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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第23話 決戦の地へ

「おかえりなさい」


 パシルに戻った俺たちを、イシュピヤコックが温かく迎え入れてくれた。


「ただいま戻りました。ククルは帰ってきていますか?」

「いや、まだですじゃ」

「そうですか。俺たちの方が早かったか」


 俺たちがピュトン国と同盟を結びに行っている間、ククルは『ユグドラシル聖王国』へ向かっていた。

 目的は一つ。草刈りから要人暗殺まで、金次第で何でも請け負う何でも屋――『ファフニールファミリー』を、革命のための傭兵として雇い入れるためだ。


 次の日。

 静かだったパシルに、空気を震わせるような豪快な声が響き渡った。


「いよぉ〜、待たせたな! テュポーンとの交渉、上手くいったみたいだな。ユリウスに任せて正解だったぜ」


 オレンジ色の髪を揺らしながら、ククルがドカドカと足音を立てて帰還した。


「そっちも、無事に傭兵は雇えたようだな」

「ああ、バッチリだ! ……ところで、レヴィは?」

「さっき魔法通信機(マジックフォン)に連絡があった。明日の昼には着くそうだ」

「そうか! じゃあ、アイツが来てからみっちり作戦を詰めるとしようぜ」


 レヴィが合流してから本格的な作戦会議を開くことに決め、この日は大きな戦いを前に、各自が鋭気を養うための休息日となった。


 ◇


 次の日。予定通りパシルに到着したレヴィを出迎えると、彼女は見知らぬ三人の男を引き連れていた。


 レヴィの右横には、水色の短髪をツーブロックにした爽やかな風貌の竜人。

 左横には、水牛のような太い角を生やしたおかっぱ頭の巨漢デブ。もっと分かりやすく言うと、サモ・ハン・キンポーのような愛嬌と迫力を併せ持った獣人だ。

 そしてその獣人の後ろには、頭と腕がライオンで、それ以外が鳥の姿という男。どこか焦点の定まらない、まるで薬中のようなヤバい表情を浮かべている。おそらく獣人と鳥人のハーフだろう。


 この三人からは、ただならぬ強者の覇気(オーラ)が漂っている。

 特に目を引くのは、おかっぱ頭の巨漢だ!!

 見た目こそコミカルな太っちょだが、巨体に似合わぬ隙のない立ち姿や、放っている重圧はあのレヴィと互角。間違いなく、彼女と同等の実力者だと俺の直感が告げている。


「約束通り、頼りになる仲間を連れて来てやったぞ!」


 レヴィが勝ち気な笑みを浮かべて胸を張ると、右横の爽やかな竜人が一歩前に出て、優雅に一礼した。


「わたくしはラハブ。イル王国時代よりレヴィ様の圧倒的な力に心酔し、以来、副官を務めさせていただいております。どうぞ、お見知りおきを」

「俺様はベヘモット。ベヒィと呼んでくれ。レヴィとは……()()だ」

「自分はベヘモット兄貴の配下で、パズズと言います」


(ベヘモット!? それって……『ベヒモス』の別名じゃないか!!)


 レヴィと同様、奴が最初から俺の仲間にいなかった理由は不明だ。だが、こんな規格外の戦力が加わるなら文句はない。

 三人が自己紹介を終えると、再びレヴィが喋り始める。


「他にも連れてきたが、残りはヤマの森で待たせてある」

「他って、どれくらいだ?」

「とりあえず、四百ほど連れてきた」

「――四百!? そいつは心強ぇな」


 俺は思わず口角を上げた。


「よし、俺たちも自己紹介をしておこう!」


 俺たち側の自己紹介も手短に済ませると、本格的な作戦会議を開くため、建物内の多目的室へと移動する。

 大きな長机にそれぞれの幹部が席に着き、いよいよ『革命』に向けての最終会議が始まった――。


 ああでもない、こうでもないと、俺たちが地図を囲んで激しい議論を交わす。

 そして数時間後。煙をくゆらせるククルの葉巻が短くなった頃、ようやく具体的な作戦プランが決定した。


 作戦の全容は、以下の三面展開だ。


【一、王城攻略の本隊】

 革命の立案者であるククル、その右腕フラカン、ギルドマスターのイツァムナーを主軸とした部隊で、敵の中枢である王城へ攻め込む。『言い出しっぺが大将首を獲る』という、彼女の強い意志と因縁を尊重した配置だ。


