菫1
梅雨がようやく明けた。
鮮やかな黄色が、いっそう輝く様に照らす太陽。
にこやかに笑っているかのような向日葵たち。
今日は、一学期最後の日。
生徒たちに最後の挨拶をして、職員室に向かうすみれ。
高校教師。29歳。つばきの妹で、つばきとは、7歳の差がある。
優秀なつばきを敬愛している。
髪は、ブラウンに染め、ゆるいパーマをかけている。
長さは、肩ぐらいだが、夏とあって、ゆるいお団子にして、ピンで留めている。
すみれも、美人だ。
艶やかな色気を首元から醸しだしている。
高校生男子にとって、目の毒である。
同じ年齢の女子と付き合っていても、一度は味わってみたいと思う誘惑的な魅力を持っている。
当の本人は、気づいていない。
すみれにも、秘密がある。
まずは、根っからの内気な性格だ。
教師になって、7年になる。この高校にきて、早7年。
しかし、教室に行く前に、まじないのように、自分は大丈夫だと唱えていかないと、力がでないのだ。
人前で話すのが、どうも苦手なのである。
生徒の前では、気丈に振舞っているが、いつボロがでるんだろうと毎日、気が気でないのだ。
それに、ドジなところがある。
これは、すでに、生徒に知られている。
本人は、生徒に侮られないように、しっかりしなければと思っているが、このドジなところは、男女とわず、生徒にかわいいと思われているのだ。
そして、すみれには、最大の秘密がある。
誰にも教えていない秘密だ。
いや、知られてはいけない秘密である。
約4ヶ月。バレてないと本人は思っている。
先生の仮面を被れているのだから、大丈夫だと、自分に言い聞かせている。
実際には、誰も気づいていないし、知らない秘密だ。
先生である自分には、絶対には知られたくない秘密である。
それは---------------。
「中大路先生。」
男性の声が、後ろからした。
生徒のクラスの棟と、職員室や理科室や音楽室などの棟は分かれている。
すみれの担当している高3の教室は、3階にある。
渡り廊下を通って、職員室の棟について、1階まで降りようと、2階への階段を降りようとした時、後ろから声がした。
すみれは、振り向かずして、誰の声か、すぐ分かった。
それだけ、生徒に熱心な先生だと言いたいのだが・・・。
左手に、抱えた名簿やノートが、小刻みに揺れている。
外しかけた仮面をもう一度被らなければと自分に言い聞かせて、すみれは、少し、遅れて、振り向いた。
案の定、立っていたのは、世羅達也だった。
顔立ちは、平凡だけど、目が、とても澄んでいて、何故か惹きつけれる。
181センチの長身で、短髪。制服をきているから、高校生に見えるが、私服だと大学生に間違えられるかもしれない。
今年の4月に、父親の転勤で、転校してきた。
有名な進学校であるこの高校に、優秀な成績で、編入試験を突破して入ってきた。
有名な公立大学を目指している優秀な生徒だ。
すみれが担任している生徒の一人である。
高3という、微妙な転校であったが、クラスにも打ち解けているようだったので、すみれは、ホッとしている。
平等に生徒を見ることを心掛けてはいるが、転校してきて、いろいろ大変ではないかと思い、少し他の生徒より気にしてみていたのだ。
寡黙な男の子だ。
進路相談や授業の朗読では、声を聞いているが、普段は、近くにいないと、話し声は聞こえてこない静かな男の子である。
すみれが、何故、世羅達也の声であるとすぐ分かったと言うと・・・。
-------------特別たからだ。--------------
「世羅君、どうしたの?」
すみれは、息切れしている世羅達也に、微笑みながら、少し近づきながら聞く。
「あ・・・あの・・・。はあはあ。」
教室から、走ってきたのだろうか?
急ぎのよ用事だったのだろうか?
息が切れて、次の言葉がでてこないらしい。
すみれは、早打つ自分の鼓動を隠す様に穏やかな声で、言う。
「大丈夫?落ち着いてから・・・話してね。」
世羅達也は、息を何度か吐く。
少しばかり、落ち着いたところで、すみれに、澄んだ瞳を向ける。
すみれの瞳が揺れる。
あ・・・。
この瞳・・・。
すみれは、動揺の色をみせるが、世羅達也も、決死の覚悟できた為、余裕がなく、すみれの状態には、気づかない。
「僕・・・。本を出すのです。中大路先生に、ぜひ、読んで欲しいのです。」
「え・・・?」
すみれは、突然のことで、理解するのが遅れた。
「じゃけぇ、これ!さよなら!」
右手を掴まれ、手の中に、何かを握らされる。
初めて触れる世羅達也の手は、熱く、大きかった。
呼び止める間もなく、走り去って行った。
我に返って、手の中を見ると、ノートの切れ端が入っていた。
再度、握り、世羅達也が引き返した渡り廊下に、足をやる。
すでに、姿はない。
すみれは、再度、手の中を見る。
くしゃくしゃになったノートの切れ端を、丁寧に開く。
伸び伸びとした元気な字が、綴られている。
世羅達也の字だ。
本のタイトルと作家名、出版社と世羅達也のPCメールアドレスが書いてある。
『読んだら、感想下さい。国語の先生としてで、結構です。』
と、メッセージつきで。
すみれには、最大の秘密がある。
すでに、外された仮面。
赤く染まった頬。うるんだ瞳。
愛おしい瞳で、右手の中をみつめるすみれ。
そう、彼女は、生徒に、恋をしている。
自分が、担任している生徒、世羅達也に--------。
読んで下さって、ありがとうございます。禁断の年下ラブ?!頑張ります!




