葵3
週半ば。
あおいは、外回りを終え、会社のビル近くを歩いていた。
歩きやすいパンプスとはいえ、足が痛く、疲れが出ていた。
会社に戻ったら、事務作業が待っている。
甘い物でも、食べて癒されたいと思い、コンビニに向かった。
あおいは、がっつり甘い物を食べるか、ちょこっと食べるか、真剣に悩んでいた。
そこに、手が伸びてきて、一口サイズのスイーツを掴んだ。
なにげなく、手の主を見ると、上司が居た。
「中大路さんも、食べる?」
去年の秋から転勤してきたクールな上司だ。
以前のガツガツした体育系の上司とは違って、穏やかで優しく、仕事はクールな人だ。
180センチくらいの長身で眼鏡をかけている。
端正な顔立ち、いわゆるイケメン上司だ。
柿花直人は、キレイ系の美男子。
上司、名前を、香月聡は、大人の魅力を持ったイケメンだ。
どちらかというと男らしさがあるのが、香月聡である。
「お疲れ様です。香月課長。うーん。がっつりかちょこっとか・・・迷い中です。」
香月聡は、微かに笑い、優しく声をかける。
「私が、これ、二つ買ったら、一つ食べてくれる?」
一口サイズのスイーツ。チーズケーキである。
「え!・・・でも・・・。」
嬉しいけど、おごってもらう訳もいかないので、口ごもる。
「いつも頑張っている中大路さんんへのご褒美。内緒だけどね。」
と、言い、サッと二つ掴み、レジに持って行く。
結局、香月課長のおごりで、一口スイーツを貰ったあおいは、ウキウキしながら、香月課長と並んで、会社に向かう。
やった!
香月課長、こうやって、内緒で甘い物くれるんだよね。
優しいな。
個人的には、前の上司の体育会系ノリが、好きだけど、こういうほんわかな感じも悪くないな。
あおいは、香月課長と一緒に、会社に戻る。
「お疲れ様です。」
と、声をかけながら、自分の席に向かう。
数人から、「お疲れ様です。」と、返事が返ってくるが、そのあと何かヒソヒソ話している。
最近、よく見る光景だ。
心当たりがないあおいは、少し気になるが、そのまま忘れてしまう。
隣にいる、香月課長の唇が、微かにほころんでいることは、知る由もなかった。
事務作業に、キリがついたのもあり、あおいは席を立つ。
事務所をでて、トイレに、向かう。
会議室の前を通りかかると、声がした。
ドアが、少し開いていた。
男女の声がするのだが、何やら揉めている感じだ。
どうも、仕事で会議しているわけではなく、個人的に話している気配だったので、そのまま通りすぎる予定だった。
しかし、聞き覚えある声だった為、あおいはその場に立ち尽くした。
「落ちついて。俺、付き合うてん人がおるで。」
「知ってますよ!でも、結婚する訳ではないですよね?私のことも一度、考えて欲しいです!」
柿花直人と、後ろ姿からでも想像できる、かわいらしい女性だった。
ドアの隙間から、姿を確認する。
困った顔をした柿花直人が、そこに居た。
あおいは、何故か、その場を動けなかった。
柿花直人は、断るのはわかっている。
見守る必要もない。
わかっているのだ。
しかし、足を動かす気にはなれなかった。
苛立ちを覚えながら、隙間から覗いたままだ。
「かなんな。・・・あおいとは、結婚も視野に、付き合ているで。」
優しい口調で、柿花直人は、かわいらしい女性に告げた。
「でも・・・。」
引き下がらないかわいらしい女性の言葉を遮り、柿花直人は、きっぱりと告げた。
「本気で、あおいのこと好きなんや。他の女性の事なんて、考えられへんほどに・・・。」
ドキンッ
あおいの鼓動が高鳴る。
初めて見る柿花直人の、真剣な瞳と艶やかなボイスに、釘付けになる。
持っていた、化粧ポーチを、思わず落としそうになる。
わずかに、物音がする。
柿花直人と、私は目が合う。
慌てて、私は、その場から離れる。
なになになに?
今の?
直人って、あんなに色っぽい顔した?
きれいな顔で、かっこよくて、好きだけど、あの顔、見たことない!
しかも、あんな大人っぽい声出すの?
え?ええええ?
いやいやいや。
さっきの何?
一応付き合ってるけど、あんなに演技しなくてもいよね?
って、直人って、演技できるほど、器用なの?
知らない!
あんな直人知らないよ!
あおいは、真っ赤になりながら、早鐘を打つ心臓を抑えながら、トイレに向かったのである。
顔を、化粧で整え、幾分、落ち着いたあおいは、事務所に戻ろうとする。
給湯室から、さっきも聞いた声に、呼び止められる。
「直人・・・。」
やっと落ち着いた鼓動が、再び、高鳴る。
頬も、赤くなる。
このタイミングは、ヤバすぎる!
いやでも、さっきの直人の言葉を思い出してしまう。
嘘だってわかっているけど・・・。
衝撃が大きすぎる。
あおいは、柿花直人に、給湯室から呼ばれて、後ずさりした。
しかし、難なく、捕獲され、給湯室に、連れ込まれる。
逃げたい!
あおいは、強く、心の中で叫んだ。
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