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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第25話 建国

 十数分後、俺はルティが守る南方面の陣地へと到着した。


「あっ、ユリウス様! どがんしたとですか?」


 俺は北方面での激戦と、フンとヴクブが戦死したことを手短に伝える。


「……そっスか」


 双子の死を知ると、ルティは悲痛な表情で視線を落とし、ポツリとそれだけを口にした。だが、その両拳はギリッと血が滲むほど強く握り締められている。

 義理堅いあいつなりに、何もできなかった己への怒りと悲しみを必死に噛み殺しているのだろう。


 その後、俺はルティと共にタモアンチャン王国からのキニチ救援軍に備えて待機を続けたが……待てど暮らせど、敵の影すら見えない。

 やはり、そこそこの距離があるため、数時間程度で到着できるはずがないのだ。いずれにせよ、敵が来ないに越したことはない。北の激戦を考えれば、これ以上の無駄な血を流さずに済むのは僥倖(ぎょうこう)だった。


 ――だが、問題はそこではない。

 ククルたちが敵の中枢である王城を襲撃してから……すでに数時間が経過していた。

 それなのに、いまだに何の報告はない。


(……まさか、しくじったのか?)


 じわじわと込み上げてくる焦燥感。キニチ内へ俺かルティを援軍に向かわせるべきか、重苦しい沈黙の中で迷っていた――その時だ。

 王城があるキニチの中心部から、「ウォォォォォォッ!」と空気を震わせるような凄まじい歓声が轟いた。


「ユリウス様、あれは……!」


 俺とルティがハッとして王城の方角を振り向いた――まさにその瞬間、懐の魔法通信機(マジックフォン)が、待ち焦がれたように鳴り響く。

 画面に表示された発信者は――革命の立案者、ククルだ。


『おう、待たせたな』


 通話に出た直後、深く葉巻の煙を吐き出す音が聞こえた。


『待たせたな。アハウ(トゥランの王)と、それに媚びへつらってた側近ども……あとは城内で刃向かってきたカスどもを根こそぎ皆殺しにしてたから、遅くなっちまった。……で、そっちの状況はどうなってんだ?』


 俺はククルに、四方の持ち場での激戦の顛末を伝えた。

 そして――北方面の防衛で、フンとヴクブが戦死したという事実も、誤魔化すことなく正直に口にした。


『…………』


 通話越しに、重い沈黙が落ちる。

 いつもは豪快で感情を爆発させるククルも、こればかりは絶句し、言葉を詰まらせていた。


『……マジか。あいつらが、討たれるとはな……』


 絞り出すような低い声。だが、すぐにククルは鼻を鳴らして気丈に言葉を紡いだ。


『……あいつらの分まで、絶対にこの国を良くしねぇとな。……ところでユリウス、南の防衛だが、必要無くなったぞ』

「必要なくなった? どういうことだ?」

『さっき、オレ様の兄貴から『全軍引き返した』と連絡があった。だから、お前らも中に入ってこい』


 タモアンチャン王国の五陽極(ファイブ・ゼニス)であり、ククルの実兄でもあるケツァルコアトル。彼からの直接の横流し情報なら、確実だ。

 これで南の脅威は消え去り、後顧(こうこ)の憂いは完全に断たれた。


 通話を切った俺は、傍らで固唾を飲んで見守っていたルティへと振り返る。


「……終わったぞ、ルティ。俺たちの勝ちだ」


 俺は王城を見据え、短く、確かな勝利を告げた。


「全軍をまとめろ。キニチの中へ――王城へ向かうぞ!」


 ルティへ指示を出すと同時に、俺は魔法通信機(マジックフォン)を使い、各方面で防衛にあたっていたレヴィやベヒィたちにも連絡を入れた。

 激戦を生き抜いた彼らにも『革命成功』の報せと、王城への集結を伝えるためだ。


 こうして各部隊が続々と首都キニチへと足を踏み入れていくわけだが――俺は、完全に気を抜いたわけではない。

 暗君が死んだとはいえ、狂信的な残党による死に物狂いの奇襲や、予期せぬ伏兵が潜んでいる可能性は十分にある。勝鬨かちどきを上げた直後の緩みこそが、戦場において最も死を招きやすいからだ。


