第39話 ロードノイズ
事件記録──高校生三名の変死体がとある映画館にて発見された。犠牲者らの死体は損壊が非常に激しかった。
現場には魔力の痕跡があり、死因は魔法によるものであると暫定判断。
また、該当の劇場には当時四名の観客がいた。うち三名は被害者であり、そして残りの一名は──
「リト・ウィーラー。タイムリーな事件だね」
レンテル魔法大学にはいくつか談話室もとい休憩室があった。
レテは珍しく休憩室の椅子に腰掛けて、缶珈琲を飲んでいた。彼女の隣にはハルが座っていて、二人の前にライが立っていた。
「その人って、今度わたしが調査する人⋯⋯でしたよね?」
「そう。本当なら今日にでもウィーラーくんの高校に潜入してもらう予定だったんだけど、変更。ライの引率で、現場の調査に行ってきて」
レテは、おそらくまたもや強奪して来てきたであろう仕事の資料をハルに渡した。偉いさんの判子がいっぱいあった。
本来担当するはずだった魔法使いらしき人の名前と判子には二重線が引かれており、そこにはハルとライの名前が書かれていた。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯わかりました」
「緊張してる?」
「それもあります」
「それも、の部分には突っ込まないであげるね。⋯⋯キミにとっては初めての実地任務だよね」
「はい。⋯⋯正直、不安です」
ハルは資料を睨んでいるようだった。
「そう緊張する必要もないと思うけどな」
ハルが手に持っていた資料を、ライは覗き込みながらそう言った。
「ただの調査。別に何かを処理しろってわけでもない。魔法的なアレコレを確かめるだけの簡単な任務だ。むしろ、君にとっては得意も得意だろう?」
「です、かね」
「ああ。です、だ」
ハルは資料を折り畳み、ポケットの中に入れた。それから立ち上がった。
「よし、じゃあよろしくね。ライも、ハルのこと頼んだよー」
そう言って手を振るレテを背に、ハルとライの二人は休憩室から退室し、レンテルの校門まで歩いて向かった。
すでに校門には車が停まっていた。
二人は監督者と軽い挨拶を交わし、車に乗り込んだ。
しばらくの間、車の走行音だけが車内に響いていた。
そんな、どこか気詰まりな車内の空気感を破るために、ライは口を開いた。
「さっき、実地任務は初めてって言ってたけど、君は最近あの教室に来たのか? あの教師の性格的に、実地任務なんていくらでもやりそうなものだけど」
「あはは⋯⋯。ええと、たしかにわたしはアイン教室に最後に入りましたけど、今まで実地任務に行けなかったのには理由があるんです」
ハルは口元では笑顔を作っていたが、視線は少しだけ落ちていた。
「わたし、体弱くて。魔力も少なくて。⋯⋯魔法を勉強したいからレンテルに入ったはいいものの、体力面でついていけなくなって⋯⋯」
「⋯⋯どういうことだ? 昔から俺にとって、魔法使いはかなりの体力仕事ってイメージだったんだが」
「そうですね⋯⋯中学まででやる魔法はほぼ座学でした。高校も魔法は座学しかやってこなくて。やっても魔法を使うだけ、魔法陣を描くだけで、魔法を使ってどうこうするって、やらなかったんです」
「なるほど。で、いざ大学に来てみたら、いきなり魔法でドンパチやらされるし、手と足動かして色々調査しろって言われるし、それで体力が持たなかったってわけか」
「そうなんです⋯⋯なんか、馬鹿みたいですよね。ろくに調べもせず、進学するだなんて。そのせいで、みんなみたいに実地任務ができなかったり、普通の授業でも休憩ばっかりしてしまったり⋯⋯あはは」
ハルは乾いた小さな声で笑った。
そしてライは言葉に詰まった。平静を装うように微笑を顔に貼り付けて、次の言葉を探した。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯まあ、なんだ。体力なんてあとからいくらでもつけられる。それより、君の並外れた魔力感知能力は魔法使いに向いている才能だし、そっちは簡単には鍛えられない。まずは自分の良いところを見ていこうか」
ライの言葉に、ハルは少し驚いたような様子を見せた。
「⋯⋯ストラーフさんって優しいですね」
「そうか?」
「てっきり、もっと色々言われるかなって思ってました」
「俺をなんだと思っているんだ」
ライは頭を掻いた。
ハルの表情は少しだけ和らいだ。
「⋯⋯ありがとうございます、ストラーフさん」
「⋯⋯はは。ライ、で構わないよ」
再び、車内は静かになった。
走行音だけが響く、先程までと同じ静けさ。
けれど、もう、声が詰まることはなかった。




