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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第7話 野盗襲撃(1)

 荒野を吹き抜ける乾いた風が、背中の真紅のコートを揺らす。

 俺は首都の方角を見据えたまま、ふと、根本的な問題に直面し、内心で冷や汗を流していた。


(――どうやって、行くんだ……?)


 ゲーム時代であれば、一度でも訪れたことのある街には瞬間移動(ファストトラベル)で一瞬だった。

 だが、ここはもうゲームではない。血が流れ、痛みを伴う現実だ。空中に便利なシステムウィンドウが浮かび上がるはずもない。

 自前の転移魔法で代用できれば話は早いのだが、あいにく今の俺たちのメンバーにその使い手はいなかった。


 鳥人のジズゥや竜人のルティは空を飛べるため、彼らに抱えられて空路を強行するという手段もある。だが、この世界の常識が分からないうちは目立つ行動は避けておきたい。


 消去法で導き出される結論は、恐ろしくシンプルだった。

 ――徒歩である。


 ゲーム最強の異世界転移者の移動手段が、まさかの原始的二足歩行。

 重い足取りを想像し、俺は思わず沈黙した。恨めしげに広大な空を見上げ、やがて諦めとともに足元の荒れた大地へと視線を落とす。

 すると、傍らに控えていたジズゥがベージュのハットを優雅に押さえながら口を開いた。


「……なるほど。あえて空路を避けられるのですね、ユリウス様」

「ん? ああ……」

「空から向かえば迅速ですが、遮るもののない上空では、どこから何者の監視を受けているか分かりませんからね。それに、この荒れ果てた陸路をあえて進むことで、我々臣下の索敵と行軍の練度を確かめようという腹積もり……。流石の深謀遠慮、恐れ入りました」


 俺が曖昧に頷いてみせると、ジズゥはそれだけで確信を深めたらしく、小さく目を細めた。


「ああ。たまには地道に歩いて、お前たちの足腰を鍛え直してやろうと思ってな」


 冗談めかして言い放った一言が、致命的に火に油を注いだ。

 ジズゥはその場に静かに片膝をつき、ベージュのハットを胸に当てて深く頭を垂れた。まるで聖堂で神へ祈りを捧げるような、完璧に様式美を備えた礼だった。


「……っ。飛翔できる種族の(おご)りを捨てさせ、あえて不自由な大地を歩ませることで、我々に『戦いの基礎』を再認識させると……。至高の御身でありながら、泥に塗れる我々の教導に付き合ってくださるその御心、このジズゥ、感謝の言葉もございません」


(――いや、ただ目立つのが嫌で、歩くのが面倒だっただけなんだが)


 内心で小さく合掌しながら、俺は思考を切り替えた。

 いずれは転移魔法の使い手を陣営に引き込むことも、選択肢として頭に入れておく必要があるだろう。

 ――もっとも、フェニックスの件と同じように、そもそもこの世界に転移魔法が存在しない可能性もあるが。


「ジズゥ、ルートを選んでくれ。お前に任せる」


 端的に告げると、ジズゥは一瞬だけ目を見開き――すぐに深く、静かに一礼した。


「……御意。二通りございます」


 彼が挙げたのは、最短だが険しいヴフ山越えのルートと、時間はかかるが平坦な街道を迂回するルートの二つだった。

 ゲームの地理と寸分違わない。どうやらこの世界では、地形までそのまま引き継がれているらしい。


(さて、どっちで行くか――)


 答えは、考えるまでもなかった。


「山越えで行く。多少険しくても、早い方がいい」

「ヤバ、山道っすかぁ。まぁウチ、体力には自信あるんで全然いけますけどぉ」

「よかばい! オイが先陣ば切るけん、任せんね!」

「お任せを。ただ、道中は決して油断なきよう……」


 ユニィが軽く応じ、ルティが血気盛んに胸を叩き、ジズゥが静かにハットのつばを下げる。

 こうして俺たちは、最短ルートであるヴフ山を越えて首都を目指すことになった。


 ◇


 荒涼とした平野を抜け、目の前にそびえ立つ山塊を見上げる。

 これがヴフ山か。


 ――なんだ、この程度か。


 内心、俺は密かに拍子抜けしていた。

 遠目からでは分からなかったが、標高はさほど高くない。元の日本で言えば、せいぜい休日向けのハイキングコースといったところだ。これなら体力的な消耗も少なく、今日中に山越えできそうだな。


