菫3
な・・・何これ・・・。
すみれは、ひどく動揺している。
目の前にある紙切れを見て、言葉を発せれずにいた。
今日は、夏休み中の登校日。
世羅達也に、進路相談したいから、時間が欲しいとメールで訴えられた。
皆に知られるの恥ずかしいから、二人きり希望と言われ、視聴覚室を取った。
待つこと20分。
世羅達也は、視聴覚室に来て、進路相談を始めた。
都内の有名公立大学の進学と小説家の二足のわらじを履きたいとのこと。
大学進学だけでも、手一杯で、小説も続けるには、誰かの助けが必要とのこと。
そこで、すみれに、フォローしてくれないかと頼まれる。
国語の先生として、担任としての範囲内なら、大丈夫と安易に承諾した。
それが、間違いだったと後悔している。
紙切れを見ながら、途中から、手が止まっている。
なぜなら、紙切れの内容は、すみれの内情を赤裸々に告白しなくてはいけないほど、念密なアンケートだったからだ。
女心を知りたいから、アンケートを記入して欲しいと言われた。
彼の為になるならと思ったが、ここまで、深いアンケートだったとは、思わなかった。
はあ・・・。
思わず、ため息をついたすみれ。
「・・・ひきましたか・・・?」
世羅達也は、ボソりと言う。
頬が赤く、不安の色を帯びた瞳をそらしている。
「そ・・・そうね。驚いたな。一個人として書くには、いいかもしれないけど・・・先生としては・・・隠したくなる・・・かな。」
苦笑いしながら、先生の顔を作って答えるすみれ。
「・・・じゃあ、一個人としてでは、ダメじゃろか?」
え・・・・。
ここで、広島弁?!
『ダメじゃろか?』が、反芻してるよ!
すみれは、違う意味で、動揺する。
まっすぐと向けられた瞳を受けながら、次の言葉を探す。
「ほ・・・他にいないの?女の子の友達とか・・・。」
やっと出た言葉は、コレだった。
すみれにとっては、精一杯ではあったが、先生としては、もう一歩であった。
「はい・・・。友達は、男ばっかだし・・・兄弟も兄が一人いるだけなので・・・。」
一旦、目線をそらした後、懇願する瞳を向けられる。
自然と、すみれの手が震えている。
に・・・逃げたい!
「え・・・と。」
すみれは、目線をそらして、考え込む。
頬が熱く、手が震えていることにも、気づかないくらい動揺していた。
世羅達也は、すみれの返事を待った。
しばし、沈黙が流れる。
困り果てるすみれを見ながら、先に言葉を発したのは、世羅達也だった。
「好きじゃけん」
え?
え・・・・?
静まり返った視聴覚室で、すみれの耳に、しっかりと届く。
いつのまにか真っ赤になった顔で、世羅達也を、思わず見る。
一瞬目が合い、すぐそらされる。
頭をかきながら、言い訳を口にする。
「あ・・・と。小説書くことが好きじゃけん。中大路先生にも、協力して欲しいじゃ。」
照れながらも、最後は、真剣な瞳をすみれに向けた。
え・・・と。
小説が、好き・・・ね。
そ・・・そうよね。
胸の痛みを感じながらも、先生らしい言葉を探す。
「そ・・・そうね。世羅君の頑張りに、免じて、先生も協力しようかな。・・・うん。」
本当は、逃げたいが、ここは、動揺するのはおかしいと判断して、すみれは答えた。
真っ赤な顔のまま告げたことには、本人は気づいていない。
世羅達也は、破顔した。
「ありがとの。中大路先生。」
すみれは、一瞬、時が止まったかと思った。
目を見開き、世羅達也を、見る。
心臓の音がうるさい。
「せ・・・先生?」
固まったままのすみれを見て、怪訝そうに聞く世羅達也。
「あ・・・ごめん。あとで、メールするから・・・今日は、これで、終わりにしよう。」
先生の仮面を被るのが困難になったすみれは、逃げる様に言う。
返事を聞かず、言葉を続ける。
「世羅君も、気をつけて帰ってね。」
足早に、視聴覚室を出る。
まっすぐ職員室に行き、席に着く。
一仕事しようと気合いをいれようと思った時、あることに気づく。
視聴覚の部屋のカギをかけ忘れたことに・・・。
しかも、今、自分自身がカギを持っているのだ。
世羅達也も、すでに、帰っているだろう。
視聴覚室から職員室までは、少し距離がある。
鉢合わせすることもないとすみれは思い、足早に戻る。
静まり返った視聴覚室。
念のため、中を確認してから、閉めた方がいいと思い、いるはずのない視聴覚室の部屋を覗く。
どきんっ
イスに腰かけた、世羅達也と、目が合う。
「ご・・・ごめんね。先生、カギかけ忘れちゃった・・・。いいかな?」
何がいいのか?と、つっこまれそうだが、世羅達也は、理解したらしく、荷物を持って、すみれの方に向かう。
出るのを待って、カギをかけようと外で待つすみれ。
しかし、緊張して、手が震え、カギを落としてしまう。
な・・・何やっているんだろう・・・。
カギをとろうと、腰を落とし、手を伸ばす。
!!!
その指先に、一瞬、世羅達也の指先が重なる。
!!!!!!
再度、世羅達也の手が伸び、すみれの手を、握った。
熱く、大きな手で、すみれの手を強く握る。
激しく鳴る鼓動を感じながら、動けなくなってしまったすみれ。
どうしよう・・・。
何これ・・・・。
え・・・と。
顔を上げられぬまま、うつむいたまま、手をつなぐ二人。
どうしたらいいのか、今の状況についていけないすみれ。
恐る恐る世羅達也を見ると、耳まで真っ赤にした彼がいた。
「せ・・・世羅君?」
思わず名前を呼ぶ。
世羅達也の瞳が、すみれに、向く。
今までにない近い距離で、目線が絡む。
どきんっ
今日一番の鼓動の高鳴りを覚える。
私、どうしたらいいの?!
すみれは、強く握られた手を震わせながら心の中で叫んだ。
読んで下さって、ありがとうございます!年の差ピュアラブ?!頑張ります!




