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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第17話 ククルカン(3)

「種族や身分なんていう先天的な要因で差別されることがなく、誰しもが平等に笑って暮らせる世界を創る。それが、オレ様の夢だッ!」


 差別が無い世界、か……。

 俺も同じことを考えたことがあるから、その気持ちは分かる。だが、果たしてそんな綺麗事が本当に実現できるのか?


 現代社会でも、肌の色や生まれが違うだけで差別は何百年経っても消えていない。この世界でも、同じことが言えるだろう。


「立派な志だ。だが……人間の根底にある差別意識を完全に無くすことなんて、不可能に近いぞ」

「それをやるって言ってんだよッ! だから頼む、お前たちのその規格外の力を貸してくれないか?」


 ククルの瞳には、一切の迷いがない。どうやら本気で差別が無い世界を創り上げるつもりらしい。


「熱意は分かった。だが、協力するかどうかは俺一人の判断では決められん。少し、仲間と話し合うから待ってくれ」

「……ああ、わかった」


 俺たちは彼女から距離を取り、仲間と話し合う。

 ジズゥ、ユニィ、ルティの三人に意見を求めると、返ってきたのは迷いのない言葉だった。


「私は、ユリウス様の下した決断に従うだけです」

「ウチはユリウス様と一緒なら何でもいいよぉ。楽しそうだしねっ」

「オイも、ユリウス様の決めた道ば一緒に進むだけばい!」


 俺に全てを(ゆだ)ねる、か。

 さて、どうするべきか。……そういえば、まだ『夢』という大きな目標しか聞いていなかったな。具体的な内容を聞いてから最終判断を下すとしよう。


 俺たちはククルの元へ戻り、具体的な内容を問う。


「どういった方法で、その差別が無い世界を創る気だ? その具体案次第で決めさせてもらう」


 今まで豪快に笑っていたククルが、一切の笑みを消し、真剣な表情で答える。


「もっともな意見だ。だが、具体的な計画が外に洩れれば、こちらの危険度が一気に跳ね上がる上に、成功率が著しく下がる。だから、今から話す内容は決して他言するなよ。いいな?」


 危険度が増し、成功率が下がる?

 一体何をやらかす気か知らないが、リスクを負ってまで打ち明けるということは、それだけ俺たちを是が非でも仲間に引き入れたいってことか。


「安心しろ。他人に漏らすような趣味はない」

「口約束だが――お前たちを信じるぜ」


 その計画は――想像をはるかに超える、過激なものだった。


 ククルから聞いた計画は、こうだ。

 いきなり全世界の認識をひっくり返すのは、それこそ神にでもならなければ不可能。だから、まずは俺たちが今いるこの『王私領トゥラン』から順番に、構造を根本から変えていく。そして最終的には、それを世界共通の常識へと押し広げる。


 簡単に言えば――『革命』だ。


 武力行使による政権交代。そして、このトゥランを起点にして世界を統一し、バラバラだった諸国を一つの巨大な国家へと編入する。

 そうなれば、次の世代、あるいはさらにその次の世代が育つ頃には、古い差別の風習は薄れ、誰しもが平等に暮らせる世界になる……という、途方もない規模の計画だった。


 なぜ、『革命』という過激な手段をとるのか。

 それは、トゥランの王侯貴族どもが、国民の苦しい声を無視し、私利私欲のためだけに腐りきった政治を行っているからだという。さらに、他国も似たような腐敗政治が蔓延しているらしい。


 差別のない世界を創るために、武力行使による革命を起こす、か……。

 言葉で分かり合えないなら実力行使しかないのは分かるが、果たしてそれが正解なのか?


 だが冷静に考えれば、国を一つにまとめて、生まれてくる子供たちに悪しき風習を伝えず、文化や価値観を統一させたところで、差別は完全には無くならないだろう。

 ――なぜなら、人の本質として、必ず何らかの違いで優劣をつける者が現れるからだ。だが、今より状況がマシになることは間違いない。


 そもそも、何が正しくて何が悪いかなんて、その時の時代や立ち位置で変わるものだ。『勝てば官軍、負ければ賊軍』という格言がある通り、勝者こそが歴史の正義になる。

 革命を起こせば、対抗勢力は死ぬだろう。だが、何もしなければ、理不尽な差別を受けている者たちが非道な扱いを受け、死に続けるだけだ。

 なら、理不尽に虐げられる弱者を助ける方が、俺の性分に合っている。


「俺も、容姿や生まれで不当な差別を受けるような世界は胸糞悪いからな。協力しよう」


 ククルが、パァッと顔を輝かせた。


「そう言ってくれると信じてたぜ! あとは、レヴィアタンだなっ!」


 ――レヴィアタン!? いま、レヴィアタンと言ったのか!!


