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第157話…結婚式前夜

 「ついに明日は結婚式か…」


 『木漏れ日亭』の二階の窓からクラージュは星を見上げながら呟いた。


 長かった、苦しかった。


 クラージュは何も身につけていない自分の身体に眼を向ける。

 手首から先が無い左腕を始め、身体中に大小様々な傷痕が残っていた。


 それは、クラージュの身体に刻まれた長く苦しい過去の証。

 

 その全てが明日報われる。

 

 そうなれば身体に刻まれた傷痕も勲章のように感じられるだろう。


 「シシリィ…今頃どうしてるかな…」


 クラージュは愛しい婚約者に想いを馳せる。

 今頃、シシリィは貧民窟(スラム)の小さな家で一人の夜を過ごしているだろうか?


 そんな事を考え、夜空を見上げるクラージュだが…その背後から強い獣臭が漂い始めた。


 「…」


 クラージュは背後から恐ろしい人喰い狼に狙われているような恐怖を感じ、背筋に冷たい物が流れる。


 クラージュが恐る恐る背後を振り返ると…


 「ふぅーっ!ふぅーっ!」


 飢えた雌狼が爆乳を揺らしていた。


 いや、“雄に”飢えた雌狼が爆乳を揺らしていた。


 もちろん雌狼だけでは無かった。


 「「「……」」」


 闇妖精(ダークエルフ)半吸血鬼(ダンピール)、幼なじみ…


 明日はシシリィとの結婚式なのに、無理やり『闇の後宮』の女性陣が寝泊まりする部屋に新郎クラージュを連れ込んだ美少女たちが、嫉妬に狂った視線をクラージュに向けていた。


 「止めてー!明日は!明日はシシリィと結婚式だからー!」


 そんなクラージュの叫びは無視され、クラージュは4人の美少女に無理やりベッドに引きずり込まれた。


 ========


 そこは一切の光が無い世界だった。

 そこは、この世界、この神話体系の冥府の底。


 そこにある六畳間。


 4柱の神性が真剣な表情で卓を囲んでいた。


 「狛白(こましろ)、それロンですぅ」


 「ああーっ!山白(やましろ)ーっ!黙聴(ダマテン)してやがったですぅーっ!!」


 巨大な尻尾を持つ怪獣の着ぐるみを着た幼女の姿をした神性・阿穂之古狛白神(あほのこ・こましろのかみ)と九本の尻尾を持つ狐の着ぐるみを着た幼女の姿をした神性・阿穂之狐山白神(あほのこ・やましろのかみ)


 この世界では復讐の女神スィーラスーズと呼ばれる神性の第1子と第2子。


 「これで、この半荘は山白の勝ちですぅ!」


 狐の着ぐるみがゲヘゲヘと不快に笑う。


 「じゃあカレー味は山白ですぅ?」


 第3子であり大きな尻尾の竜の着ぐるみ姿で唯一の男神である阿穂之湖島白神(あほのこ・しましろのかみ)が押し入れからカップラーメンを取り出す。


 カップラーメンは、醤油味が4つにカレー味が1つ。

 どうやら、1つしか無いカレー味を誰が食べるかを麻雀勝負で決めていたらしい。


 島白はカレー味を山白に、残りを他の姉妹神に渡すが…


 「……」


 醤油味のカップラーメンは4つ。

 1つ余った。


 「何か大切な事を忘れている気がするのですぅ」


 島白は何故か1つ余ったカップラーメンに首を傾げるが、第5子たる熊の着ぐるみ姿の童女・阿穂之庫熊白神(あほのこ・くましろのかみ)が、湯沸かしポットからカップラーメンにお湯を入れながら言った。


 「白島、思い出せないという事は、きっと大した事では無いのですぅ」


 次の瞬間だった。


 「「「あっ?」」」

 

 六畳間の天井を何かが貫き落ちてきて、それは熊白の頭に突き刺さった。


 「ひぎゃああああーっ!!

 痛いのですぅ!痛いのですぅ!!」


 痛みに、のたうち回る熊白。


 「熊白、しっかりするのですぅ」


 「傷は深いのですぅ、大丈夫ですぅ、きっと助かるのですぅ」


 のたうち回る熊白を狛白が押さえつけ、山白が頭に刺さった物を抜く。


 「「「……」」」


 頭から、抜けた物は小刀だった。

 その小刀に見覚えがあるような気がした狛白、山白、島白は、しばし考える。


 3秒考えたが思い出せなかった小刀を山白が投げ捨てると、小刀は空中で一回転して八本尻尾の蛇の着ぐるみを着た童女の姿になった。


 「「「あっ?玉白ですぅ!!」」」


 「帰ってきたのですぅ!」


 八本尻尾の蛇の着ぐるみ姿の第4子・阿穂之火玉白神(あほのこ・たましろのかみ)は、妹神たる熊白の頭の上に着地した。


 「何か忘れていると思ったのですぅ」


 「玉白の事を忘れていたのですぅ」


 「玉白、カップラーメン食べるですぅ?」


 口々に言う島白、狛白、山白。

 

 本気で妹神の不在に気づいて無かったらしい。


 「てめぇ!玉白ぉーっ!!よくもヤリやがったなぁーっ!!ぶっ殺してやるーっ!!」


 頭を刺され、頭を踏まれた阿穂之庫熊白神がブチ切れた。

 着ぐるみで隠された額の2本の角を剥き出しにし、熊の爪が生えた両手を振りかざし玉白に襲いかかった。


 「殺れるものなら殺ってみるのですぅ!お前みたいな尻尾が小さいヤツに負けないのですぅ!」


 阿穂之火玉白神も迎え撃ち。

 2柱の神は取っ組み合いの喧嘩を始めた。


 「「「3分以内に決着をつけるのですぅ」」」


 妹神たちの喧嘩からカップラーメンを守るため部屋の隅に待避しながら姉兄神たちは言った。


 「ん?」


 狛白が何かを察知し上を見上げた。


 「狛白?」


 「どうしたですぅ?」


 首を傾げる弟妹に、復讐の女神の第1子は、母親に次ぐ大きさの巨大な尻尾を立てた。


 「物質界の59柱に、喧嘩を売ってきたバカを潰すように命じただけですぅ」


 そして、復讐の女神の子供たちはカップラーメンを食べ始めた。

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