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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第19話 引っ越し

 レヴィアタンが協力してくれることが決まり、簡単な自己紹介を済ませると、ククルが今後の行動について話し出した。


「オレ様はこれから街へ戻り、ギルマスに『クズ共――黒き稲妻がゴブリンに殺され、代わりにオレ様が退治した』と報告に行く。ユリウスたちは下僕と共にゴルブリンたちを移動させておいてくれ」

「移動させるのはいいが、具体的にどこへ?」

「そこの下僕について行けばいい。頼んだぞ、下僕ゥ」

「へぇっ……! 姐さんのご命令とあらば、喜んでぇ〜!」


 ククルに顎で使われ、フラカンが頬を染めながら身をよじって答える。

 ……さっきも引いたが、こいつ本当にガチのドMなんだな。


「で、フラカン。ゴブリンたちをどこに移動させるんだ?」


 俺が尋ねると、フラカンは先ほどまでのデレデレとした態度を一瞬で消し去り、感情を殺したキリッとした表情でこちらを向いた。


「『クグマッツ山』だ。僕がそこへ案内する」


 ……おい、さっきまでの変態ぶりはどこへ行ったんだ。

 急に有能な右腕の顔になりやがって。見ているこっちの情緒が追いつかない。


「そこは安全で、これだけの人数が暮らせるスペースがあるのか?」

「問題ない。……着けば分かることだ」


 彫刻のように冷たく、一切の隙を感じさせないフラカンの横顔。

 さっきまで身をよじって(えつ)に浸っていた男と同一人物とは、口が裂けても思えない。この圧倒的な『仕事人』としての静謐(せいひつ)な威圧感。


(こいつ、ククルの前以外では、相当なキレ者なんだろうな)


「ユリウス様、引っ越しの準備ができましたのじゃ」


 そこへ、長のアトが荷物をまとめたゴブリンたちを引き連れて報告に来た。

 それを見た俺たちはククルと別れ、移動を開始する。


「ところでフラカン、そのクグマッツ山までどのくらいかかるんだ?」

「もう夕暮れだ。今からこの大所帯で出発するとなれば、到着までに三日はかかるだろう。僕たちだけなら明日の夜には着く計算だが……今は彼らの足に合わせる必要がある」


 三日か!

 足の遅い子供や老人のゴブリンもいることを考えれば、それなりに長い旅になりそうだな。


 ◇


 クグマッツ山に向かう道中、レヴィアタンがふと俺たちに提案をしてきた。


「なぁ、わっちもお前たちみたいに愛称で呼んでくれないか。その方が仲間っぽくていいだろ?」

「そうだな。じゃあ……今後は『レヴィ』って呼ぶことにするよ」

「レヴィか、悪くないな。気に入ったぞ」


 以後、彼女のことはレヴィと呼ぶことになった。少しずつだが、組織としての連帯感が生まれてきた気がする。


「ところでレヴィ、一つ聞いときたいことがあるんだがいいか?」

「なんだ?」

「レヴィがいたイル王国が、ラーマ帝国に滅ぼされたと聞いたが……お前ほどの実力者でも、連中には太刀打ちできなかったのか?」

「あぁ、そのことか。勘違いするなよ? 皇帝ブラフマーやその側近のシヴァ、ヴィシュヌ……。奴らもわっちと同じ十傑座(テン・カディナル)に名を連ねてはいるが、サシの勝負ならわっちの方が勝つ」