 なぜ俺がこれほど驚いているのか。それは、レヴィアタンとはリヴァイアサンの別名だからだ。元のゲームでも屈指の強さを誇る召喚獣。てっきり、フェニックスなどと同じくこの世界には存在しないものだとばかり思っていたが……実在していたのか。


 ――だったら、なぜジズゥやユニィ、ルティたちみたいに、()()()()()()()()になっていないんだ?


「……いまレヴィアタンと言ったが、そいつは何者だ?」

「ユリウスよりちょっと前に、オレ様が声をかけている奴だ」

「ということは、もうお前の仲間なのか?」

「いや、まだ返事待ち中だ。だから、現時点では仲間じゃねぇ。……が、ユリウスたちが加わったことで、あいつも仲間になってくれるはずだ」

「俺たちが加わったことで、レヴィアタンも仲間に? ……どういうことだ?」


 ククルの口から出た予想外の言葉に、俺は短く問い返した。

 ククルは咥えていた葉巻の煙を豪快に吐き出すと、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。


「レヴィアタン――元々はレムリア大陸にあった『イル王国』の将軍だった女だ。だが、祖国は『ラーマ帝国』に滅ぼされた」


 祖国を失った彼女は、この王私領トゥランへと流れ着いたらしい。

 煙の向こうで、ククルが目を細める。


「その噂を聞きつけ、オレ様が直接声をかけに行ったんだがな」


 だが、返ってきたのは冷ややかな保留の言葉だったという。


『わっちも種族差別を無くしたいとは思っている。だが、今のお前たちでは無理だ。革命を成し遂げるという、確固たる勝算を見せてみろ』

「……まあ、こんな具合に一蹴されちまってな」


 ククルがわざとらしく肩をすくめる。

 要するに、当時のククルたちの戦力では、国家転覆など無謀な夢物語だと判断されたわけだ。元将軍というだけあって、その目は冷静なまでに現実を直視しているらしい。


「だが、状況は変わった」


 俺の言葉に、ククルがしてやったりとばかりに指を鳴らした。


「そういうことだ! 規格外の力を持つお前たちが加わったことで、オレ様たちの戦力は跳ね上がった。これなら十分に勝算はある」


 つまり、俺たちの圧倒的な戦力をそのレヴィアタンに見せつけ、『これなら国を落とせる』と確信させればいい。


「ユリウスの口から、レヴィアタンを説得してくれ」

「説得するのはいいが……それだと、まるで俺が革命軍の(あたま)みたいになるんじゃないか?」

「ああ、それは構わねぇ。オレ様は革命を起こして世界の常識を変えてぇが、人の上に立って組織をまとめるような『めんどくせぇ役割』はご免だからな」


 ククルは悪びれる様子もなく、カラカラと笑い飛ばした。


「それによォ、規格外の力を持つユリウスが革命軍のトップに立ってくれるなら誰も文句は言わねぇだろ。それに、同胞たちの士気も爆上がりするだろうしよォ!」


 これを聞いたジズゥたちが、食い気味に賛同してくる。


「私は、ユリウス様がトップに立つなら異論はありません!」

「ウチもそれがいい! ユリウス様がリーダーっしょ!」

「オイも大賛成ばい! ユリウス様しかおらんばい!」


 どうやら、俺が組織のトップになることを全員が全力で望んでいる。


 協力するとは言ったが……俺が頭?

 俺は自由奔放に生きたいタイプだ。組織のトップなど、柄じゃない。だが、ジズゥたちが目を輝かせて喜んでいるから、無下にも断りづらい。


 そこで妥協案として、レヴィアタンの勧誘時に限り、暫定的に俺が頭として振る舞うという条件で、この場を収めることにした。

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