菫2
わかっている。
ダメだということは。
そんなことは、わかっている。
でも、世羅君が、好きだ。
初めは、高3という途中からの転校で、馴染めるか心配だったから、必要以上に、気に掛けるようにした。
声も、何度も掛けた。
口数は少ないが、真面目な男の子なので、すみれの問いかけには、しっかり答えてくれた。
学校が変わって、授業もついていけない可能性も考慮して、「気軽に、質問してね。」「怖い先生いたら、私から聞いてあげるから。」とも言ったが、問題なく馴染んでいった。
もともと優秀な子なんだと安心した。
しかし、こっそり予習したノートを見て、授業をこなしていることに気づいた。
何度も声をかけていたので、時折でる広島弁に、ときめきを覚えた。
すみれが、こよなく愛する方言なのだ。
きっかけは、大学時代の元カレの影響だった。
科目の中で、国語が好きだったすみれ。
方言は、特に好きで、方言について調べ、論文を書いていた。
どれも好きで、一番と言うのはなかったが、当時、好きだった彼の影響で、広島弁を詳しく知るようになって、一番好きな方言になった。
そういう小さいことを知っていくうちに、好きになっていた。
特に、澄んだ瞳が好きなのだ。
寡黙であるが、澄んだ瞳は、とても雄弁なのか、すみれを魅了してやまないのだ。
一学期の終業式から三週間が経った。
三日前に、世良達也の本が発売された。
予約して、読破済みだ。
『忘れられない初恋』というタイトル。
中学生の男の子の淡い初恋が、とても丁寧にかかれた本だった。
大人になった今でも、忘れられない思い出だと主人公は言っている。
これは、世羅君の実体験?
すみれは、気になっている。
実体験だと思えるほど、リアルな小説だ。
多少は、脚色されているかもしれないが、ほぼ、そうではないかと感じてしまう。
だから、今も、彼女の事を思っているのでは・・・?
と、切なくなってしまう。
未送信ボックスには、世羅君に出そうか悩んでいるメールが保存されている。
深い意味はない。
国語を教える先生として、感想をききたいと世羅君はいっているのだ。
だから、メールをするのは、特別扱いではない。
そう、思うのだが、すみれは、送るのを躊躇している。
机の上には、今担任しているクラスの集合写真が飾ってある。
意中の世羅達也も、もちろんいる。
背が高いの、一番後ろで、立っている。
すみれは、その写真立てを、手に取り、見つめる。
指で、特定の彼を、なぞる。
そして、写真立てを、ひっくり返し、開ける。
そこには、通常サイズの写真が、一枚、入っている。
5月に行った修学旅行の写真だ。
友人と楽しそうに笑っている写真だ。
目線はないが、滅多に見たことのない笑顔が、そこにある。
クラス内のカメラ担当の子が、いろんな写真を撮り、皆が、撮った写真をクラス内限定で、インタネットの写真ダウンロードページにアップした中にあった写真だ。
思わず目を奪われ、印刷して、写真立ての中に隠しているのだ。
こうやって、こっそり見るのが、最近のすみれの日課だ。
私にも、こんな笑顔見せてくれたらなぁ・・・。
すみれは、切に願う。
いけないことはわかっている。
でも、家にいるときだけは、素直な自分でいたい。
そうでもしないと、この気持ちが、爆発してしまいそうだから・・・。
手、大きかったな・・・・。
そして、熱かった・・・。
走ってきたからかな?
あの大きな手に・・・触れたいな・・・。
すみれは、一学期の終業式のことを思い出す。
ダメだとわかっている。
でも、今だけは、恋する乙女に戻りたい。
ああ。
できることなら、会いたいな・・・。
やっぱり、メールしおうかな?
これくらい、大丈夫だよね?
メール内容は、何十回も確認したから、おかしくない。
先生らしい内容だ。
特別気にしているような文面ではない。
かわいい自分の生徒が、感想求められているのだ。
感想送るのは、問題ない。
それに、発売して、三日経っている。
当日に送るよりも、ちょうど良い日数ではないだろうか?
すみれは、自身のノートパソコンと、睨めっこしている。
なかなか踏ん切りがつかないのである。
同じことを毎晩続けて、すみれが、世羅達也に、メールを送ったのは、一週間後だった。
本が発売されて、十日後であった。
長女つばきと同じで、次女のすみれも、恋愛下手であった。
読んで下さって、ありがとうございます。