 さらりと、恐ろしいことを言う。

 この女なら本当にやりかねない――。そう思わせるだけの覇気(オーラ)が、彼女にはあった。だが、その直後。レヴィの瞳に、ふっと深い(かげ)が差した。


「……だがユリウス。戦は、個人の武力だけで決まるもんじゃない」


 レヴィは自嘲気味に笑い、伏せた長い睫毛(まつげ)を微かに揺らす。


「いくらわっちが最強の矛でも、腐敗した上層部が判断を誤り、無謀な戦火を広げてしまえば、わっち一人がどれだけ足掻いたところで国は守りきれん」


 もし彼女の言葉が誇張でないのなら、この世界において文字通り単独最強クラスの実力者ということになる。

 そんな化け物じみた武力を持つ将軍ですら、時代の奔流と身内の腐敗には勝てなかった。その言葉の重みに、俺は喉の奥が熱くなるのを感じた。


 傾きかけた夕陽が、彼女の横顔を朱く染める。

 吹き抜ける夕風に髪をなびかせ、遠くを見つめるその姿は。

 あの日、繋ぎ止めることができなかった『彩乃』の面影をあまりに強く想起させ、俺は思わずかけるべき言葉を失った。


 ……まぁ、いくら十傑座(テン・カディナル)といえど、多少は話を盛っている部分もあるんだろうがな。

 そんな話をしながら進むうちに、完全に陽が落ち、辺りはすっかり暗闇に包まれた。


「視界が悪くなってきたが、フラカン。何か対策はあるか?」


 俺が尋ねると、フラカンがキリッとした表情で即答する。


松明(たいまつ)を使う」

「松明か。それなら、俺が道を照らそう。ちょうど試したい魔法があるからな」


 俺は集団の真ん中へ移動し、左手を頭上に突き出して唱えた。


「レグルス」


 俺の手のひらの上空に、ふわりと柔らかな光の球体が生み出される。

 【レグルス】は【シリウス】と同じく、光を生み出す宇宙魔法だ。違いはその明るさ。【シリウス】を強とするなら、【レグルス】は弱の光量に相当する。いわば、下位互換の魔法だ。


 前回【シリウス】を使用したときは、輝きが強すぎて失敗した。だが、この【レグルス】は眩しすぎず暗すぎない。

 リビングをシーリングライトで照らしているような、絶妙な明るさだ。これなら行軍の邪魔にもならない。


「おおっ、一気に見やすくなった!」


 ゴブリンたちから感嘆の声が上がる。

 視界の問題が解決したことで、俺たちは再び、夜の森をクグマッツ山へと向かって進み始めた。


 ◇


 洞窟を出発して、ひたすら歩くこと二時間弱。俺たちはようやく、薄暗いヤマの森を抜け出した。

 視界が開け、夜の帳が下りた草原が目の前に広がっている。


 ここで、先頭を歩いていたフラカンが足を止め、キリッとした表情で振り返った。


「今日はここで野営とする。各自、休息を取ってくれ」


 その合図で、全員が持参した携帯食をかじり、寝る準備を始める。

 準備と言っても、テントもなければ寝袋もない。地べたに横になるだけの、完全な野宿だ。

 正確に言えば、俺の異空間収納(アイテムボックス)には野営用の便利道具が一式揃っているのだが……子供や老人のゴブリンたちが冷たい土の上で丸まっているのに、自分だけふかふかのテントで寝るのはさすがに気が引ける。ここは我慢どころだ。


 魔獣からの襲撃を警戒し、非戦闘員のゴブリンたちを中央に配置。俺たち主戦力がその周囲を囲むように陣取り、交代で休息を取った。


 翌朝。眩しい朝日が目に差し込み、意識が浮上する。


(さぁ、今日も一日頑張りますか)


