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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
異世界転移編

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第6話 報告

 ポポル村の中央に建つ、一際大きな家。それが村長の家だ。

 玄関のドアを三度ノックする。

 すると、家の中から「はぁい」とのんびりした声がして、村長が顔を出した。


「これはこれはユリウスさん。ゴブリン退治が終わった報告ですかな?」

「はい。その件で報告に来ました」


 俺はゴブリンたちの洞窟を発見し、長であるアトと直接対話したことを告げた。

その結果、村を襲う意思はないと判断し――退治せずに戻った、と。


 その瞬間だった。

 村長の目がすうっと細くなり、愛想笑いが消える。


「……この村を襲わない、と?」


 低く、粘りつくような声だった。

 しわだらけの顔に浮かんだのは、隠す気もない嫌悪だ。


「あんな醜い奴らの言葉を真に受けるとは……。どう考えても、その場しのぎの嘘に決まっとる。――まさか、本当はゴブリンの数に怖気(おじけ)付いて、逃げて来たんではないでしょうな?」


 村長の冷たい言葉に、俺は冷静に分析する。

 アトさんが『見た目だけで迫害されている』と言っていたが、村長のこの態度を見るに、どうやら本当にこの世界には根深い差別が蔓延しているらしい。


「おいジジイ。こい(これ)以上、ユリウス様ばコケにすっとやったら、ぶち殺すぞ」


 俺が侮辱されたことに激怒したルティが怒鳴りながら、鋭い眼光で村長を睨みつけた。

 本気で殺気を放つルティの迫力に、村長は「ヒッ」と短く悲鳴を上げて後ずさる。


「まぁ落ち着け、ルティ。どう考えても、受けた依頼を達成していない俺が悪い。村長の言い分はもっともだ」


 俺のために自分のことのように怒ってくれる。その忠誠心は、素直に嬉しい。

 ――けど今は、感傷に(ひた)っている場合ではない。俺は今にも飛びかかりそうなルティを手で制し、村長に向き直った。


「当然ですが、依頼を達成していない以上、報酬として約束していた『空き家』の件は無かったことで構いません」

「……と、当然じゃ……」


 依頼未達成だから、拠点にする予定だった空き家の話は無くなった……。

 だが、話が流れて良かったのかもしれない。ポポル村の空き家を借りようとしていたときは俺一人だったが、今はジズゥたちがいる。この空き家に四人は狭すぎるからな。

 報告が済んだ俺たちは、村長宅をあとにした。


 ◇


 俺は、『ミソロジーワールド』の中では超が付くほどの有名人だった。

 そのため、俺が立ち上げたクラン(チーム)への加入申請は、常に山のように届いていた。


 理由は簡単だ。有名人のおこぼれにあやかりたい――要は『利用価値』があるからに他ならない。いつの時代、どこの世界であろうと変わらぬ真理というやつだ。


 全員とは言わないが、ほとんどの奴は甘い汁を吸うために近づいて来る。

 だが、周りからチヤホヤされて図に乗っていた当時の俺はそれに気付かず、加入条件さえクリアしていれば『来る者拒まず』でホイホイと迎え入れていた。そのせいで、クランのメンバーは常に定員上限の百人に達していた。


 大所帯はメリットも多いが、当然デメリットも多い。

 特に、最大のデメリットと言えるのが『人間関係』だ――。


 意見の食い違いによる揉め事、派閥争い、果ては出会い目的の輩まで現れる始末。当然、問題が起こるたびにリーダーである俺が仲裁に駆り出される。

 俺はただ、楽しくゲームをしたかった。それだけだったのに。


 いつしか俺は、度々起こるメンバー同士の泥沼のトラブル処理に追われるだけの日々を送っていた。そうなってくると、ログインすること自体が段々と億劫(おっくう)になってくる……。


 結局、人間関係のすべてが嫌になった俺はクランを解散し、『ミソロジーワールド』を一度引退した――。


 ――それから、半年が経った頃。

 現実世界での『失恋』をきっかけに、俺は久々に『ミソロジーワールド』へ復帰した。

 クランの仲間だと思っていた連中との軋轢、そして――終わった恋。もう十分だった。


 今度こそ、誰とも組まない。

 誰にも、踏み込ませない。


 かつての顔見知りと極力顔を合わせないために、俺はクランの拠点があった【レムリア大陸】を離れ、【アトランティス大陸】へと渡った。

 九つの国家が存在するこの大陸で、俺が目を付けたのは大陸で最も小さな国――王私領トゥランだった。


 だが小国とはいえ、首都や大都市には人が集まる。

 ならばさらに辺境へ。人の気配が薄れていく方向へ足を向けた末に、俺はこの過疎村『ポポル村』に辿り着いた。


 この村には、俺の過去を知る者がいない。

 俺が求めた条件は、それだけで十分だ。


 そして、この村に拠点を構えるための条件が――あの『ゴブリン退治』だった。


 ◇


 村の出入り口に向かって歩いていると、余程ムカついていたのか、ユニィが不満を口にする。


「マジあのハゲ、ムカつくんだけどォ!」


 余談だが、村長はハゲてはいない。白髪なだけだ。


「ユリウス様ぁ。あがん(あんなに)ムカつく奴に、ヘコヘコせんでよかでしょう?」


 ルティも怒りが収まっておらず、不機嫌そうに声を尖らせた。


「二人とも、落ち着け。さっきも言ったが、依頼を達成していない俺に非がある」

「そうかもしれんばってん……」

「己の過ちを認め、頭を下げることは決して屈辱ではない。むしろ、それを認めずに虚勢を張る方が、格好悪いと思わねぇか?  ……もっとも、血気盛んなお前らには、まだ分からねぇかもな」


 ルティは納得いかない表情で問い返してくる。


「じゃあ、年取ったら理解できるようになるんすか?」

「さぁな。だが、少なくとも『無駄な意地』と『譲れない誇り』の区別はつくようになる。……例えばだ。手当たり次第に威圧的な態度をとる愚者がいたとする。何故、そいつらがそんな振る舞いに及ぶと思う?」

「…………」

「己の『弱さ』を隠すためだ。要するに、虚勢だ。弱き犬ほどよく吠えると言うだろう?」

「あ、……確かにそうっすね」

「それと――俺は『傲慢なる輩には傲慢を、礼を尽くす者には礼を』返す主義だ。だから、相手の器に合わせて接したまで。決して媚びへつらっていたわけではない」


 俺の考えを説明すると、ユニィとルティもようやく毒気が抜けたようだった。

 ジズゥはというと、もうすっかり冷静になっている。さすが、我々の良識担当だ。


「ユリウス様。これからはいかがなさいますか?」


 恭しく問いかけるジズゥの言葉に対し、俺は冷徹な表情を崩さずに思考を巡らせた。

 実のところ、この見知らぬ土地に放り出されたばかりの現状において、明確な目的地など何一つ決まっていない。


(――さて、どうしたものか)


 こういう時は、人と情報が集まる場所へ向かうに限る。であれば、この国の中心地――首都こそが最初の足掛かりになる。混沌の中心に飛び込んでこそ、見えてくるものがあるはずだ。


「そうだな。首都に行くか」


――『異世界転移編』 完――

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