【二、首都キニチの防衛戦】

 王城が襲撃されれば、必ずトゥランの主要都市から大規模な救援部隊がキニチへと押し寄せてくる。さらに南からは、トゥランの同盟国である『タモアンチャン王国』の援軍も想定される。

 その敵軍を首都へ一歩も踏み入らせず、外で迎撃するのが俺とルティ、そしてレヴィ隊の役目だ。さらにイシュピヤコックの息子たちである双子、フンとヴクブの部隊もここに加わる。国内外から殺到する脅威を抑え込むため、俺たち最大戦力を配置して鉄壁の盾とする作戦だ。


【三、二大国への牽制と陽動】

 革命による内乱は、隣国アエネーイス王国から見れば、混乱に乗じてトゥランを侵略する『絶好の好機』となる。その隙を突いた侵攻を未然に阻止し、背後を完全に足止めするのがジズゥとユニィの役目だ。これに、同盟を結んだピュトン軍と、何でも屋『ファフニールファミリー』を投入し、牽制をかける。


 決行日は、今から二週間後だ!


 作戦会議が終了するなり、俺たちは動き出す。

 移動距離が長いジズゥとユニィは、牽制部隊との合流地点であるピュトン国へすぐに出発。王城攻略を担うククルとフラカンも、首都内に潜伏する仲間と段取りを組むためキニチへと向かった。


 俺を含めた残りの防衛メンバーは、決行日ギリギリまでこのパシルで待機となる。

 とはいえ、ただ大人しく待機しているだけでは戦いの勘が鈍ってしまう。俺たちは革命に参加するパシルの戦士たちに実戦形式の訓練を行い、決戦の時に向けて全軍の士気と刃を極限まで研ぎ澄ますことにした。


「そぉら、隙だらけだぞ!」


 俺の木剣が、左右から連携して飛び込んできた二つの影を軽い身のこなしで弾き飛ばす。

 土煙を上げて尻餅をついたのは、イシュムカネとイシュピヤコックの双子の息子――フンとヴクブだ。


「いってぇ……さすがはユリウスさん。ククル姉ちゃんが認めるだけのことはある。でも、次は絶対に一撃入れてみせるからな!」


 泥だらけの顔で笑う二人の瞳には、死地へ赴く恐怖よりも、明日を切り開こうとする強い光が宿っていた。

 彼らにとってこのパシルは、絶対に守り抜くべき『楽園』そのものなのだ。


「焦るな。お前たちは決して弱くない。だが、死んだら終わりだ。絶対に無理はするなよ」

「わかってるって!」


 ――そして。

 血の滲むような訓練で一日、また一日と時間を喰いつぶし、運命の決行日、その二日前を迎えた。


「よし、行くか!」


 パシルから首都キニチまでは、丸一日はかかる。道中での不測の事態に備え、俺たちは時間に余裕を持たせて決行の二日前に移動を開始した。


 深い森を進み、途中、ヤマの森で待機していたレヴィの兵たち四百名と合流を果たす。そこで短い休息を取って腹を満たした俺たちは、今日の目的地である中継地点『ヴフ山』を目指して再び腰を上げた。


 パシルの戦士とレヴィの兵。合わせれば、総勢七百名にも及ぶ軍勢となる。

 これだけの大軍が堂々と街道を練り歩き、キニチへ向かっている姿を目撃されれば、即座に正規軍の耳に入ってしまうだろう。奇襲を前提とした今回の作戦において、事前の情報漏洩は致命傷になりかねない。


