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サイショードーキョ(妻妾同居) 〜妻と元カノと三人で暮らしたら、家族が増えていった話〜  作者: カトーSOS


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第9話 共有しよう

挿絵(By みてみん)


第9話 共有しよう



コーヒーは、すっかり冷めていた。


 さっきまでの会話が、まだテーブルの上に残っている。


 千尋は、カップの縁を指でなぞりながら、何も言わない。


 香織も、すぐには口を開かなかった。


 沈黙が、重く落ちる。


 でも、その沈黙から逃げる気はなかった。


「……ねえ、千尋」


 香織が、静かに言う。


 千尋が顔を上げる。


「なに?」


 いつもと同じ声だった。


 けれど、どこかで何かを待っている。


 さっき、自分が言ってしまったことの続きが来るのを。


「もう一つだけ、ちゃんと聞いていい?」


 少しだけ間があって、


「……うん」


 と、千尋はうなずいた。


 香織は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「さっきの答えで、分かった」


 千尋の指が止まる。


「……なにが?」


「千尋、まだ慎也のこと好きなんだよね」


 千尋は、何も言わなかった。


 視線を落としたまま、動かない。


 否定しない。


 それが答えだった。


 香織は、その沈黙を受け止める。


 そして――


「じゃあさ」


 言葉を続ける。


 ほんの少しだけ、間を置いて。


「慎也を、私と千尋で共有しよう」


 時間が、止まった。


 千尋の表情が、固まる。


「……は?」


 聞き返す声は、わずかに遅れて出た。


 意味を理解していない声だった。


 香織は、目をそらさない。


 言い直さない。


 冗談にも、しない。


 千尋の頭の中で、言葉がそのまま再生される。


 シンヤヲワタシトチヒロデキョウユウシヨウ


 音だけが、浮かぶ。


 意味が、つながらない。


「……それ、どういう意味?」


 ようやく出た言葉は、確認だった。


 否定ではない。


 ただ、分からないという確認。


「そのままの意味だよ」


 香織は、はっきりと言った。


 迷いはなかった。


 千尋は、言葉を失う。


 理解が追いつかない。


「……いや、無理でしょ」


 口から出たのは、それだけだった。


「何それ」


 もう一度、言う。


「意味わかんない」


 それでも、完全に切り捨てることはできなかった。


 香織が言っている。


 それが、引っかかる。


 冗談なら、笑って終わるはずだった。


 でも、笑えない。


 香織は、笑っていない。


「私、ちゃんと考えて言ってる」


 静かな声だった。


 強くもない。


 でも、揺れていない。


 千尋は、その言葉を受け止める。


 冗談じゃない。


 本気だ。


 それだけは、分かる。


 だからこそ――


 分からない。


 あり得ない。


 そんなこと、普通は考えない。


 でも。


 目の前の香織は、普通の顔でそれを言っている。


 逃げてもいない。


 ごまかしてもいない。


 ただ、そこに置いている。


 答えのように。


 千尋は、何も言えなくなった。


 否定する言葉が、見つからない。


 肯定もできない。


 ただ、考えが止まる。


 沈黙が、また落ちる。


 テーブルの上には、冷めたコーヒーが二つ。


 誰も手をつけない。


 香織は、千尋を見ている。


 待っているわけでもない。


 押しつけるわけでもない。


 ただ、言ったまま、引かない。


 千尋は、その視線を受け止めながら、


 理解しようとする。


 でも、できない。


 あり得ない提案だった。


 それなのに。


 香織が言ったというだけで、


 冗談だと切り捨てることができなかった。

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