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第156話…彼に残された選択肢

 「これで本当に全部終わったね」


 遺跡内の広場の真ん中でクラージュは大の字に寝転んだ。


 「そうね、20年…20年も続いた悪夢が、やっと終わった…」


 シシリィもクラージュに寄り添い横になる。

 クラージュはシシリィを左腕で腕枕する形になり、シシリィはクラージュの身体に涙で濡れた顔を埋めた。


 この広場は倒した上位魔族(グレーターデーモン)ペイオールにより空間が閉鎖され2日は出入り出来ないとの事。


 クラージュはシシリィの美しい金髪を撫でようと右手を動かそうとしたが…


 「痛っ」


 右手に走る痛みで諦める。

 

 右手は表皮が破れ派手に血が出ているが、骨や筋肉、神経に異常は無いようだ。


 気が抜けたからだろう。

 右手以外にも身体のアチコチが痛みだす。

 ルゥとエリに牙を立てられた両肩。

 ペイオールの外骨格の(とげ)が刺さった部分。


 応急処置しないとな…と頭の片隅で考えながらも、クラージュは全身の疲労感に身を委ねていた。


 ルゥがゲルタとエリに治癒魔法を掛けて傷を治し、ゲルタとエリが広場の出入り口が本当に閉鎖されているのか確認するため歩き出す。


 三階のバルコニーからドロレスがロープを伝って広場へ降りてくる。


 そんな諸々を視界の隅で見ながらクラージュは隣のシシリィの体温だけに集中していた。


 シシリィに掛けられた『男に抱かれる事が出来ず、子孫を絶やす呪い』は解かれた。

 シシリィの下腹部の淫紋が消えた事からも、それは確実だろう。


 それは…つまり…


 クラージュの脳内に永年妄想してきた理想の初体験が浮かぶ。

 もう、クラージュがシシリィとの理想の初体験を邪魔する物は何もない。


 「ねぇシシリィ」


 「な~に?」


 子供の頃から何度も口にした台詞をクラージュは再び口にする。


 「結婚しようよ」


 何度も口にして、何度も断られた台詞をクラージュは再び口にする。


 「バカね」


 シシリィは笑う。


 「私は、もうクラージュのものよ」


 クラージュも微笑む。


 「ここから出たら、2人で結婚式をして…」


 「うん」


 2人には結婚式に参列してくれる家族は誰もいない。


 「新婚旅行は、2人で綺麗な海が見える街に行こうよ」


 「それもいいわね」


 新婚旅行…

 復讐の女神スィーラスーズが伝えたとされる謎の風習。

 人里から1歩出たなら野盗や魔物が徘徊する危険地帯のイシュリス王国では全く浸透していない奇怪な風習。


 危険な旅でも花婿が花嫁を守れる力を示すための試練だろうか?

 謎である。


 ともあれ、2人は幸せな未来を想像する。

 もう2人の愛を邪魔する物は何もない。


 「綺麗な海が見える良い宿に泊まって…」


 クラージュはシシリィの頭部に顔を寄せる。

 荒野を移動してきた後に、激しい戦闘があって、汚れているはずのシシリィからも良い匂いがした。


 「そこで、シシリィを抱きたい」


 それはクラージュが、ずっと夢見た風景。

 

 好きな人と綺麗な海が見える宿で初めて愛を交わす。

 そんな理想の初体験。


 「あら?そんなに我慢できるの?」


 シシリィはクスクス笑う。


 「私なら今すぐでもクラージュに抱かれてあげるのに」


 クラージュはシシリィの魅力的な肢体に視線を向ける。

 半透明な羽衣のような衣装の下、ほとんど下着だけの身体を晒すシシリィ。

 今すぐ押し倒して、彼女を自分のものにしたい。

 そんな欲望はクラージュの中に確かにある。


 でも…


 「が…がまんする…」


 理想の初体験のために、もう少しだけ我慢しよう。

 クラージュは幸せな未来のために、理想の未来のために、そう決断した。


 「「「「……」」」」


 だが、運命はクラージュに残酷だった。

 クラージュは忘れていた。


 自分を冷ややかに見下ろす、4人の美少女の存在を…


 ========


 「結婚式に新婚旅行?」


 エリが冷たい口調で吐き捨てるように呟く。


 「クラージュ…誰のおかげで呪いが解けたのか分かっているのか?」


 ゲルタの怒りを抑えた声。


 「全く反省してなかったんだね、クラージュ」


 シシリィと恋人になれた事に夢中で仲間たちの事を完全に忘れていたクラージュを叱責したはずなのに、全く反省していなかったとドロレスは冷ややかな視線をおくる。


 そしてルゥが、シシリィに牙を剥いた。


 「だいたい何ですか? その服装は?

