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いつの日か君の隣で  作者: 要
交錯する想い
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交錯する想い(1)

 ピピピピッ、ピピピピッ。

 今日も僕の朝は味気ない電子音で始まった。

「んっんー。」

 大きく伸びをした僕は「何故学校に行く日というのは大抵眠いのか」と本気で疑問に思ってしまう。

 今日は始業二日目にして、通常カリキュラムだ。

 目を擦りながらクローゼットから制服のズボンとYシャツを取り出し、無造作に身に着けた。

 ブレザーを手に持ったまま階段を降り、洗濯機の中を覗く。

 洗濯機の中に入っているのは、下着とTシャツ、そしてYシャツが2枚ずつだ。

「洗濯は明日でいいか。」

 我が家は毎日洗濯するわけではない。

 それは「水がもったいない」という理由をつけているが、単に僕が面倒なだけだからだ。

「晃、朝飯できてるぞ。」

 父さんの声がリビングから聞こえてきた。

「今行く。」

 洗面台で顔を洗い、リビングを通って仏間入る。

 線香を2本取り、火を点け、既に供えられている線香の横に立ててから手を合わせた。

「さてと、行ってきますよ。」

 膝に手を付き、朝飯の準備されたテーブルに着く。

 BGMは、いつもと同じ陽気なニュースキャスターだ。

「いただきます。」

 両手を合わせ朝食に手を付けた。食べ終わるのに5分もかからないだろう。

「じゃあ、あとは頼んだぞ。」

 ジャケットを羽織り、父さんが鞄を持って言った。

「行ってらっしゃい。」

 そう言う頃には、僕は既に朝食を食べ終えていた。

 食器を片付けてしまえば、瑞希が来るまでの空いた時間をゆっくりくつろぐことができるだろう。

 何しろ今日からチャリ通である事を、昨日瑞希に納得させることができたのだから。


 ピンポーン。


 いや、早いって!

 時刻は・・・昨日と変わらないじゃないか!


 ピンポン、ピンポーン!


 どれだけせっかちなんだ?!

「晃くーん、これどうやって付けるの?」

 チャイムだけでは物足りないのか、ドアの前から瑞希の大きな声が聞こえてきた。

 ん?「どうやって付けるの?」って?

 僕は悪い予感がして、ドアを開けた。

「何やってんの?」

 僕の自転車の前でしゃがみこんでいる瑞希。

「あ、オハヨー。これなんだけど、どこにつけるか分かる?」

 瑞希の手にあるのはハブステップ。後輪の中央に付ける棒である。

「お父さんが、これを付ければ二人乗りできるって教えてくれたんだよね。」

 お父さんが・・・って、あのオヤジ何を教えてるんだ。

「あ、分かった。ここだ!」

 そう言った瑞希は僕の許可など取らずに、僕の自転車にハブステップを取り付けてしまった。

「はぁ、ちょっと待ってろ。これじゃ危ないから。」

 一瞬、取り外してやりうとも思ったが、僕は玄関横の物置からスパナを取り出すと、ハブステップを増し締めしてしっかりと固定した。

 ここ数日の付き合いであるが、瑞希は言い出したら聞かないところがある事を僕は感じていたからだ。

「これで良し。外れたら危ないからな。」

「なんだかんだ言っても、晃君って優しいよね。」

 ハブステップを取り付け終わった僕の顔を、瑞希が覗き込んできた。

「なっ、何、馬鹿なこと言ってんだよ!」

 不意をつかれ思わず目を逸らしてしまった僕は、瑞希に「ちょっと待ってろ」とだけ言い玄関に入った。

 不覚にも顔が火照っているのを感じる。

「洗い物は帰ってきてからで良いか。」

 ガスの元栓は閉めて、電気を消した。後は戸締まりをすれば大丈夫だな。

 朝から調子を狂わされてしまったが、何とか朝の準備を終わらせてドアを開ける。

「瑞希、お待たせ。」

 瑞希は庭にしゃがみこんでいた。

 どうしたんだろう?具合でも悪いのか?

「見て!でっかい蟻!」

 ・・・これだから都会者は。

「この辺じゃ、それが通常サイズだ。」

 余裕を持って準備をしていたのに、もう家を出なければならない時間だ。

 僕は自転車にまたがると、瑞希に後ろに立つように合図した。瑞希が注意深くハブステップに足をかける。

「行くよ。」

 軽いギアに入れた自転車が、僕がペダルを踏むのに合わせてゆっくりと前進した。

「待って待って待って!ちょっと怖い。」

「フラフラするなよ。運転しづらいだろ?」

 瑞希が変な方向に体重をかけるたびに、自転車が左右に揺れた。

「怖いからフラフラしないでよ!」

 そんな無茶な・・・!

 家を出てまだ10メートル程度。

「きゃっ!」

 怖さに耐えられなくなったのか、瑞希が僕に抱きついてきた。

 背中に当たる柔らかい感触。

 決して大きいとは言えないが、これは・・・。

「み、瑞希・・・。」

「な、何よ。今話しかけないで。」

 足元に集中しているのか、瑞希は今の状況に全く気づいていない。

「あ、あの。当たってるんですけど。」

「話しかけないでっていってるでしょ!」

 そうは言ってもこの状況はまずいって。

「でも、当たってるんだよ・・・。」

「当たってるって、何が?!」

 そこまで言って、瑞希は状況に気付いたようだ。

「ちょっと!そういう事は早く言いなさいよ!バカ!」

 急に僕の体から離れて罵声を浴びせる瑞希。

 なんて理不尽な女なんだ。

「晃君!前見て、前!」

 急に体重移動した瑞希の動きについていけず、僕の自転車は見事に電柱に突っ込んだのであった。


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