 魔法で生み出した水で急いで顔を洗い、身支度を整える。

 フラカンが遠目に見える険しい山を指差し、本日のルートを説明した。


「今日は、テペウ山を越えたところまで行く」


 これを聞いたゴブリンの子供たちは「え〜っ!」とあからさまに駄々をこねたが、大人たちが必死になだめ、なんとか出発の準備が整った。

 飲み水に関しては水魔法使いのレヴィがいるので全く問題ないが、問題は食料だ。この大所帯を満たす今日の晩飯が心もとない。


「なぁフラカン。今日の食糧はどうする予定だ?」

「目的地に着くまでの道中で魔獣を狩り、それを食料に充てる。……さぁ、出発だ」


 フラカンの号令で、二日目の行軍が開始された。

 草原を突き進むこと数時間。不意にフラカンが歩みを止め、短く『止まれ』と発した。


「――どうした?」

「……エリュマントスがいる」


 エリュマントス。元のゲームにも登場した、四本の鋭い牙を持ち、サイほどの巨体を誇る猪型の魔獣だ。

 フラカンの視線の先を追うと、三頭の巨体が草むらを揺らしているのを視認。ゲーム画面で見るより、生で見る方が圧倒的に迫力がある。


「狩るのか?」

「ああ、今日のメインディッシュにする」


 誰が狩りに行くか話し合った結果――公平にジャンケンで決めることになった。

 その結果、俺、ユニィ、レヴィの三人が見事(?)勝ち残る。


「わっちは右のやつを狩る」

「じゃあ、俺は真ん中を。ユニィ、左のやつを頼めるか?」

「おっけ〜! まかせといて!」


 俺たちはそれぞれの標的に向け、同時に駆け出した。

 距離が近づくと、エリュマントスは俺たちに気づき『ブフォッ! ブフォッ!』と激しい鼻息で威嚇してくる。さらに間合いが縮まると、剛毛を逆立て、完全に攻撃態勢に入った。


 ――次の瞬間、地響きを立てて俺を目掛けて突進してきた。

 もし俺が討ち損じれば、後ろのゴブリンたちの列に突っ込む可能性がある。よって、確実に仕留めなければならない。


 一直線に迫る巨体。俺は闘牛士(マタドール)のように直前で体をずらし、すれ違いざまに剣を振り下ろした。

 一閃。エリュマントスの巨大な首が宙を舞う。


 絶命した獲物を異空間収納(アイテムボックス)に収納し、みんなの元へ戻ると、ゴブリンたちが拍手で出迎えてくれた。

 レヴィとユニィも、余裕の表情でこちらに向かってきている。どうやら無事に仕留めたようだ。


 それから歩くこと一時間。ようやくテペウの山の麓に到着した。


「山越えの前に、昼飯にしよう」


 フラカンの提案で、さっき狩ったエリュマントスを解体し、ルティの炎魔法で

豪快に丸焼きにした。

 異空間収納(アイテムボックス)から調味料を取り出して味付けをすると、

香ばしい匂いが辺りに広がった。一口齧れば、肉汁が溢れ出す。野趣はあるが、悪くない。むしろ、かなり良い。


 昼食後、テペウ山への入山を開始。

 急な坂道を二時間ほど歩いて山頂に到達し、小休止を挟んで一気に下山。夕暮れ時、ようやく麓の平地まで辿り着いた。


「ここからあと四時間ほどで、最終目的地のクグマッツ山に着く。……このまま移動するか、ここで一泊するか、決めてくれ」


 フラカンが俺に判断を仰ぐ。俺としてはさっさと着きたいが、これは俺の一存では決められない。


 話し合いの結果、子供や老人の疲労が限界に近いため、無理せずここで一泊することに決まった。

 晩飯はレヴィが狩った分のエリュマントスと、山中で採取したキノコの炒め物。腹を満たした俺たちは、明日の終着点に向けて早めに就寝した。


 翌朝。いよいよ最終目的地へ向け、最後の移動を開始する。

 テペウ山とクグマッツ山は隣接しており、野営地から三十分ほどでその麓が見えてきた。


「あとは、この山の中腹まで登るだけだ」


 フラカンの言葉に、ゴブリンたちが「うぉ〜っ!」と歓喜の叫びを上げる。

 うるせぇと思ったが、過酷な三日間の移動を経てようやく終着点が見えたんだ。そのやる気、今は尊重してやるか。


 麓で少し休憩を入れた後、目的地を目指して斜面を登り始める。

 そして数時間後――。

 ついに俺たちは、目的地である『クグマッツ山の中腹』へと到着した。

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