 露出狂ですか? 痴女ですか?

 発情期ですか?

 そうまでして雄の気を引きたいんですか?

 恥じらいって言葉が無いんですか?!」


 シシリィの下着丸見えの半透明の衣装に苦言をていするルゥだが…


 「「「……」」」


 今のルゥは…全裸である…

 背嚢に衣服は入っているが、例の痴女服である。


 『お前だけは言うな!!』


 という、全員が同じ表情でルゥを見る。


 「「「……」」」


 「ふぅーっ!ふぅーっ!」


 しばし皆が沈黙した。

 ルゥの威嚇するような雌狼の唸り声だけが広場に流れた。


 ゲルタが1つ咳払いをして話を続ける。


 「ガチクズ若作りド貧乳少年愛者(ショタコン)森妖精(エルフ)…」


 ゲルタはシシリィを睨み付けながら言葉を発する。

 酷い言い様だが、概ね事実ではある。


 「誰のおかげで呪いが解けたか理解してるよな?」


 シシリィは絶対零度の視線をゲルタに向けた後、自分を落ち着かせるために深呼吸する。

 そして答えた。


 「もちろん理解しているわ。

 貴女たちには感謝してもしきれない」


 「そうか、じゃあ私たちがクラージュから報酬を受け取っても文句は無いよな?」


 シシリィは苦虫を噛み潰したような表情を一瞬だけ浮かべ答えた。


 「な…内容に…よるわ…」


 ゲルタが勝ち誇った冷たい笑みを浮かべ。

 エリとルゥが予め用意していた毛布を床に敷き始める。


 「えっと…何?」


 クラージュは酷く嫌な予感がして震えながらゲルタに確認するが、ゲルタは答えない。


 「ま…まさか…」

 

 シシリィは何か感づいたらしく顔色が真っ青になっていった。


 準備が出来たらしくルゥとエリが戻ってきた。


 「さて、クラージュ」


 何か言おうとしたゲルタはクラージュの傷に視線を向けた。


 「ああ、その前にルゥ、クラージュに治癒魔法を」


 銀狼の尻尾を振りながら近づいてくるルゥに、クラージュは底知れぬ恐怖を感じた。

 ルゥの表情は明らかに笑顔なのに、その笑みが獲物を食べようとする補食動物の笑みに見えるのだ。


 「ちょっと、ルゥ…」


 治癒魔法による治療が終わり、補食動物の笑みを浮かべたルゥとエリに両腕を抱えられたクラージュは毛布の上に寝かされた。


 「何…みんな眼が怖いんだけど…」


 毛布に寝かされたクラージュを囲むゲルタ、ルゥ、エリ、ドロレス。

 彼女たちの顔に浮かぶのは補食者の笑み。


 そして、すでに全裸のルゥ以外は服を脱ぎ始めた。


 「えっ?ちょっと待って?どういう事なの?」


 混乱するクラージュに、エリは童顔と低い身長には不釣り合いな大きな胸の下で腕を組み強調しながら言う。


 「気づいてないの? それとも、気づかないふりをしてるの?」


 「エリ? 何の話…」


 服を脱ぎ捨てながらも羞恥に頬を染め、乙女の大切な部分を手で隠しながらドロレスが言った。


 「ク…クラージュには今から私たち全員と…その…してもらうから…」


 「えっ? えっ?」


 最初から全裸で銀狼の尻尾をパタパタ振りながら爆乳を揺らすルゥ。

 その口からはダラダラとヨダレが流れ落ちブツブツと1つの単語を呟き続けていた。


 「交尾…交尾…交尾…交尾…交尾…交尾…」


 「ル…ルルルル…ルゥーッ?!」


 鍛えられ筋肉がついていながらも女性らしさを失っていない。

 そんな見事な裸体を見せつけながらゲルタが話す。


 「今からクラージュには、ここに居る全員を抱いてもらう」


 「ちょっと待ってよ! 僕は…」


 「安心しろ、初めての相手くらいは選ばせてやる」


 「いや、そうじゃなくて!

