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第30話 告白

「いやあぁぁぁぁッ!!」


ドクンッ!!


喪失の恐怖をトリガーとして、わたしの内側から爆発的な魔力が、再び奔流となってあふれ出す。


――死なせない。絶対に、連れて行かせない!


わたしはアズールの骸のように冷たくなった唇に、自分の唇を押し当てていた。

わたしの命を、彼に注ぎ込む。


熱い。身体が内側から焼かれるようだ。

けれど、構わない。わたしの命の半分でも、全部でもくれてやる。だから戻ってきて。


お願いじゃない。命令よ、アズール……!


わたしの想いに応えるように、白銀の光がわたしたちを包み込み、傷ついた彼の身体へと吸い込まれていく。

その時だった。

彼の手が、ぴくりと震えたのは。


「……ん……」


閉じられていた瞼が、ゆっくりと持ち上がる。

その夜空色の瞳が、ぼんやりとわたしを映した。

焦点が合っていない。

まるで、遠い夢の中にいるような、とろんとした眼差し。


気がついた……!


わたしは唇を離さぬまま、安堵で泣き出しそうになるのを堪えた。

温かい光の中で、彼の冷え切っていた頬に、わずかに赤みが差していく。

生きている。脈が、戻りつつある。


彼は、不思議そうに瞬きをした。

そして、目の前にいるわたしを認めると、ふわりと、無防備な微笑みを浮かべたのだ。


「……好き、です……」


アズールの唇の隙間から、吐息のような声が漏れる。


時が、止まった。


静寂に包まれた遺跡の底で、その囁きだけが、あまりにも鮮烈に鼓膜を震わせた。


「ミリア、様……ボクは、……貴女を……」


心臓を、素手で握りつぶされたような衝撃。

いつも理屈っぽくて、皮肉屋で、プライドの高い賢者サマ。

そんな彼が、剥き出しの魂で、愛を告げている。

これが、彼の本音。

何重もの仮面の下に隠していた、本当の想い。


「兄さんのように……強く、なれたなら……」


彼の視線が、虚空を彷徨う。


「貴女に……愛して、もらえた、でしょうか……」


胸が、張り裂けそうだった。

馬鹿ね。本当に、馬鹿な人。

どうしてそんなことを言うの。


あなたは強いわ。


あの砲火の中で、自分を犠牲にしてまでわたしを守り抜いた。

それは、ブレイズにも真似できない、あなただけの強さよ。


「でも、ボクは……あの人には、なれない……」


諦めと、絶望。そして、それを受け入れた穏やかな声音。


「だから……せめて、貴女を……」


「ボクは、守れたでしょうか……?」


堪えきれなかった涙が、わたしの瞳から溢れ出した。

視界が滲む。

あなたは、そんなことのために。

自分を卑下して、影に徹して、わたしを守るためだけに、その命を投げ出したというの?


ポタリ。

わたしの涙が、彼の夜空色の瞳の端に落ち、頬を伝う。


「……あ……」


彼は眩しそうに目を細めた。

そして、最後の力を振り絞るように、その震える手をゆっくりと持ち上げた。


氷のように冷たい指先が、わたしの頬に触れる。

彼は、壊れやすい宝物を扱うように、わたしの涙を親指で優しく拭った。


「泣かないで……ください……」


ふっ、と。

彼の手から力が抜けた。

支えを失った腕が、だらりと床に落ちる。


「アズール!?」


恐怖が背筋を駆け上がる。

だめ。足りない。まだ、足りないわ。

この程度じゃ、あなたの命を繋ぎ止める鎖にはなれない。


「死なせない……。絶対にッ!」


わたしは再び、彼の冷たい唇に自分の唇を強く押し当てた。

単なる接触ではない。

わたしという魂の底にある蓋を無理やりこじ開ける。

制御なんていらない。後のことなんてどうでもいい。

わたしの命の残り火を、全部彼にくれてやる。


持って行って、アズール!わたしの命を、全部!


ドクンッ!!


体内で何かが弾ける音がした。

白銀の奔流が、暴風となってわたしの中から彼へと流れ出していく。

指先が冷たくなる。視界が明滅する。


血管の中を流れる血が、泥のように重く、そして氷のように冷たくなっていく感覚。

それは、わたし自身の「死」が、足元から這い上がってくる感覚だった。


けれど、構わない。

わたしの命が削れるたびに、彼の、アズールの瞳に光が戻るなら。

彼の冷たい頬に、赤みが差すなら。


『あなたに、愛してもらえたでしょうか』


最期に漏らした、彼の痛々しい告白が、脳裏に焼き付いて離れない。


……アズール。


意識が、白く霞んでいく。

もう、指一本動かせない。

わたしの命の灯火が、フッと風前の灯のように揺らめいた。


愛してあげるわ……。だから、生きて……生きて責任取りなさい……!


限界だった。

わたしは糸が切れた人形のように、彼の胸の上に崩れ落ちた。

薄れゆく意識の中で、彼の心臓が、わたしの鼓動を受け継いで、力強く打ち始めた音だけが聞こえていた。



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