↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイショードーキョ(妻妾同居) 〜妻と元カノと三人で暮らしたら、家族が増えていった話〜  作者: カトーSOS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/36

第24話 買い物の連携

挿絵(By みてみん)



第24話 買い物の連携


 夕方の買い物というのは、もっと雑に決まるものだと思っていた。


 そういえば今日牛乳飲みきった、と思い出してコンビニに行ったついでにおでんを買ったり、

「帰りに醤油とトマトジュースと豆腐とジャガイモ買ってきて」とメールが来ていて、気軽に請け負ったら、あとから重いものばかりだと気づいて後悔したり──そういうものだと思っていた。


 少なくとも、


 今日は誰が行くか。

 何を買うか。

 冷蔵庫に何が残っているか。


 その場その場で確認して、

 気づいたほうが少し面倒そうにしながら、

「まあどちらかが行くしかないか」という空気で決まるものだと思っていた。


 少なくとも、二人暮らしの時はそうだった。


 だから僕は、三人暮らしになったら、こういうところがどうなるだろうかと思ってた。


 冷蔵庫。

 調味料。

 買い置き。

 特売。

 賞味期限。


 人数が増えたら絶対にややこしくなる──

 はずだった。


 その日の朝、香織と千尋は冷蔵庫の前で、もうその話をしていた。


「卵まだあったよね」


「あと二個あるね。買い足さなくちゃ」


「牛乳は朝で切れた」


「お味噌もそろそろ危ない」


「豆腐安い店寄る?」


 僕はコーヒーメーカーの前で、その会話を聞いていた。


「何でそんな把握してるの」


 思わず聞くと、香織が振り返る。


「覚えてるから」


 千尋も頷く。


「私は今見たところです。」


 たしかにそうだ。


 香織は家事担当の中心だし、

 千尋は冷蔵庫を開けて中を確認していた。


 何もしてないのは僕だけだ。


 なんだか、少し気まずくなった。


 中身を確認して、足りないものをメモする。


 それくらいは、今度から僕もやっておこう。


「今日、帰りに買い物行こう」

「18時に駅前で集合です。」


 僕は靴を履きながら、少しだけ身構えた。


 買い物というのは、もっとその場で決まるものだと思っていた。

 でも、この家ではもう違うらしい。


 朝の時点で、だいたいの話は終わっている。


 仕事が終わって駅に着くと、すでに香織と千尋が待っていた。


「遅いよ」


「まだ、5時45分なんだが……」


 僕の抗議は受け付けられない。


 三人でスーパーへ向かう。


 店に入った瞬間から、香織と千尋の動きが早かった。


「卵は買う」


「うん、あと牛乳」


「味噌も」


「豆腐は、安い方の店寄った方がいいかな」


「今日はこっちでいいと思う」

「そんなに差がないし」


「じゃあ、そうする」


「あと食洗機の洗剤は?」


「まだ、ストックがある」


「そーいえば、コーヒーフィルター切れてたね」


 会話が速い。

 連携プレーである。


 しかも、朝に見た冷蔵庫の内容を二人ともちゃんと覚えている。


 僕だけが置いていかれる。


「ちょっと待って」


 二人が同時にこっちを見る。


「なんで二人ともそんな把握してるの」


 香織はきょとんとした顔をした。


「朝見たじゃん」


「いや、見たけど」


「見たけど、キッチン用品の話はしてなかったよな?」


 千尋が少し笑った。


「食洗機の洗剤は、この前最後の一本出していましたし」


「コーヒーフィルターは、慎也が今朝使い切ってたじゃん」


 今朝確かに、コーヒーを淹れたあと、

 空になったフィルターの袋をゴミ箱へ捨てた気がした。


 すっかり忘れていた。


「慎也、台所あんまり見ないでしょ」


「見てるわ」

「いや……そこまで見てないだけで」


「それを見てないって言うんだよ」


 香織がさらっと言った。


 腹が立つ。

 でも言い返せない。


 たしかに僕は“台所を使う”ことはあっても、

 “在庫を管理するために見る”ことはほとんどない。


 千尋が棚を見ながら言う。


「トマトジュースも買う?」


「買う」


 香織が即答する。


 そう、香織はトマトジュースをよく飲む。

 僕も千尋も、時々飲む。


「じゃあ二本ね。」


「三本でいいんじゃない?」

「慎也もたまに飲むし」


「いや、たまにだぞ」


「でも飲むじゃん」


 千尋にそう返されて、僕は黙る。


 飲む。

 たしかに飲む。


 生活の把握されっぷりがすごい。


 僕は買い物カゴを持ったまま、二人のあとをついていく。


「何か他にいる?」


「ラップ」


 香織が即答する。


「資源ごみ袋も」


「あ、そろそろ切れるね」


 またそれだ。

 妙に自然に噛み合う。


 僕はカゴを持ちながら、心の中で少し呻いた。


 香織と千尋は、別にきゃっきゃしているわけでもない。

 騒いでいるわけでもない。


 でも、生活の相談が“当たり前の会話”として成立している。


 それがまた妙に落ち着かない。


