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■第2話:ありふれた恋と、ありふれた別れ

二人が付き合い始めたのは、大学一年の秋だった。

どちらからともなく劇的な告白があったわけではない。サークルの集まりで何度か顔を合わせ、流れで二人きりで映画に行き、ファミレスのドリンクバーで終電近くまで粘るような日々を重ねるうちに、ごく自然と「付き合っている」という空気になっただけだ。

折りたたみ携帯の「センター問い合わせ」を頻繁に押し、短い文字数のメールのやり取りに少しだけ心を躍らせる。そんな、2000年代初頭のどこにでもいる大学生の恋愛だった。

大学生活は、授業の代返、カラオケ、安いチェーン居酒屋での飲み会と、これといった起伏もないまま過ぎていった。健太も佐知子も、突出した才能があるわけでも、熱中できる大きな夢があるわけでもなかった。

それでも、二人でいる時間はそれなりに居心地が良かった。レンタルビデオ店で旧作のDVDやビデオテープを借りて健太の六畳半のアパートで観たり、誕生日に少しだけ奮発して駅ビルのレストランに行ったりした。

しかし、そのモラトリアムな平穏に少しずつヒビが入り始めたのは、大学三年生の冬。就職活動の足音が本格的に聞こえ始めた頃だった。

「健太、エントリーシート書いた? もうプレエントリー始まってるよ」

ファストフード店のプラスチックのテーブル越しに、真新しいリクルートスーツを着た佐知子が言った。彼女の表情は、以前よりも少しだけ険しく、現実を見据えていた。

「ああ、うん。週末には書くよ。まあ、なんとかなるだろ」

健太は適当に相槌を打ちながら、冷めたフライドポテトを口に運んだ。本当は一文字も書いていなかった。やりたい仕事など見つかっていなかったし、社会人になるという現実からただ目を背けたかった。

堅実で少し心配性な佐知子は、着々と企業研究を進め、面接の予定を手帳に黒々と埋めていった。一方の健太は、重い腰を上げて数社の合同説明会に足を運んだものの、どこか他人事のようで熱が入らない。

二人の会話はいつしか就活の進捗状況と愚痴ばかりになり、気まずい沈黙の時間が少しずつ増えていった。

「……健太と一緒にいても、将来が見えない」

大学四年の初夏。佐知子が中堅商社から内定をもらった直後のことだった。

いつもの駅前のファミレス。いつものメロンソーダとアイスコーヒー。しかし、二人の間に流れる空気だけが決定的に冷え切っていた。

「ごめん。私、もっとちゃんと先のことを考えてる人と一緒にいたい」

佐知子の静かな言葉に、健太は反論できなかった。彼女の言う通りだと思ったし、今の自分には彼女を安心させるだけの計画性も、情熱もないと自覚していたからだ。

「そっか。……わかった。今までごめんな」

健太が絞り出した言葉は、それだけだった。ドラマのように涙を流してすがることも、声を荒げて引き止めることもしなかった。

店を出て、駅の改札で別れる。

「じゃあ、元気でね」

「うん。佐知子も仕事、頑張れよ」

あっさりとした別れ際だった。お互いに背中を向けて歩き出した瞬間、健太は少しだけ胸の奥がチクリと痛むのを感じたが、足が止まるほどの激痛ではなかった。佐知子もまた、一度も振り返ることはなかった。

こうして、鈴木健太と佐藤佐知子の約三年間の交際は終わった。

それは若さゆえのありふれたすれ違いであり、数え切れないほどの男女が経験してきた、どこにでもある恋の結末だった。

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