第33話 継ぎ接ぎ
アルスはエイリフとゼアンの魔力を探した。けれど、見つからなかった。
「〈反響定位〉⋯⋯」
アルスは黄色の魔法陣を展開した。
「⋯⋯どこまで続いてるの?」
アルスは魔法を中断した。超音波が廃屋敷の外見から考えられる範囲を超えてもなお、内部を伝わり続けていたからだ。
少なくとも、建物内部の広さは外見から想像できる広さの倍近くあった。
「空間異常⋯⋯拡張みたいだけど、無限に広がるってあり得るの?」
魔法はなんでもできる技術ではないと、アルスは知っていた。
「なにもわからないけど、二人を探さないと」
アルスは歩き始めた。
廃屋敷の屋内は、窓が閉め切られていることもあって暗い。アルスはそんな闇の中でも鮮明にものを見ることができたが、それでも不安感はあった。
玄関から左右に繋がる通路があった。アルスは左側に進んだ。
歩を進めるたびに木板の軋む音がした。通路の奥の方は黒い靄が掛かっているみたいに暗かった。
いや、違う。
「⋯⋯先が見えない」
アルスは手を伸ばし、そして水弾の魔法を放った。
それがどこかに着弾したような音は、聞こえなかった。
アルスは壁に目印として傷をつけて、しばらく歩いた。しかし、いくら歩いても目印は見えてこなかった。
「ループはしてないのかな? けど、何か違和感があるような」
アルスは来た道を引き返した。
目印をつけた場所からのおおよその距離は、自身の歩幅で数えていた。
だが、そこにあるべき壁の傷はなかった。
「⋯⋯⋯⋯」
アルスは更に戻った。すると、玄関に辿り着いた。
「⋯⋯なるほど」
アルスは赤い魔法陣を展開した。そして適当な壁に、水の弾丸を撃った。
壁は粉砕されたが、外は無かった。代わりに、暗黒が広がっていた。
「壁の向こうは外には繋がってないみたいね」
アルスはこの廃屋敷の構造を考えた。
現状、確認できたことは四つだ。
一つ、内部に侵入したタイミングで、アルス、エイリフ、ゼアンの三人は分断されたこと。
二つ、左の通路を歩き続けても、突き当たりには辿り着かなかったこと。
三つ、傷をつけた場所に戻ったはずなのに、その傷は見つからなかったこと。
四つ、壁を破壊しても、その先は外に繋がっていなかったこと。
「⋯⋯内部の構造が無限に拡張されているのは、ほぼないと考えたい。もしそれを魔法で実現しているとしたら、莫大な魔力が必要になるし、なによりそうなるとどうしようもない。考えても無駄になる」
魔法が奇蹟であったのは、今は昔のことらしい。
少なくとも現代において、無限に空間を拡張する技術は確立されていない。それは白の特色であるレテでさえ不可能なことだと、他ならぬ本人が言っていた。
「可能性は⋯⋯三つ」
この空間異常は、空間を継ぎ接ぎしている。
ループ構造をしている。
あるいはその両方。
「多分、継ぎ接ぎ。ただのループだと〈反響定位〉の結果を説明しづらい」
もしアルスが、継ぎ接ぎによる空間拡張速度を超えて移動することができれば、領域から逃れられるかもしれない。
だが、〈反響定位〉の音波は外に抜けなかった。それは音波でも領域内に囚われていたということだ。
アルスは音速で動くことなどできない。ならば、速度で空間拡張を上回ることは不可能だろう。
「この空間異常が何者かによる仕業なら、その犯人を叩けばいいんだけど⋯⋯」
もしこの空間内に術者がいるとすれば、相手の魔力隠密は相当なものだろう。
例えばライが本気で魔力隠密すれば、おそらくアルスは見つけられない。
そこまでとは限らないが、警戒するに越したことはない。
「⋯⋯うーん、歩いて探し回っても見つからないだろうけど、何もしないよりはマシかな」
アルスはひとまず、一番近くの部屋の扉を開いた。
埃を被ったベッド。木製の机と椅子。ぎっしり詰まった本棚。
なんでもないただの私室だ。
──唯一、ベッドの上に横たわる男の死体を除けば。




