表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイショードーキョ(妻妾同居) 〜妻と元カノと三人で暮らしたら、家族が増えていった話〜  作者: カトーSOS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/16

第4話 引っ越し準備

挿絵(By みてみん)


 部屋の中に、段ボールが積まれていた。


 棚は空になり、床には新聞紙とガムテープ。

 いつもなら生活感で埋まっている空間が、どこかよそよそしくなっている。


 引っ越し前日。


 もうここでの生活は終わる。


 そう思うと、少しだけ寂しさがあった。



「これ、本どうする?」


 振り返ると、香織が本棚の前でしゃがんでいる。


「いるやつだけでいいよ。残りは処分かな」


「雑誌も?」


「雑誌は全部いらない」


「ほんとに?」


「たぶん二度と読まない」


「もったいない気もするけど」


「読むなら今までに読んでる」


「それもそうだね」


 香織は一冊ずつ手に取りながら、必要と不要を分けていく。

 俺はその横で、まとめられた本を段ボールに入れていく。


 役割分担は自然とできていた。


 重いものは俺。

 細かい整理は香織。


 気づけば、何も言わなくてもそうなっている。



「そんな細かく分ける?」


 香織の手元を見ると、本のジャンルごとに分けられている。


「後で開けるとき困るでしょ」


「いや、別に」


「困るの。絶対」


「性格出るなあ」


「慎也が適当すぎるの」


「重いの持ってるんだから許して」


「それは認める」


 少し笑った。


 こういう何でもないやり取りが、今の生活だった。


 段ボールは少しずつ増えていく。


 棚が空になる。

 机の上が片付く。

 キッチンも、少しずつ何もなくなっていく。


 生活が解体されていく感じがした。


 でも、不思議と嫌な感じではなかった。


 次があるからだ。



「新しい家、広いよな」


「うん。今よりだいぶ」


「荷物、全部入るかな」


「入ると思うよ。むしろ余るんじゃない?」


「そんな気がする」


「三部屋あるしね」


「だよな」


 ふと、間取りを思い出す。


 寝室。

 リビング。

 もう一部屋。


「奥の部屋が僕かな」


「うん」


「で、こっちが寝室で」


「そうだね」


「もう一部屋は……まあ、そのうち使うようになってからでいいんじゃない?」


「そうだね。とりあえずはそれで」


 香織は特に何も言わなかった。


 ただ、そのまま段ボールに物を詰めていく。



「冷蔵庫、どうする?」


「中身は明日で使い切るしかないな」


「じゃあ今日の夕飯、それで決まりだね」


「残り物パーティーか」


「豪華だよ?」


「期待してる」


「任せて」


 香織はそう言って笑った。


 こういうときの「任せて」は、だいたい外さない。


 料理もそうだし、こういう準備もそうだ。


 段取りがいい。


 抜けがない。


 俺がやるより、たぶんうまくいく。



 作業は夕方まで続いた。


 段ボールは壁際に積まれ、部屋はほとんど空になっている。


 座る場所もなくなって、二人で床に座った。


「終わったな」


「だいたいね」


「思ったより早かった」


「慎也が頑張ったから」


「重いの運んだだけだけどな」


「それが大事」


 少し疲れていたけど、悪くない疲れだった。



「明日、何時からだっけ」


「朝九時」


「早いな」


「引っ越し屋さんが来る時間」


「そっか」


 明日で全部終わる。


 ここから、新しい生活が始まる。



「……明日さ」


「うん?」


「俺、仕事なんだよな」


「うん、聞いてる」


「立ち会えないの、ちょっと悪いなって」


「大丈夫だよ」


 香織はあっさり言った。


「当日は私がやるから、慎也は仕事行ってていいよ」


「大丈夫?」


「大丈夫。引っ越し屋さんもいるし」


「いや、なんか……全部任せちゃって」


「いいの」


 迷いはなかった。


「任せて」


 その一言で、十分だった。



「悪いな」


「気にしなくていいって」


「じゃあ、任せる」


「うん」


 自然にそう決まった。


 俺がいたところで、やることは限られている。

 むしろ香織の方が、こういう場面は強い。


 任せた方がスムーズにいく。


 そう思った。



 夜になって、何もない部屋に布団を敷いた。


 最後の夜。


 この部屋で過ごすのも、これが最後だ。


「なんか、変な感じだな」


「うん」


「もう何もない」


「でも、明日から新しいよ」


「だな」


 天井を見上げる。


 ここで過ごした時間は、短いようで、それなりに長かった。


 でも、もう終わる。



「楽しみ?」


 香織が聞いてきた。


「まあ、普通に」


「普通なんだ」


「めちゃくちゃ楽しみってほどでもないけど」


「慎也らしい」


「香織は?」


「楽しみだよ」


「そうか」


「広いし」


「それはあるな」


「いろいろできそうだし」


「まあ、そうだな」


 何ができるかは、まだ具体的には考えていなかった。


 でも、悪くはない未来だと思っていた。



 引っ越しの当日は香織に任せることにした。


 そのときの僕は、それがただの役割分担だと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