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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
アンの追憶
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夢予眼とスルトと真実4

 お婆婆が部屋を出て数時間後、戻らないアンを心配して母親がお告げの間に入ってきた時にはもうアンは泣き止んで、ぼんやり気が抜けた様に天井の描かれた精霊王の壁画、四匹の(ドラゴン)を眺めていた。

 アンが座っている下には丸く大きな絨毯が敷かれキュアノスの民の魔方陣のシンボルの花の絵が描かれ、窓から入ってくる陽の光がアンを照らし出すと何処か旅立ってしまいそうで怖くなってアンに慌てて近寄って座ると強く抱きしめた。


 「お、お母さん?」


 はっと意識が戻ったアンは、母親が声を抑えて静かにはらはらと涙して自身を抱きしめている事に驚いて、そう問い掛ける。

 母親は涙を拭くと離れて、歪んだ笑顔を向けながらアンの顔を覗く。涙が流れていないだけで、目は真っ赤、瞼も腫れて顔も少し浮腫んでいる。ただ思う存分泣いた後なのか、スッキリした顔でもある。


 「......大丈夫?」


 「うん...大丈夫...私ね、思い出したの...アウラーと沢山、話した事...あの天井の(ドラゴン)がね...思い出させてくれたの」


 アンが天井の(ドラゴン)を見上げながらそう言う顔は穏やかで、でも少しの寂しさが影を落とす。


 アンと母親は皆の前に戻る前にお婆婆の家の側にある井戸で顔を洗うと少しはましな顔になって、いつも通りの笑顔で双子と会った。

 双子はアンの顔をじっと見てから、お互いの顔を見合わせる。言葉にしなくても双子は何か会話している様で、うんうんと小さく頷く。


 「「お帰り、ママ」」


 双子はそれだけ言うと、青年から離れてアンの足に抱き付いた。


 「ねーねー、ママ!ビアヘロの故郷はね、沢山、飛行機飛んでるんだって!子供も乗れるんだって!」


 「そう......ゼフィールは...飛行機好きだものね」


 「うん!パパが乗ってきた飛行機が、一番カッコいいけどね!」


 やはりアウラーの子だなと思うのはこう言う時で、アウラーが故郷に帰った後に泉に落ちた飛行機の置き場に困って空間魔法(ストレージ)に格納したのだが、双子が生まれてからは時々、あの泉に浮かべてボートから見せていたのだ。

 娘のアウラはあまり興味を示さなかったが、取り分け息子のゼフィールは飛行機に興味津々でアウラーが乗っていた席に乗せろ乗せろと毎回せがんでいた程だ。

 目をキラキラさせて話すゼフィールに、アンは嬉しい気持ちでいっぱいのはずが、少なからず寂しさもあって笑顔がぎこちないまま向けて、それでも真っ直ぐに笑顔を見せるゼフィールに胸が痛む。

 それでも言わないといけないと双子を一旦足から離してアンは双子と同じ視線になる為にしゃがみ、双子を交互に見てから抱き寄せた。


 「...もしも...もしもよ...フリークにビアヘロと一緒に行けるとしたら...行ってみたい?」


 そう言葉にすると緊張して、アンは双子を強く抱き締めてしまう。双子は少し変な顔をするが、アンに抱き締められることの方が嬉しくて自分達も強く抱き締め返す。


 「んー...他の国も見てみたいなぁ...」


 少ししてからそうポツリと呟いたのは、ゼフィール。


 「えぇ?私はずっとママと一緒にキュアノスがいい...飛行機乗るの...怖い」


 もっと小さい時にアウラを一度、アウラーの乗っていた飛行機に乗せた事があるが怖いと大泣きして以来、乗るのを怖がって側にも寄らなくなった。その事で、苦手意識が強いのかもしれない。

 双子の背中をそうと呟いて、優しく何度か撫でてからアンは少し離れて双子の肩を掴む。そしてじっと、双子を見つめた。


 「...あのね...神様のお告げは...分かるわよね?」


 双子は、もちろんという様にうんうんと頷く。


 「......ゼフィールをね、神様が...パパができなかった色んな所を旅するっていう夢を叶えてほしいって...お告げがね...あったの...だから...ビアヘロと一緒に旅してくれる?」


 双子はアンの話をじっと黙って聞いた後、お互いの顔を見合う。じーっと数分見つめ合った後、アンへ顔を向ける。


 「それがパパの夢なら...僕、叶えたい...ママと離れるのは...寂しいけど...でも、男だから、冒険は若い頃した方がいいんでしょ?」


 それは、本の中の話だ。キュアノスに年一度は訪れるミニエーラの行商人からお婆婆が手に入れた本で、小さい頃からお婆婆に今の双子と同じ様に読み聞かせしてもらった御伽話や伝記の中の事。エルフがキュアノスから旅だった、という事実はない。


 「...そうね...でも...楽しいことばっかりじゃないかも...しれないわよ?」


 ゼフィールはうーんと上を向いて何か想像しているみたいに考え事を少ししてから、アンに笑顔を見せる。


 「それでも、僕はパパの子だから...多分だけど、大丈夫!それに、ビアヘロも一緒、なんでしょ?ビアヘロは僕のパパの家族だから、僕達に何かあったら絶対何がなんでも助けるって言ってた...だから、平気!それにいーぱい旅したら、ママとアウラに一番にお話しに帰ってくる!」


 「えー!私じゃないの?」


 「だって、アウラも大事だけど、ママも大事なんだもん」


 「じゃ、許す」


 双子は顔を見合わせるとにっこり笑い合って、声を出して楽しそうに笑った。

 それを見ていたアンは双子の逞しさに嬉し涙が出て泣いてばかりの自分が情けなくもあり、そんな複雑な顔を見せたくなくて双子をまたぎゅっと優しく抱き寄せた。

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