前編
ルナリア・リシャール、七歳になりました!
あれから二年。
わたくしは、美幼女の殻を脱ぎ捨て、美少女への階段を一歩、登り始めたのでございます。
ソラも剣の訓練を始め、以前より少し逞しくなりました。
手には剣ダコもできております。
やはり、わたくしの伴侶は頼もしいですわね。
そして、あの女はというと………隣国へ逃げるように留学してしまいました。
どうやら、わたくしが千切った髪が元の長さに戻るまでは、帰国しないだろう、とのことですわ。
ガーン!!でございます。
あのとき、髪さえ千切らなければ………!
復讐相手が二人とも隣国にいるため、七歳のわたくしには、今のところ手出しができません。
仕方がないので、復讐ノートにやることリストを書き散らかし、鬱憤を晴らす日々でございます。
アルバート殿下は、もう一人の婚約者候補だった赤髪の女性ーーロクサーヌ・ハワード公爵令嬢と婚約なさいました。
サンドーロル公爵家は猛反対したそうですが、肝心の婚約者候補だった令嬢が、いきなり他国へ留学してしまったのですから、さすがに勝ち目はありませんでした。
ロクサーヌ様も、以前は『アレ』な令嬢だと思われておりましたが………どうやら、あのグローリアに対抗するため、精一杯武装していたのでしょう。
グローリアという強敵がいなくなり、分厚い戦闘服を一枚ずつ脱ぎ捨てた彼女は、現在とても穏やかな女性になっております。
アルバート殿下との仲も、それほど悪くはないようですわ。
………やはり、あの女はいないに越したことはありませんわね。
そして、王妃殿下から、こんなことを言われました。
わたくしに社交界での地位や国民からの人気があれば、ロクサーヌ様と仲良くするだけで、グローリアやサンドーロル公爵家への嫌がらせになるのだそうです。
……なぜそうなるのか、わたくしにはさっぱり分かりません。
ですが、王妃殿下がそうおっしゃるのですから、そうなのでしょう。
というわけで、わたくしは現在、徳を積むために鋭意努力中でございます。
第一歩といたしまして、わたくしは治癒魔法の訓練に精を出しております。
治癒魔法を鍛え、奉仕活動を始めることこそ、人気者への近道なのだそうです。
本来、わたくしは攻撃魔法の方が好きですし、ソラと一緒に剣の訓練だってしたいのですけれど………こればかりは致し方ありません。
さらに、社交界での地位を築くためには、淑女としての評判を高めることも大切なのだそうです。
そこで、わたくしは七歳にして、人生最大の壁にぶち当たりました。
それは………わたくしが最も忌み嫌う授業、刺繍でございます。
………ええ、あの悪夢のような針仕事ですわ。
淑女の嗜みとして、どうしても身につけなければならないらしいのです。
ソラへの贈り物にするのだと、自分に言い聞かせ、何とか頑張っているのですが………。
最初に用意される布は、もちろん真っ白なものです。
ところが、刺繍を終える頃には、なぜか赤いまだら模様の布へと変貌を遂げております。
そんな凄惨なわたくしの刺繍を目にしたアルバート殿下は、息もできぬほど大爆笑なさいました。
挙句の果てには、『呪いのハンカチ』などといいう、まことに不名誉な称号まで賜ったのです。
あまりにも腹が立ちましたので、ソラと共謀し、殿下の靴の中にすりおろしたトロロット芋を仕込んで差し上げました。
殿下は顔を真っ赤にして、必死に痒みを堪えておられましたわ。
足など掻いた日には、水虫だと思われてしまうでしょうからね。
いい気味ですわ。
(ちなみに、そんなイタズラは影たちはもちろんのこと、騎士や女官に至るまで、皆が気づいていたが、アルバート殿下にも多少なりとも非がある………。ルナリアがもっと大きなイタズラを引き起こすくらいなら、こうしてこまめにストレスを発散させておいたほうがましだと判断し、誰もが見て見ぬふりをしていたのだ。
しかし、いざアルバート殿下があまりにも辛そうにしている姿を目の当たりにすると、あのとき止めておけばよかったとひどく後悔することになった。)
それでも、刺繍の授業や繊細な魔法の訓練で、あまりにもストレスが溜まったときには、影のオジサマに土魔法でグローリアに似たゴーレムを作っていただき、それを思い切りしばき回すことで発散しております。
あの事件以来、影のオジサマたちとはすっかり仲良しになりました。
はぁ………七歳にして、これほどストレスの溜まる生活を送ることになるとは、まったくもってつらいものですわ。
けれど、何事も、『千里の道も一歩から』というらしいのです。
………人気者への道は、なかなか厳しいものですわね。