 そのため俺たちは、人目に付くポポル村のルートを大きく迂回し、息と足音を殺しながら、道なき獣道を通ってヴフ山へと向かう隠密行軍を続けた――。


 ◇


 ヴフ山の山頂で一夜を明かした俺たちは、ついに決戦の地、首都キニチへ向けて出発した。

 山を下りたところで、俺は魔法通信機(マジックフォン)を取り出し、王城攻略の本隊を率いるククルへ連絡を入れる。


「いま、ヴフ山を下りたぞ」

『分かった。じゃあ、手筈通り事を起こす。ユリウス、外から来る敵の迎撃は任せたぞ』

「ああ、そっちこそしくじるなよ」


 短い通信を終え、俺たちは引き続き周囲を警戒しながら移動し、ついにキニチ郊外へと到着した。


「心配はしてないが、死ぬなよ」

「わっちを誰だと思ってる? そっちこそしくじるなよ」

「ああ」


 レヴィと不敵な笑みで短い別れの言葉を交わし、俺たちはそれぞれの持ち場へと散った。


 この郊外で、事前に潜伏していた住民の志願兵二百名が合流。俺たちの戦力は総勢九百名となり、それぞれの持ち場へ移動する。


 全軍の配置は以下の通りだ。俺の隊が百名で西方面。レヴィ隊は二百名で東方面。フンとヴクブ隊は五百名で北方面。そしてルティ隊が百名で南方面の守りに就く。


 フンたちの部隊に比べ、俺やルティ、そしてレヴィの隊が極端な小隊なのには明確な訳がある。

 俺とルティが率いるのは、レヴィが連れてきた四百名の兵を分割した生粋の精鋭部隊だからだ。レヴィ本人が「わっちの部下なら、二百人もいれば十分すぎる」と豪語したため、俺とルティで百名ずつを貰い受け、残りの二百名をレヴィ本人が率いるという少数精鋭の布陣にしている。


 逆に、一番人数の多い五百名をフンとヴクブの隊に割いたのにも理由がある。彼らが率いるのは、パシルの兵と、キニチ内で密かに待機していた『革命に参加する住民たち』の混成部隊だ。

 レヴィの精鋭兵と比べると、どうしても個々の戦闘力では劣ってしまう。だからこそ、一番数の多い五百名を彼らに任せ、『個の力』の差を『圧倒的な数』で補う厚い壁としているのだ。


 この戦力差を踏まえた上で、キニチを囲む四方の防衛戦略はこうだ。


 まず、俺が守る西方面。ここへ向かってくる敵の出処は、第二都市ティカルだ。だがティカルは、隣国アエネーイス王国に対する防衛都市の役割を担っている。

 常に他国の侵攻を警戒しているため、キニチの反乱鎮圧に向けて迂闊に大軍を動かせないはずだ。――もし、その定石を無視して動いてくるようなら、俺がこの手で捻り潰す。


 次に、フンとヴクブが陣取る北方面。ここは港町シバルバーから、正規軍が雪崩れ込んでくると予想される。


 そして、レヴィが守る東方面。ここへは第三都市パレンケから、反乱を潰すための鎮圧部隊が押し寄せるだろう。だが、あいつは手元に残した二百名の精鋭たちと共に、東からの脅威を完全にシャットアウトする構えだ。


 最後に、ルティが守る南方面。ここへは同盟国タモアンチャン王国がキニチの危機を救うべく『救援部隊』として介入してくると予想されるが、これには既にククルが内通者を通じて手を打ってある。

 その内通者とは、ククルの実の兄である『ケツァルコアトル』。タモアンチャン王国が誇る五人の軍団長、五陽極(ファイブ・ゼニス)の一人だ。彼がキニチへの援軍として派遣された場合は、そのまま俺たち側に寝返る算段となっている。


 ――だが、この南の防衛には一つだけ懸念材料がある。

 もし、ケツァルコアトルが『救援部隊』に選出されなかった場合だ。その不測の事態が起きた時は、俺かレヴィの隊が遊撃として即座にルティの応援に向かう段取りとなっている。


 全ての隊が配置につき、不気味なほどの静寂が降りる。

 祈りなど、俺には似合わない。それでも、この静寂の中でただ一つだけ――誰も死ぬなと、そう思った。


――――


■ 本隊(王城制圧)

担当: ククルカン、フラカン、イツァムナー

敵想定: 王族近衛兵とキニチ軍


■ 東方面(迎撃)

担当: ユリウス隊(100名)

敵想定: 第2都市ティカル


■ 西方面(迎撃)

担当: レヴィ隊(200名)

敵想定: 第3都市パレンケ


■ 南方面(監視・防衛)

担当: ルティ隊(100名)

敵想定: タモアンチャン王国


■ 北方面(激戦地)

担当: フン & ヴクブ隊(500名)

敵想定: 港町シバルバー


■ 国外牽制(特殊任務)

担当: ジズゥ、ユニィ、ピュトン軍、ファフニール一家

対象: オリュンポス帝国 & アエネーイス王国

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