第41話 初めてのおつかい
検死結果が出るにはまだ早い。そのため、ハルたちはその間に容疑者であるリト・ウィーラーの調査を行うことにした。
家族構成や通っている高校、人柄、人間関係などは既に判明している。
調べるべきなのは二つ。リトが本当に黒魔法を使っているのか。そして、今回の事件の犯人であるのかどうか。
万が一の危険性を考慮して、この調査は隠密に行う必要があった。
「だからって、私一人で⋯⋯?」
映画館の調査のあと、ライとハルはファミレスで昼食も兼ねたミーティングを行った。
リト・ウィーラーに話しかけて、色の適性を見極めつつ、彼が怪しいかどうかを探ること。
要はそれとなく話しかけて、色々聞き出してこいということだ。
「ライさんのほうが向いてそうなのに⋯⋯」
ライとは別れていた。彼は彼でまた別の用事があるとか言っていたが、おそらくは嘘だ。魔力の揺れを視れなくても、ハルにはわかった。
本当に、一人でやらせるつもりらしい。
「仕方ない。やり遂げないと」
ファミレスを出て三十分ほど歩き、ハルはリトの自宅に到着した。
今日は休日だ。外から見る限りだと、家には人がいた。
まさか、家族がいるというのに自宅で黒魔法の研究をするはずはない。
リトの魔力は事前に確認していた。
まず、ハルは魔力感知で家にリトがいるかどうかを確認した。
「⋯⋯いない」
ハルはインターホンを押した。
しばらくして、母親らしき女性が扉を開けた。
「あ、こんにちは。リト君のクラスメイトです。リト君はいますか?」
「リト? あの子なら出かけたよ。何か用があれば、私から伝えておくよ?」
「いえ。最近、元気がないみたいで気になって⋯⋯」
「あらそうなの? ありがとうね、心配してくれて。あの子にも言っておくわ。⋯⋯あの子、学校のこと全然話してくれないから⋯⋯」
ハルは愛想笑いを浮かべた。
「どこへ行ったかわかりますか?」
「うーん、散歩とか言ってたけど。多分河川敷じゃないかな。すぐに帰ってくると思うから、家に上がって待ってる?」
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯いえ、遠慮しておきます。すみません、急に押しかけて」
ここでリトと顔を合わせると、さすがにまずい。
「いやいや、大丈夫よ。リトがあなたのような別嬪さんに気にかけられてるなんて、思いもしなかったわ。また遊びにきてね」
ハルは最後に礼をすると、その場を後にした。
家から少し離れたところでハルは立ち止まった。
「──はぁー」
そして大きく、息を吐いた。
「や、やっぱり、私、ああいうの得意じゃないかも⋯⋯」
流れるように嘘をついた。少なくとも傍からはそう見えただろう。一言一言、必死に選んでいた。
心臓がバクバクと鳴っていた。
「⋯⋯ふう。すぅ〜、はぁ〜。⋯⋯よし!」
ハルは心臓の鼓動を整えた。
リトの母親から、彼の居場所の見当はついた。このあたりで河川敷といえば一つしかない。
ある程度近づけば、魔力感知で居場所を特定できる。
「⋯⋯魔力を、視る。見るんじゃなくて、視るための目を⋯⋯意識する」
レテから教えられたことをハルは思い出した。こうやって広範囲の魔力感知をするときは、この教えの意味を実感するのだ。
「⋯⋯いた」
河川敷。位置からすると、橋の下だろうか。
ハルはすぐ、そこへ向かった。
そこには、見覚えのある少年がいた。リトだ。
そして、他に三人の少年たち。察するにリトと同年代だろう。
うち一人は、リトの胸倉を掴んでいた。
「⋯⋯っ」
ハルは走り出した。
「そこまでだから!」
ハルは叫んだ。慣れない声量を出したものだから、声が裏返りそうだった。
「⋯⋯あ? なんだ、お前」
リトの胸倉を掴んでいた少年が、ハルのほうを振り返った。その際に、彼はリトを投げるように離した。
「知らねぇ顔だな? なら関係ないだろ」
「イジメなんて駄目だから!」
「はあ? 関係ねぇつってんだろ!」
少年はハルに殴り掛かった。
──意外と、遅い?
ハルは拳を避けて、伸びた腕を掴み、そのまま少年を投げた。
地面に転がった少年は、一瞬、呆然としていた。
「⋯⋯は?」
即座に、残り二人がハルに殴りかかった。
けれど、ハルは二人の拳をなんなくいなした。そのまま間髪入れず、一人、また一人と、カウンターを叩き込んだ。
「⋯⋯ッ!」
三人の少年は動けなくなっていた。
ハルはすぐさまリトの手を取った。
「え」
唖然とするリトを、半ば無理矢理にその場から連れ出した。




