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■第4話:結婚という名の生活が始まる

再会から半年ほどは、月に一、二度食事に行く程度の関係が続いた。やがてそれが週末にどちらかの部屋でレンタルDVDを観る関係になり、ごく自然な流れで二人は復縁した。

一度別れた最大の理由である「将来への不安」は、健太がそれなりに社会人として自立し、毎朝文句を言いながらも同じ時間に起きて会社に通っているという事実によって、いつの間にか解消されていた。

プロポーズは、2010年の秋。二人が二十代最後の年を迎えた頃だった。

健太の住む手狭な1Kのアパートで、近所のスーパーで買った割引の惣菜をつまみに缶ビールを飲んでいた夜。テレビでは気の抜けたバラエティ番組が流れていた。

「俺たちも、そろそろ三十だしさ。……結婚、しよっか」

健太の言葉に、佐知子は少しだけ箸を止め、テレビから視線を外さずに「そうだね。うちもアパートの更新時期だし」と答えた。

ひざまずいて指輪を差し出すようなロマンチックな演出も、涙を流すような感動も皆無だった。それは人生の大きな決断というより、生活の延長線上にある事務手続きに近い合意だった。

翌年の春、二人は区役所に婚姻届を出し、都内へのアクセスが良い千葉県のベッドタウンにある、築十年の2LDKの賃貸マンションで新婚生活をスタートさせた。

佐知子は一般職として働き続け、共働きの二人は「家事は気づいた方がやる」「週末にまとめてこなす」という緩いルールを決めた。

最初は新鮮だった「誰かと一緒に暮らす」という行為も、数ヶ月が経てばただの「生活」に変わっていく。

「健太、靴下は裏返しのまま洗濯カゴに入れないでって何度言えばわかるの?」

「あ、ごめん。次から気をつける」

「前もそう言ったよね。あと、昨日の夜、お風呂場の換気扇回し忘れてたよ。カビ生えちゃうから気をつけてって言ってるのに」

「……悪い」

平日の夜、疲れ切って帰宅した後の些細な小言が、健太の心を少しずつ削った。

佐知子にとっても、何度言っても直らない健太のルーズさや、食器を洗わずに水に浸けたまま放置する癖が、澱のように不満として溜まっていく。

恋人時代には見えなかった、あるいは見ないふりができていた「生活習慣の違い」という冷徹な現実が、二人の間に横たわっていた。

大声で怒鳴り合い、皿を投げつけるような激しい夫婦喧嘩はない。ただ、会話の少ない夕食や、ため息混じりに佐知子がゴミ袋の口を縛る音が、静かなリビングに響くだけだ。

休日の朝、同じベッドの中で背中を向け合ったまま、どちらも起き上がろうとしない気まずい時間。

結婚とは、日々愛を囁き合うことよりも、互いの生活のノイズを許し合い、妥協し合うことの連続なのだと、二人は身をもって悟り始めていた。

それでも、離婚という文字が頭に浮かぶほどの致命的な亀裂でもない。文句を言いながらも、休日の午後には一緒にスーパーへ行き、特売のトイレットペーパーを買って帰る。

冷蔵庫の低いモーター音と、遠くを走る電車の音だけが、劇的なことなど何も起きない二人の日常のBGMだった。

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