 僕は、初めては海が見える…」


 初めては愛するシシリィと海が見える連れ込み宿で…

 いつも言っているクラージュの理想の初体験。

 それを知っていながらゲルタは冷たく言い放つ。


 「クラージュ、お前に残された選択肢は何処で初体験するかじゃない」


 「それって、どういう…」


 「今、この場所で、どの順番で誰から抱くかだけしか、お前には選択肢は無い」


 「そんな…」


 性という物を知ってからクラージュが想い描いていた理想の初体験。

 

 それは、もう目の前にあるはずだった。

 この閉鎖空間から出て、シシリィとささやかな結婚式を上げて、綺麗な海が見える街に新婚旅行に行って。

 海が見える高級宿でシシリィに初めてを捧げる。

 

 そんな夢が、あと少しで叶うはずだった。


 それなのに…


 クラージュは周りを見る。

 

 遺跡の中の広場は灯りがあっても薄暗く、不気味な姿の石像が立ち並び。

 自分も相手の女性たちの身体も血と汗と埃に汚れ水浴びすら出来ない。

 清潔な白いシーツの豪奢なベッドなど有るわけもなく、毛布が一枚敷かれただけの硬い床。


 想い描いた理想とは全く違う酷い状況。


 「そんなの…そんなの嫌だーっ!」


 クラージュは逃げようとした。


 だが…


 「クラージュさん、今日こそ私と交尾してもらいますよ」


 右腕は邪悪な人狼(ヴェアヴォルフ)に押さえつけられていた。


 「大丈夫だよ、クラージュ。

 ちゃんと優しくして上げるから」


 右足は邪悪な半吸血鬼(ダンピール)に押さえつけられていた。


 「私も…その初めてだし…初めてを上げるんだから少しは喜んでくれても…」


 左足は邪悪な盗賊娘に押さえつけられていた。


 「諦めろクラージュ。

 私たちは、お前を絶対に逃がさないからな」


 左腕は邪悪な闇妖精(ダークエルフ)に押さえつけられていた。


 「シシリィ! シシリィ助けてーっ!!」


 身体の自由を奪われたクラージュは信頼する保護者に助けを求めた。


 しかし、その信頼は裏切られた…


 「シシリィ…?」


 クラージュの眼にシシリィが服を脱ぎ捨てていくのが見えた。


 胸こそ無いものの細く美しい肢体。


 シシリィは身動きが取れないクラージュの上に跨がる。


 「クラージュ…野良犬にでも噛まれたと思って諦めて…」


 「シシリィ?! 何言ってるのーっ!!」


 叫ぶクラージュにシシリィは近くに見える石像を指差す。


 「ほら、あの石像の染みの数でも数えてる内に全部終わるからね」


 「シシリィ…?!」


 クラージュは見た。

 

 十年以上も側に可愛い子供を置きながらも手を出す事が出来ずお預けを食らっていた少年愛者(ショタコン)森妖精(エルフ)の邪悪な笑みを…


 貧民窟(スラム)の路地裏で初めて見た瞬間に一目惚れしたような感覚に襲われ連れ帰ったのに、手を出せなかった女の情念に歪んだ表情を…


 クラージュは見てしまった。


 「こんな…こんな初体験は嫌だーっ!!」


 ここは上位存在により閉鎖された空間。

 クラージュの絶叫は誰の耳にも届く事なく。


 この日、クラージュは大人の階段を登った。


 一気に五段登った。


 ============


 そして…


 決死の覚悟で上位魔族(グレーターデーモン)が巣くっている可能性が高い遺跡に突入した冒険者たちは、謎の力で閉鎖されていた広場を発見…


 2日後…


 閉鎖空間が解除された広場に強襲をかけた冒険者たちが見たのは…


 身体中の水分を搾り取られ干からびたような姿で放心する少年と。

 彼に寄り添い幸せそうに眠る下着姿の5人の美しい女性の姿だった。


 閉鎖空間での2日間に何があったのか?


 クラージュが、それを語る事は生涯無かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です&ありがとうございます! 予め準備してある毛布に「なにがなんでもヤる」という決意を感じる(おい クラージュくんハーレム完成おめでとう!(目をそらしながら
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