第26.0話 新オーナーとの面接
佐藤健太編
第26.0話 新オーナーとの面接
俺の名は佐藤健太。
コンビニの開店アシストという仕事をしている。
新しくコンビニのオーナーになる人に対して、開業までの間に必要なことを一通り整えるのが仕事だ。
役所関係の手続き。
各種業者とのやり取り。
仕入れ先の登録。
内装工事の確認。
空調の手配。
業務用冷蔵庫や什器の搬入。
やることは山ほどある。
だが、それだけじゃない。
オーナー本人に対して、
何を先にやるべきか、
何を後に回すか、
何を人に任せるか、
何を自分で見るべきか。
そういう“回し方”を教えるのも仕事だ。
店は、作れば終わりじゃない。
回らなければ意味がない。
俺は、その「回るかどうか」を見る仕事をしている。
今日の相手は、新規オーナー。
面接、というほど堅いものでもないが、最初の顔合わせだ。
ドアが開く音がして、男が入ってくる。
三十代後半くらいか。
スーツは新しめで、少しだけ体に馴染んでいない。
緊張しているのが分かる。
「本日はよろしくお願いします」
きちんと頭を下げる。
声も通る。
第一印象は悪くない。
「こちらこそ。佐藤です」
軽く会釈して、椅子をすすめる。
「どうぞ、座ってください」
「失礼します」
男は背筋を伸ばして座る。
姿勢はいい。
ただ、力が入りすぎている。
こういうタイプは、だいたい全部自分で抱える。
少し間を置いてから、口を開く。
「コンビニ、やりたい理由を聞いてもいいですか」
定型の質問だ。
だが、ここでほぼ決まる。
「はい。ずっと、自分の店を持ちたいと思っていて……」
視線はまっすぐ。
言葉も淀まない。
「地域の人に愛される店を作りたいんです」
出た。
抽象。
悪くはない。
だが、それでは店は回らない。
「なるほど」
相槌だけ打つ。
否定はしない。
ここで否定しても意味がない。
「ご家族は?」
「妻と子どもが二人います」
「お店には関わります?」
ほんの少しだけ間が空く。
「いえ……できるだけ、自分でやろうと思っています」
やっぱりな。
内心で、チェックが一つ増える。
「なるほど」
また相槌だけ。
表情は変えない。
「最初は、全部覚えないといけないと思っているので」
言葉は真面目だ。
間違ってはいない。
だが、危ない。
「全部やると、回らなくなりますよ」
初めて、少しだけ踏み込む。
男の表情が一瞬止まる。
「え?」
「覚えるのと、抱えるのは別です」
「……」
理解しきれていない顔。
だが、否定もしない。
このタイプは、一度やらないと分からない。
「人に任せるの、苦手ですか」
少しだけ角度を変える。
「……正直に言うと、はい」
素直だな。
それは悪くない。
だが、そのままだと確実に潰れる。
「分かりました」
ここで説教はしない。
今言っても入らない。
必要なのは、現場だ。
「開業まで、やることはかなり多いです」
「はい」
「途中で、“思っていたのと違う”ってなると思います」
少しだけ間を置く。
「それでも、やりますか」
男は一瞬だけ視線を落とす。
ほんの一秒。
それから顔を上げる。
「やります」
迷いは、ない。
この返事だけは本物だ。
だから厄介でもある。
「……分かりました」
小さく頷く。
「じゃあ、やっていきましょうか」
男の顔が少しだけ緩む。
安心した顔だ。
まだ、何も始まっていないのに。
資料を手に取る。
「まずはスケジュールから説明します」
「はい!」
声が少し明るくなる。
その変化を見ながら、内心で思う。
大変なのは、ここからだ。
だが、それを今言っても意味はない。
店は、説明では回らない。
回しながら覚えるしかない。
俺の仕事は、その“回る形”を作ることだ。
この男が、それを理解するまで付き合うことになる。
――回るかどうか。
それは、これから分かる。




