまった人間が最後に残したもの。
「………」
なぜか少しだけ安心した、私は本とペンを手に取り店を出て
仮拠点としているところへ向かった。
「……これ、どうしようかな、」拾った本とペンを手に眺めながら口にした。
本をじっくりと見る。
そのときになってようやくこれが本ではなくメモ帳だったことに気がついた。
「メモ帳……?」
「ってことはあの人は何かを遺したくてこれを、買ったのかな」
色んな考えが浮かんだ。
誰に諭された訳でもなくただ私は本を開きペンを手にした。
「本を書きたかった訳でもないこの人の為に書きたい訳でもない…」
私はこの世界でたまたま生き残ったに過ぎない。
こんな世界で老衰だなんて無謀にも程がある。
こんな私でも、どうせなら世界に"私がいた証"を遺したい。
未来の誰かに私の存在を見つけさせたい。
そう思ったのかもしれない。
だから書くことにした。
拾ったこの本に、日本に帰ってきたときからのことを書き始めた。




