菫4
流れるように事は、進んでいく。
世羅達也は、すみれの手を放し、すばやくカギを拾う。
視聴覚室に出てくる彼に、自然と道をあけ、立ちつくすすみれ。
器用に、カギを閉め、振り返らずに、告げる。
「ごめんなさい。怖がらせたかった訳でのうて・・・。た、探究心で!いや、違う。」
息を吐いて、すみれに振り返り、まっすぐ見て、言う。
「中大路先生だからじゃけぇ、触りたかった。・・・だからじゃけぇその・・・。」
すでに、先生の仮面が剥がれたすみれ。
真っ赤になり、自分より背の高い世羅達也を、ぼんやりみつめている。
「こ・・・これも、小説書く一環として、協力してくれる範囲内ってことにしんさい。」
世羅達也は、言い終え、すみれに、カギを渡し、返事を聞かずに、「今日は、帰ります。」と、言い足早に去って行った。
すみれが、我に返ったのは、10分以上あとのことだった。
◇◇◇◇◇◇
そのあと、どんな仕事をしたのか覚えてない。
先生たちに、「暑さで疲れたのですかね?」「大丈夫ですか?今日は、早く帰った方がいいですよ。」と、言われ、帰って来たのは、なんとなく覚えている。
当番の夕食を作ったあと、一人、先に食べ、自分の部屋に戻ってきた。
はあ・・・。
甘い吐息が漏れる。
世羅君が好きだ。
彼も、私のこと・・・好きなの?
握られた手をみつめながら、今日の出来事を思い返す。
「好きじゃけん」
世羅達也の言葉を思い出す。
あれは、小説書くことが好きってことなの?
思わず、私に好きって言ってくれたんじゃないの?
疑問が生じる。
「中大路先生だからじゃけぇ、触りたかった。」
別の世羅達也の言葉を思い出す。
それは・・・どういう意味?
私のこと好きだから・・・?
ただ、女性として興味本位?
「小説書く一環として、協力してくれる範囲内ってことにしんさい。」
更に、世羅達也の言葉を思い出す。
手を握るのが、小説書く一環?
女性を知るってこと?
それとも、好きな人のことを知るってこと・・・?
すみれは、再度、甘い吐息を吐く。
どうしよう・・・。
世羅君が好きだ。
好きで好きでたまらない・・・。
もっと・・・。
もっと・・・。
彼に、触れたい!触れて欲しい・・・。
好きだって、言いたい・・・・。
でも・・・。
それは、ダメだ。
世羅君にとっては、今が大事な時期。
大学試験もある。
二足のわらじを履いて、小説家も続けると言っている。
恋愛は・・・大学生になってからだって遅くない。
私だって、高校時代付き合っていた彼と、大学受験の時、気持ちすれ違って、別れちゃった・・・。
大学時代付き合っていた彼も、先生になったら、忙しすぎて、すれ違っちゃたし・・・。
先生になりたてで苦労してた時、何かと面倒見てくれた年上の先生と付き合ったけど、学校が変わったら、すれ違い多くて、うまくいかなくなったし・・・。
ましてや・・・年齢が離れすぎている・・・。
ちょっと大人の女性が気になる年齢なのかもしれない・・・。
そうよ・・・。
期待してはダメ。
これは、世羅君本人にも内緒にしないといけない秘密。
私が、世羅君が、好きってことは・・・・。
ただ、一担任として、生徒の夢は応援してあげたい。
そこに、よこしまな気持ちが隠れていたとしても・・・。
すみれは、視聴覚室で受け取ったアンケートを出す。
目線を落とし、回答を、ワードを使って、作成する。
本当は、知られたくない、赤裸々な質問も多い。
でも、これは、世羅君の将来の為に、協力する。
だから、今は、一人の女性として、このアンケートに答えよう。
先生らしいコメントも入れて・・・。
今日みたいなことが、絶対に起きない様に、しっかり線引きをしなくては・・・。
すべては、世羅君の為に・・・。
すみれは、何度も見返して、夜遅くに、世羅達也宛てに、PCメールした。
読んで下さってありがとうございます!更新、遅くなりました。次回、頑張ります!