 俺は念には念を入れ、四方八方に索敵魔法を使用できる者を散らばせ、キニチ全体に蜘蛛の巣のような厳重な警戒網を張り巡らせた。


 一切の隙は見せない。

 万が一の事態にも即座に対応できる万全の態勢を敷いた上で――俺たちは、革命の終着点である王城への入城を果たした。


 ◇


 首都キニチの中心にそびえ立つ王城。

 血の匂いが色濃く残る玉座の間で、俺たちは無事に制圧を完了したククルやフラカンたちと合流を果たした。

 だが、誰の顔にも革命成功の歓喜はない。双子の戦死という重い事実が、勝利の美酒をひどく苦いものに変えていた。


「ジジイには、オレ様から報告する」


 重苦しい沈黙を破り、ククルが魔法通信機(マジックフォン)を取り出した。イシュピヤコックとイシュムカネへ連絡を入れるためだ。

 あの二人は、今回の革命で戦闘に参加できない老人や子供などの非戦闘員を守るため、パシルに残ってくれている。


 通話が繋がり、ククルが重い口を開いた。


「……ジジイ、ババア。王城は落とした。革命は……成功だ。だが――」


 革命の立案者としての責任を一身に背負い込むように、ククルは、フンとヴクブが立派に戦い、そして散ったことを静かに伝えた。

 魔法通信機(マジックフォン)の向こうから、微かな嗚咽が漏れる。


『……そうか。あの子たちは、差別のない新しい国を創るために……よく、やってくれた……』


 イシュムカネの震える、けれど気丈に振る舞う声が、静まり返った玉座の間に響き渡った。

 誰も口を開くことができない。

 犠牲なくして成し遂げられる革命などないことは分かっていた。だが、それでも、胸が締め付けられるほどに切ない……。


「二人の死を無駄にはしねぇ。……今日、この日から、王私領トゥランは生まれ変わる」


 ククルが涙を堪えるように力強く宣言し、通話を切る。

 そして俺たちは、玉座の間から続く城の広いバルコニーへと歩み出た。

 眼下には、革命の成功を知り、不安と期待の入り混じった表情で城を見上げる大勢の民衆たちがひしめき合っている。


「皆、聞けェッ! 腐敗した王侯貴族の時代は終わった!」


 ククルの声が、夜風に乗ってキニチの街へと響き渡る。


「今日からこの国に、種族や身分の壁はねぇ! 全ての民が等しく笑える、新しい国の誕生だ!!」


 直後、バルコニーを揺るがすほどの地鳴りのような歓声が沸き起こった。

 玉座の間を満たしていた静寂と悲哀を塗り潰すような、新しい時代を歓迎する民衆の熱狂。

 この熱が冷めやらぬまま、首都キニチは激動の一日を終え、新しい国の夜明けへと続く深い夜へと突入していった――。


 ◇


 ――革命の夜。

 王城の中庭や街の広場では、勝利の祝杯が挙げられていた。その隅では、亡き者たちの魂を弔うための宴席も静かに設けられていた。

 城内には酒と食事が並べられ、種族の壁を越えて誰もがグラスを交わし、笑い合っている。


「ユリウス様、こん酒、美味かですよ!」

「オイオイ、ルティ。あんまり飲みすぎるなよ?」

「ガッハッハッハ! 今日くらいはいいじゃねぇか。俺様もたらふく飲ませてもらうぜ!」


 ルティが上機嫌で酒をあおり、ベヒィが豪快に笑う。その傍らでは、ジズゥやユニィ、レヴィ、パズズたちも、各々のペースで束の間の平和を楽しんでいた。


 その時――ヒュルルルルル……と、夜気を切り裂くような高い音が響き、次いで腹の底を震わせる重低音が轟いた。


 ドォォォォンッ!!


 一瞬、戦火の砲声かと身構えたが、見上げた夜空には巨大な光の華が咲き乱れていた。

 魔法の光ではない。火薬を使った本物の花火だ。

 夜空を彩る大輪の花火を皆で見上げていると、ククルがふいと俺の隣に歩み寄ってきた。


「なぁ、ユリウス。この国の名前、どうする?」

「……名前?」

「ああ。いつまでも腐敗した『王私領トゥラン』のままじゃ、示しがつかねぇだろ? 革命の立案者はオレ様だが、革命軍のトップはお前だ。だから、この新しい国の元首はユリウス、お前だ」

「俺が、か……」

「ああ。だからお前が名前を決めろ」


 俺がこの国のトップ……。

 思い返せば、ヤマの森でこいつらと出会い、成り行きでこの革命に参加することになった。最初から緻密な計画や、崇高な理念があったわけじゃない。ただ、それぞれの想いやノリが重なり合って、ひとつの大きなうねりになっただけだ。

 そう、まるで音楽の即興演奏(セッション)みたいなもんだったな……。

 それぞれが違う音(個性)を持ち寄って、リズムに乗って、ひとつの新しい形を創り上げる。


「即興、か……なら、『ラバダブ国』にするか」


 覚悟を決め、俺は小さく息を吐いてそう口にした。


「ラバダブ? 聞いたことねぇ言葉だな。どういう意味だ?」

「俺の故郷の言葉でな。『仲間と集まって、即興でワイワイ楽しむ』みたいな意味だ。種族や身分も関係なく、みんなで自由にこの国を創っていくって意味にピッタリだろ?」

「ハッ! いいじゃねぇか。『ラバダブ国』か! オレ様は気に入ったぜ!」


 ククルがニカッと笑い、再び夜空を見上げた。


 ドォォォォン!!


 一際大きな連続花火が打ち上がる。

 色とりどりの光が、民衆たちの笑顔を明るく照らし出していた。


 眩い閃光が彼女の横顔を真っ白に染め上げた、その刹那。

 俺は確かに見た。いつもは誰より豪快に笑うククルが、ほんの一瞬だけ、誰にも見せないように指先で目尻を拭うのを。


 パシルで共に育ったフンとヴクブ。彼らと一緒に見たかった景色が、今、彼女の瞳に映っているのだろう。

 爆音にかき消された彼女の唇が、静かに「……よくやったな」と動いた気がした。


 喜びの歓声の陰で、流された血と涙を忘れてはならない。俺たちが成し遂げたのは、まだ最初の一歩に過ぎないんだ。


 夜空に咲いては消えていく光の華。

 犠牲になった双子の命のように、それはひどく儚い。

 だからこそ俺は、絶対にこの世界を統一してみせる。

 この先、二度とこんな悲しい花火を見上げなくて済むように――。


 ――『革命編』 完――

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