菫5
あぁ・・・。
気まずい・・・。
一体、何を話せば言いの?
すみれは、目の前にいる世羅達也を見ない様に、手元の水が入ったコップに、視線を落とす。
時はさかのぼる。
PCメールで、先生と生徒の線引きをした。返事はなく、なんとも言えない毎日を送っていた。
日曜日、気晴らしに、服を買いに、街に出たら、世羅達也に、遭遇したのである。
セール期間だったとはいえ、たくさん買い物したすみれは、驚いて、持っていた紙袋を落としてしまった。
世羅達也は、それを拾おうとしたが、すみれは、慌てて拾い、逃げる様に、立ち去ろうとするが、「お茶してください。」と、引き留められる。
すみれの行きつけで、駅近くの地下にある中国茶専門店 PANDAに、来ている。
お茶の注文を済ませ、沈黙が続いている。
世羅達也も、注文の際、すみれに、オススメを聞いたあとは、黙りこくっている。
もともと無口なタイプである。
しかし、すみれの一存で、線引きしたことには、間違っていたのでは?他に、言い方があったのでは?と、日々、悩んでいた為、平静を保てないでいる。
それでも、何とか先生らしく振舞わなくては・・・と、すみれは、自分を奮い立たせる。
「中大路先生、中国茶好きなんですか?」
気合いを入れたところで、世羅達也に、聞かれた。
「え?あ・・・。うん。好きだよ。ここは、本格的な中国茶を、じっくりゆったり飲めるから、よく来るのだけど・・・。あ・・・。苦手だった?」
すみれは、生徒といるところを見られて、変な誤解をされてはいけないと思い、隠れ家的なこのお店に連れてきた。人目に付きにくいし、街中のお店は、混んでいるから、ここならすぐに入れて良いだろうと思ったが、世羅達也の好みを聞くのを忘れていた。
「いいえ。大丈夫です。こがいな本格的なお店って初めてで・・・ちいと・・・緊張してしもうて・・・。」
最後の方は、広島弁になって、目線をはずす。
少し頬が赤い。
緊張からか?照れているのか?
「あ・・・ごめんね。あの辺、混んでるお店ばっかりだったから・・・。一方的に、決めちゃて・・・。世羅君が、好きそうなお店にすれば良かったね。」
すみれは、作り笑いを添えた。
世羅達也は、「いえ。」と、首を横に振った。
ああ・・・。
先生らしい会話じゃないよね・・・。
どうしよう。
おちつかなくては・・・。
「アンケート、ありがとうございます。」
小声で、世羅達也は、言った。
え?
あ・・・アンケート?!
すみれは、赤裸々に書いたアンケートを思い出し、真っ赤になった。
落ちつこうとして、コップに手を伸ばした。
カタンッ
動揺したすみれは、取ろうとして、コップを倒してしまった。
慌てて、自分のおしぼりで、拭こうとしたが、水は、世羅達也の方に流れて行く。
器用に、よけて、自分のおしぼりで、拭いている。
動揺するすみれを背に、台ふきんを店員に頼んでいる。
「ご・・・ごめんね。」
すでに、先生の仮面はなく、すみれは、謝る。
くっ
世羅達也は、小さく笑い。
「先生って、ほんまに、ドジだよね。」
今までみたことのない、柔らかい笑顔を向ける。
あ・・・。
やばい・・・。
好きかも・・・。
この笑顔・・・。
広島弁も!!
すみれの熱い視線に気づき、表情を戻す。
ちょうどそこに、店員が台ふきんを持って現れる。
世羅達也が、受け取り、拭こうとするが、すみれは、「私が・・・。」と、言い、慌てて、手を伸ばす。
思わず、世羅達也の手に、触れそうになり、慌てて、引き戻す。
無言のまま、世羅達也が、拭き終わる。
中国茶も運ばれてきて、お茶の飲み方の説明したあと、店員は、去っていった。
二人は、無言のままお茶を飲む。
おいしい・・・。
すみれは、お茶を飲んで、少しだけ、落ち着く。
ただ、会話は、お茶の話だけ、すぐ、途切れて、沈黙になる。
お茶は、おいしいが、苦い時間が続く。
二人は、飲み干し、会計をすまし、外に出る。
先にでた世羅達也が、階段のあたりで、止まり、手を差し出した。
「エスコートさせて下さい。」
えっ・・・?
いったいどういう意味だろう?
階段上がるのを手伝ってくれる・・・てこと?
すみれは、首を横に少し傾け、言葉を探す。
「こ・・・こういうのが、好きなんじゃね?」
頬を赤くしながら、もう一押しする。
ああ、なるほど。
すみれは、理解する。
世羅達也に送ったアンケートの中に、『好感が持てる異性の行動』が、あり、『さりげなくエスコートしてくれる。』と、記載したのだ。
お茶の時間が、重い空気だったが、一気に和むのを感じる。
でも・・・。
手は、つなげない。
本当は、つなぎたいけど、ここは、線引きしないとダメだよね?
「ありがとう。」
と、すみれは、言って、世羅達也の横に行く。
伸ばされた手は、取らない。
「中大路先生。あんたのことが、もっと知りたい。」
世羅達也は、意を決して、語りだした。
「先生が、生徒思いなんは、知っとる。本当は、内気な性格だってことも、知っとる。でも、もっと、もっと知りたい。」
階段は、広くない。
隣に立てば、すみれは、見上げる。
少し開いているが、二人の距離は、割と、近い。
すみれは、彼の息つかいも、わかる位置で、聞いている。
「先生は、真面目じゃけぇ、生徒と先生の距離を保ちたいなぁ、分かっとる。少しでいい。僕のことを、もっと知ってほしい。先生のことを、もっと知るチャンスをくれんか?」
初めて見る大人の男性のような表情で、嘘のない澄んだ瞳は、真剣だった。
すみれは、覚悟を決めた。
読んで下さって、ありがとうございます。良かったら、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。早め更新、頑張ります。