 恋愛の熱で繋がっている感じではない。

 もっと地味で、もっと現実的で、

 そのくせ妙に強い。


 この共同体は、たぶんそういうところでできている。


「僕がいる意味ある?」


 とうとう口に出した。


 香織が振り返る。


「あるよ」


「ある?」


「荷物持ち」


 即答だった。


 千尋が吹き出した。


「ひどいな」


「ひどくないよ」

「慎也、力あるし」


「いや、それはそうだけど」


「じゃあ合理的ですね。」

千尋は笑う。


 そこまで言われると、また反論しにくい。


 合理的。


 この家は、どうしてそんな言葉ばかり似合うんだ。


 レジに並ぶ。


 カゴの中身は、どう見ても“家庭の買い物”だった。


 牛乳。

 卵。

 豆腐。

 味噌。

 ラップ。

 コーヒーフィルター。

 トマトジュース。

 資源ごみ袋。


 それに肉類。


 鶏。

 豚。

 牛。


 なぜか鶏レバーまで入っている。


「僕、鶏レバー嫌い」


「大丈夫、私たちは好きだから」


「ねー」


 香織と千尋の声が揃う。


 なんだか、僕より二人の方が仲がいい。


 野菜も多かった。


 キャベツ。

 レタス。

 大根。

 エリンギ。

 エノキ。

 もやし。


 何も特別なものはない。


 なのに、それを三人で決めているという事実だけが、妙に引っかかる。


 会計が終わる。


 店員がレジ袋を持とうとした瞬間、香織が軽く手を上げた。


「袋いらないです」


「いや、もらえばいいじゃん」

「五円だろ?」


「もったいないでしょ」


 あっさり返される。


 そして次の瞬間だった。


 香織が肩にかけていた小さめのバッグに手を入れる。


 そこから、エコバッグが一つ出てきた。


 まあ、それは分かる。


 でも終わらなかった。


 もう一つ出てくる。

 さらにもう一つ出てくる。


「……ちょっと待って」


「そのバッグ、どうなってるの?」


「普通だよ」


「普通じゃないだろ」


 まだ出てくる。


 僕は思わず手を伸ばした。


「いや、中見せて」


 その瞬間だった。


 横から千尋の手が軽く僕の腕を止めた。


「だめ」


「え?」


「女のバッグは、秘密が多いの」

「触っちゃダメです」


 静かな声だった。

 でも妙に説得力があった。


「……そんなもんなの?」


「そんなもんです。」


 千尋は小さく笑った。


 香織は何も言わずに、エコバッグに商品を詰めている。

 手際がいい。

 というか、慣れすぎている。


「……僕、ほんとに荷物持ちだな」


「うん」


 香織が即答した。


「助かる」


 千尋も頷く。


「助かります」


 二人とも同じことを言う。

 しかも自然に。


 僕は反論しようとして、やめた。


 実際、今この場で一番役に立っているのは、

 この荷物を持てることなのは間違いなかった。


 それが分かっているから、余計に落ち着かなかった。


 帰り道、エコバッグの持ち手が手に食い込む。


 重い。

 でも、一人で持てないほどではない。


 そのくらいの重さだった。


 香織と千尋は、その横で明日の献立の続きを話している。


「豆腐、やっぱり明日使う?」


「半分は使う」

「残りは味噌汁でもいいかも」


「それならネギ買っとけばよかった」


「まだあったと思う」


 またそれだ。


 二人はもう普通に生活の話をしている。


 在庫を見て、

 献立を考えて、

 足りないものを決めて、

 明日の話まで自然に繋がっていく。


 どこにでもある買い物帰りの会話のはずなのに、

 僕だけがまだ、その流れに入りきれていなかった。


 しかも厄介なのは、

 その流れ自体はちゃんと回ってしまっていることだ。


 回るどころか、

 前より効率がいい気さえする。


 僕はエコバッグを持ち直した。


「……なんでこんなに“当たり前みたい”なんだ」


 ぼそっと漏れた声に、香織が振り向く。


「当たり前じゃないよ」


「じゃあ何なんだよ」


「うまく回ってるだけ」


 香織は平然とそう言った。


 千尋も頷く。


「それって、たぶん大事なことです」


 僕は返事をしなかった。


 返事をすると、何か認めることになりそうだったからだ。


 でも、否定もしきれなかった。


 家に着くころには、

 僕の手の中のエコバッグだけじゃなく、

 胸の中にも少し重たいものが増えていた。


 それは疲れというより、

 “変なのに、なぜか回る”という現実そのものだった。

話し方について


香織 → 全部タメ口

→ 妻として親友として距離ゼロ

千尋 → 香織にタメ口

→ 親友同士の空気

千尋 → 慎也に敬語

→ 元恋人だけど一歩引いてる → “今は香織の夫”という線引き

これだけで、 三人の空気が会話だけで出る。

しかも、 二人きりで「慎也」に戻る余地がある。

千尋→慎也

慎也さん

~ですよ

~です

~ます

~でしたよね

千尋→香織

タメ口

慎也 どちらにもフラットだが、香織にはちょっと強くいう。但し、たいてい負ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。