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【第一章完結】 罪深き人間たち  作者: 南城みみ
第一章 ルナリア5歳
4/5

裏側では

それは、国王と王妃が共に寝室で休んでいたところへ一報がもたらされたことから始まった。


ーールナリアが屋敷を飛び出し、どこかへ向かっている、と。


影たちも必死に後を追っているものの、相手はルナリアである。

攻撃して足止めするわけにもいかず、かといって五歳児とは思えぬほどの速さで駆けていくルナリアに、追いつくこともできなかったというのだ。


とうとう影の一人が別行動を取り、報告のために戻ってきたのだという。


知らせを受けた国王と王妃は飛び起きた。


今日は、ルナリアとソラの様子がおかしかったと、アルバートから報告を受けていた。

そのため、念のために影を多めに配置しておいたのだが………それが幸いしたらしい。


すぐさまソラとアルバートも叩き起こされ、何か知っていることはないかと問いただされた。


すると、ソラはみるみるうちに顔を青ざめさせ、前世で自分たちが命を落としたときのこと、そして自分たちを殺したのがグローリアだったことを語った。


ーーそして、おそらくルナリアは、報復のためにグローリアのもとへ向かったのではないか、と。


「………そうか」

室内にいた者たちは、皆、沈痛な面持ちで押し黙った。


「僕も!僕もルナリアのところへ行きたいです!」

ソラが必死に訴える。


「駄目だ」

国王は即座に却下した。


「そんな!」

ソラが悲痛な声を上げる。


国王は腕を組み、眉間に深い皺を刻んで考えこんでいた。

やがて、何かを決断したように顔を上げると、控えていた影たちに命令を下した。


ルナリアを止めるため、影を総動員すること。


そしてーーもし間に合わず、すでにグローリアへ手を出してしまっていた場合には、ルナリアを助け、証拠の隠滅まで行うこと。


国王はそこまで指示を出すと、さらにルナリアが魔法を使用した際に残る魔力の痕跡を消し去る、魔道具や、眠り玉など、証拠隠滅に役立ちそうな品々を影たちにもたせた。


さらに、リシャール家への連絡にも向かわせる。



※※※



そうして、落ち着かない気持ちで待ち続けていた四人のもとへ、ようやく影が戻って来た。

すべての処理を終えたという報告だった。


「ルナリアは!?ルナリアは怪我してない?」

「はい。お怪我ひとつされておりません」

「良かった………」


ソラはほっと胸を撫で下ろし、深く息を吐いた。


そして影は、改めて居住まいを正すと、報告を続けた。

「夜中で油断していたとはいえ、純粋な走力で追いつけなかったとは、誠にお恥ずかしいかぎりです。申し訳ございません。ルナリア様をお止めすることは叶わず、結局、影ながら手助けをすることになりました」


「………そうか。サンドーロル公爵家には、今回の一件を知られてはいないのだな?」

「はい。露見してはいないかと存じます」


「そうか………」

国王は安堵したように息を吐いた。


だが、すぐに表情を引き締め、改めて影に問いかけた。

「それで………ルナリアは、グローリアを殺してしまったのか?」


「………いえ。それが、なんと申しますか………」

影はひどく言いにくそうに言葉を濁した。


「ルナリア様は、グローリア様の髪を切り落とし、街の広場にある木に、裸で吊るして放置されました………」


「………は?」

室内にいた全員が、驚愕に目を見開いた。

時が止まったかのように静まり返る。


そして、一番に反応したのは、アルバートだった。

「あっはははははは!」


堪えきれなかったのか、アルバートは腹を抱えて笑い出した。


「アルバート、笑っている場合ではないだろう………」

国王が呆れたようにたしなめる。


「しかし、父上!あの性悪女が、今頃、裸で木に吊るされているんですよ!?」

アルバートは、その光景を想像するだけで愉快で仕方がないらしい。

笑いをこらえるどころか、ますます肩を震わせている。


「はぁ………。まぁ、ルナリアが無事で、犯行も露見していないのなら、もうそれでいい。二人とも、部屋に戻って寝なさい」

国王は深々とため息をつき、話を切り上げた。


「はい。ありがとうございました」

ソラは静かに頭を下げた。



※※※



部屋に残ったのは、大人たちだけだった。


「グローリア嬢は、貴族令嬢としての瑕疵どころの話ではなくなりましたね。あの家はどうするでしょうか?」

王妃は少しばかり真面目な顔で尋ねる。


「さあな。最近、あの家も随分と調子に乗っていたからな………」

国王は意味深に目を細めた。


「それにしても、五歳児の走力に追いつけなかった影たちは、相当なショックを受けていたようですよ」

「そうだろうな。鍛え直しだな?」

「ええ」

王妃は当然のように頷いた。


………深夜に五歳の少女に振り回された影たちには、まだまだ苦難が待ち受けているらしい。


「ふっ……しかし、面白いことをするな、あの子は。度胸もある」

国王は呆れ半分、感心半分といった様子で笑った。


「可愛いでしょう?」

王妃が嬉しそうに微笑む。


「ああ。娘になるのが楽しみだ。………まあ、なかなか大変そうでもあるがな」

「ふふ。きっと賑やかになりますわね。でも、今回のことについては、きちんと叱っておきますわ」


「頼んだぞ。しかし………『前世持ちを大切にすると国が栄える』という王家の言い伝えどおりになるかもしれんな」

国王はそう言って、どこか楽しげに笑った。



※※※



その後。

朝方になって、グローリアは捜索していた公爵家の者たちに発見され、無事に回収されたらしい。


しかし、平民たちは朝が早い。

それなりの人数に、木に吊るされたグローリアの姿を目撃されてしまったようだ。


現在、サンドーロル公爵家は、この一件を必死に隠そうとしている。


グローリア本人は、そのまま隣国にいる兄のもとへ避難したらしい。

短く切り落とされた髪を、この国の貴族たちに見られるわけにはいかないからだろう。


幸い、目撃した平民たちには、彼女がどこの貴族令嬢なのかまでは分からないはずだ。

髪が元の長さに戻るまでは、グローリアはこの国へ帰ってくることはできないだろう。


一方、サンドーロル公爵家は、もう一人の婚約者候補である公爵令嬢の家が今回の一件に関与したのではないかと疑い、調査を進めているらしい。


だが、大々的に調査を行えば、グローリアが何者かによって襲撃された事実まで広く知れ渡ってしまうおそれがある。


表沙汰にできない事情を抱えたまま、秘密裏に調べなければならないのだから、サンドーロル公爵家としても歯がゆいことだろう。

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