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第38話 予防

 レテの研究室は、モノクロームで統一されていた。

 カーテンは白、壁も白。床は黒で、本棚も黒。

 彩度があるのは本の表紙や魔法研究用の道具、何かのクリスタルくらいなものだった。


「それで、話って?」 


 休日であったが、レテはライを呼び出していた。

 彼の真っ黒な服装はこの研究室によく似合っていた。


「ん、ちょっとまって」


 レテは青色のクリスタルを左手の平の上に浮かせつつ、右手に持った用紙を読み込んでいた。

 何かを口ずさむと、黄色の魔法陣が展開された。

 するとクリスタルは円を描き始めた。残像ができるほど加速していたが、急にピタリと止まった。


「なんの実験だ、それ」


「黄魔法で時間操作できないかの実験」


「は?」


「時間操作は白魔法。黄魔法の分野じゃないって? まあそうだね。理論説明したら面倒だから省くけど、加速による時間干渉だよ。知り合いの論文読んでたら思いついてさ」


 レテはクリスタルと用紙を近くにあった机の上に置いた。


「研究ってそんな思いつきで始めるものなのか⋯⋯?」


「そんなもんだよ、少なくとも私にとっては。疑問を持つから、知りたくなるんだよ」


 そして、いつものように彼女は空中に座った。


「さて。本題だね。とは言っても、そんな大したことじゃない。キミには生徒の任務に同行してほしくてね」


「任務? 監督役として? アイン教室の面々なら、アルスが適任だろう」


 先日、アルス、エイリフ、ゼアンの三人が実習として、ある廃屋敷の調査任務を行っていた。

 その結果は上々。レテの予想より早く、任務を終えていた。


「今回のは違うんだよね。アルスさんには、ある意味向いてない」


「ある意味?」


「ん。黒魔法の違法使用の疑い。それの調査だよ。ただ色々と込み入った事情があってね。アルスさんじゃ何やらかすかわかんなくて」


「バレずにさりげなく探りを掛けたいと? たしかにアルスなら直接聞き出しに行きそうだな。そういうの苦手そうだし」


「そうそう。アルスさんは記憶なくても性格は昔と変わってないしね。多分、直接聞いて、それで解決しかねないんだよねー」


「そうか。で、誰が担当するんだ?」


「ハル。あの子の成長にも繋がるから」


 ライは顎に手を当て、一瞬だけ黙った。


「⋯⋯お前ってかなりその立場の権限を濫用してるな?」


「はは。なんのことやら」


 レテは空中から任務の資料を取り出した。彼女はそれを魔法でコピーし、ライの手元に転移させた。


「⋯⋯リト・ウィーラー。男、十七歳、普通高校の在学生⋯⋯」


 ライは件の調査対象のプロフィールを読んだ。

 レテはその内容を端から端まで覚えていた。

 六年前に父親が病死。家族構成は母親、リト本人、妹の三人。兄妹は一緒の高校に通っている。


「⋯⋯そして、リト・ウィーラーはその高校でイジメを受けている」


「そう。黒魔法の使用疑惑には一見関係ないように思えるけど──」


 レテが補足説明しようとしたところに、ライが口を挟んだ。


「いいや、よくあることだ。恨み辛みを抱えた人間が、黒魔法に手を出すことは。で、適性もないからそのまま破綻していくのはもはや通例だな」


 ライはどこか、冷たく言い放った。


「何度も見てきた、って口ぶりだね」


「ある日突然、人が暴れ始めた。魔蝕体が発生した。そういうのを調査していくと、こんなきっかけはありふれてる」


 ライは資料の最後まで目を通して、自らの収納空間に投げ入れた。


「今回もその類だと思ってる。つまり、魔蝕化の事前防止が主な目的だよ」


「ハルにはちと危険過ぎないか? いくら強くとも、魔蝕体の相手には命の危険がある。俺や、あんたでさえも」


「はは。危険のない実習任務だけで魔法使いになった奴らがどんだけ実任務で死んでると思う?」


 レテの言葉に、ライは何も言い返さなかった。


「勿論、死なせるつもりなんてないよ。リスク管理はしっかりやってる。ただ、セーフティネットを見せたら成長に繋がらないってのが私の教育方針。わかる?」


「スパルタだな。表向きは一人でやらせるのか。⋯⋯少しでも危険だと思えば、すぐに助けに入る。それくらいの裁量権は認めてくれよ?」


「無論」


 ライとレテはそれから、任務の工程などを話し合った。

 一時間ほどが経ってから、ライはレテの研究室を後にした。


「⋯⋯魔蝕化ね」


 ライにはリスク管理は徹底していると言った。

 魔蝕化は最悪の想定だ。一度発生すれば、周辺地域の住民が一掃されることも珍しくない。


「そんなのがぽんぽん起こってたら世話ないけど、もっと対策しとくべきかな」


 レテは通信魔法を使い、親友の脳内に繋げた。


「アイディ? 頼みあるんだけど。あと今どこ? ⋯⋯家? 自室? ちょっと待ってて」


 ライにしたように、レテは資料をコピーし、転移の魔法を使った。


「そそ。ハルって知ってる? その子に呪避けでも持たせたくてね。なんかいいのない?」


 通信先の声がしばらく黙っていた。資料を読んでいるのだろう。しかしすぐに返答が来た。


「対魔蝕体も兼ねた呪避けの試作? なにそれ。⋯⋯そうなんだ。テトラも大変だねー。あ、私? 研究室」


 研究室の机の上に真っ黒な金属のペンダントが転移してきた。

 レテはそれを手に取って、簡単に解析魔法をかけた。


「⋯⋯ん、十分。試作というか完成品じゃないこれ? ⋯⋯うん。ありがと」


 レテは通信を切った。

 解析結果を見る限りだと、これは黒魔法を相殺し、魔蝕体の力さえも跳ね除けるらしい。


「これで大丈夫かな。ライならなんとかするでしょ」


 レテは中断していた魔法の実験を再開した。

【人物情報:レテ・アインヴァイス】

 現代における白の特色。二つ名は『白き凶星』。

 現在は大陸魔法連盟のヘキサ協会に所属し、レンテル魔法大学で基礎魔法を研究し、授業で教えている。

 背丈ほどある白髪、赤と青のオッドアイ。左右非対称の白黒の衣装が特徴的。アシンメトリー!

 自他共に認める超絶美少女である。

 16歳であるが、きちんとレンテル魔法大学を卒業している。なぜか必要でもないのに教員免許まで取っている。

 ちなみに入学当時の年齢は10歳。卒業はその2年後。ただし本来は4〜6年ほどかかるし、18歳くらいで入学するのが普通。

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