夢予眼とスルトと真実5
ゼフィールが旅立つ事になった、前日の夜。急速に事が運び準備でバタバタして、今日になってやっと祝賀会を挙げられていつも以上の盛り上がりだった。それは別れの悲しみを乗り越える為であった。
皆騒ぎすぎて、夜になる頃には眠たそうに家路帰って行った。もちろん、アンの家族もアン以外は今はぐっすり眠っている。
アンも疲れが溜まっているはずなのに眠れないのは、ゼフィールとの別れがやはり辛いからというのもある。
けれど、こう言う何かの節目の前日には、小さい頃から神の様に神々しい光を放つ、スルトという少女が現れるからで、期待する気持ちもあった。アンは、密かに友と慕っていたから。
大抵こう言う時は満月であり、今日はよく晴れた夜空に、大きな満月が美しく輝いている。
アンは横でぐっすり眠っている双子を起こさない様にして、ベットを出る。眩しいくらいの光が窓から差し込んで目を向ければ、枯れたルッカに目が止まる。摘んだのは昨日の様に思えても、時はあっという間に過ぎる。花を見れば、無情にも時は正確に確実に進んでいるのが分かる。
そっと枯れたルッカを掌に乗せると、アンは家を出て行った。
枯れたルッカをアウラーの墓に手向けた枯れたルッカの横へしゃがんでそっと寄り添う様に置いた。
アウラーと共に同じ時を刻んで、このルッカの様に年老いていけたら幸せだったかもしれないという思いが心の片隅にあってそうしたのだ。
「アウラーに会いたい?」
そう後から声を掛けられて、アンは立ち上がって声の主の方へ振り向く。驚きはしなかった。来る予感というのか、何か確信めいた何かを身体が自然と感じ取っていたから。
その声の主は、一見幽霊の様にボウっと淡く青光りして輝く人の形の様に見えるが顔ははっきりとは分からない。
ただ、アンも木の影に隠されて表情が読み取りにくいのでお互い様か。
「...スルト様...それは...」
アンは会えるものなら会いたいが、そんな事は出来ない事は重々承知していたからこそ、言葉に詰まった。
「人間の寿命は極端に短い...でも...ある世界では輪廻転生するとか言って、何度も生死を繰り返し新しい生命に生まれ変わって...前世の記憶を持つ人間もいると主張する輩もいる」
「...あるんですか?」
「あるわけない...どの生命も、必要とされて生まれ、その役目を果たして死に土に帰るだけだ。それ以上でも以下でもない...そもそも生まれ変わった生命体が、同じ人間と括るのもおかしいでしょ?その理論からすれば、魂はそのままで器のみ入れ替わる様なものだ。そんな芸当、器をそもそも持たない私達神族意外にできるはずがないし、精神が続かないでしょ。それに、輪廻転生するなら、子孫繁栄させ子に教えを説くのはおかしい。わざわざ記憶を無くさせるなら、そう言う事は皆覚えさせておけばいいとなるはずだ。ふふ、そういうちぐはぐの発想をする人間は面白いけどね...それを考えるとエルフは忠実的だよね?そんな夢物語を信じる者はいないでしょ?」
「ええ、もちろん。生命の摂理を知っていれば、あり得ませんから。その時必要とされるから生み出され、命を燃やして死していく。生きていくことは、命を燃やす事ですから、燃え尽きたら消えるだけです...ただ、スルト様が言うように、記憶という者は語る事で受け継げます。それでいいのではないでしょうか」
「ふふ...分かってるじゃないか」
アンの答えにスルトは優しく笑っている、そう見える。
「でも...簡単には割り切れないのです」
「そこが、私達と根本的に違う所だね。私達は役目が全て、誰かの死もまたその役目の一つと考える。だから、悲しむという事がよく分からない」
そう語るスルトからは、笑みが消えていた。それを見て、アンは苦笑いする。
「...それは誰かを特別に想ってしまえば、役目に支障が出てしまうからと...前にスルト様自信が言っていましたよ?」
「...そう。ただ、私はアンは、他の者より興味があるからこうして時折会いに来る。それは、特別ではないのかとも思う」
「...どうでしょうか...スルト様が例えば私を特別に想っているとして、私はその恩恵を受けたのか...」
「私はアンと、少しばかり暇潰しに話をしているだけだ。アンに必要以上の情報も力も与えてはいない」
「だとするならば、特別というよりも何かの別の目的で会いに来ている可能性も、ただ本当に暇潰しとすれば、特段特別な事ではないかと」
「...暇潰しは、言葉のあやだ。が、私は知っていても、下界の者に言えないことは沢山ある」
「...でも私は、スルト様の気まぐれとしても、スルト様は私を否定することはなかったから...良き話し相手だと思ってますよ」
「そうか...なら、よい。今宵は満月で私も調子が良いが、そろそろ戻った方がよさそうだ。まだ、私が此処へ留まる時ではないからな」
「...留まる時は...来るのですか?」
「さぁ?来るかもしれないが、来ないかもしれない。ただ、私はこの世界が好きだし、私の半身が眠る場所。絶対に守らねば、とは思うよ」
「それを聞けただけでも...心強いです」
「...そうか。じゃあ、また...何が合っても強くあれ、アン」
そう意味深に言い残して、スルトは小さな光の粒子を散りばめながら霧の様にふわっと消えた。