「さぁ、行くか!」


 それから一時間後。俺たちは魔獣に襲われることもなく、ヴフ山の頂へと到着。

 とはいえ、平穏無事な道程だったかと言えば、決してそうではない。


 道中でユニィが「マジ無理! だるすぎ! もうウチ、一歩も歩きたくないんですけどぉぉ!」と盛大に駄々をこねる一幕があった。


(体力には自信があると、つい先ほど言っていたはずだが)


 内心でそっと指摘するだけに留め、俺は口をつぐんだ。

 山頂で少し休憩を取り、下山を開始する。


 何事もなく順調に山を下っていたが、中腹辺りに差し掛かったところで、茂みの中から武装した集団が現れ、俺たちの進路を(ふさ)いだ。


「なんや、ワイ(お前)らは?」


 ルティが凄みのある長崎弁で怒鳴ると、集団の先頭に立つバンダナを巻いた大男が、俺たちを小馬鹿にするような口調で答える。


「見て分かんねェのかァ? 野盗だよ、や・と・う」


 これを聞いた取り巻きたちが下品な笑い声を上げ、俺たちを嘲笑している。やっぱり野盗か。見た感じ、このバンダナ野郎が頭目っぽいな。


「その野盗団が、私たちにどのようなご用件でしょうか?」


 ジズゥがまったく動じることなく、冷静かつ優雅な言葉で問い返す。

 平然としているその態度が気に食わなかったのか、バンダナ野郎が語気を強めて声を荒げた。


「テメェらはバカかッ? バカなのか? 野盗がやることといやァ、一つしかねェだろ! 死にたくなかったら、さっさとテメェらの身ぐるみと金を出せッ!」


 火に油を注いでしまったようだ。


 ――野盗の人数は、パッと見で九人。

 人間、鳥人、獣人が入り混じっている。他種族の混成集団のようだ。

 装備品を見る限り、物語の序盤に出てくるザコキャラのような、貧相な見た目だ。人を見た目で判断するのは良くないが、どう見ても強そうには見えない。俺たちなら、余裕で勝てるだろう。


 ――だが、一つだけ懸念がある。

 俺はまだ、この世界の住人とまともに戦ったことがない。だから、万が一がある。そして何より、この世界では蘇生魔法が使えない。死んだらそこで、すべてが終わりだ。命が一つしかない現実だからこそ、石橋を叩き潰す勢いで警戒するしかない。


 だが、主君である俺が、売られた喧嘩に対して下手(したて)に出るわけにはいかない。そんな及び腰を見せれば、彼らを従えるだけの威厳が容易く崩れ去っていく。

 ユニィがいる以上、即死さえしなければ問題はない。

 ――それに、この前ルティたちに『俺は相手の態度に合わせた行動を取る』と公言している。自分で撒いた種だ、今さら摘み取るわけにもいくまい。

 ならば、強気で行くとしよう。


「テメェらみたいなカス共にやる金はねェな。死にたくなかったら、さっさと失せろ」


 真っ向から喧嘩を買ったことで、バンダナ野郎の怒りが沸点に達したようだ。顔を真っ赤にし、血管がブチ切れそうな勢いで怒鳴ってくる。


「こっちはお前らの倍の数はいるんだぞ。死にたくねェんだったら、さっさと金を出せ。マヌケがッ」


(……言葉遣いは悪かったが、命だけは助けてやると警告してやったのに。残念だ。極力、争いは避けたかったんだがな)


 野盗とは、つまり強盗だ。俺たちを殺せば強盗殺人になる。

 理不尽に命を奪い、略奪を働く外道に、温情をかける理由はどこにもない。腐った性根は、死なねば治らないと決まっている。


 俺の背中には『生殺与奪』の四文字。

 ――人の道を外れた者の末路など、知ったことでない。


 よって、躊躇なく、殺すことに決めた――。

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